2022年11月07日掲載

キャリアマンス2023に寄せて - (2022年版 第1回)一人ひとりが考える自らの人的資本 ~気づきと学びで未来は開ける~

岩佐勇一 いわさ ゆういち
一般財団法人ACCN 会員
1級キャリアコンサルティング技能士

毎年11月は「キャリアマンス」です。
キャリアマンスとは、すべてのキャリア支援職が所属団体・領域を越え、「自律的なキャリア形成が当たり前となる社会」の実現を目指して社会の課題に立ち向かい、【チェンジエージェント】としてのキャリア支援職が一丸となって輪を広げる特別な月間です。
今年の「キャリアマンス2022」に向けて、その事務局を務める一般財団法人ACCNの会員であるキャリアコンサルタントのご寄稿を全2回でお届けします。

1.時代の大きな転換期

 過去の大量生産・大量消費時代、欧米に追いつけ追い越せと私たちの諸先輩は一丸となって働いてきた。現在は人生100年時代、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainly:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字をつないだ語)と表現される環境変化の激しい中で、私たちは時代の大きな転換期にいる。近年では、GAFA(Google、Apple、Facebook〔現Meta〕、Amazon)といった国際的な巨大IT企業が世界を席巻し、今後さらにAI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の発達により、私たちの働き方や組織が求める人材は大きく変化していくことが推測される。
 このような大きな時代の転換期に立つ私たちは、環境変化に適応し生き残っていくため、また環境変化をチャンスと捉え、より良い未来を自ら創っていくためにも「キャリア自律※1」が必要であると考える。

※1 米国カリフォルニア州に拠点を置くキャリア・アクション・センターの「キャリア自律」の定義では、「めまぐるしく変化する環境のなかで、自らのキャリア構築と継続的学習に積極的に取り組む、生涯にわたるコミットメント」として紹介している。

2.企業のミドルシニアが置かれた状況

 このような時代の大きな転換期の中で、企業の現場にいるミドルシニアはどんな状況に置かれているのか。筆者は企業内外で職務開発支援(出向・転籍)やキャリアカウンセリング相談室に通算十数年関わってきた。こうした経験から、企業の現場で見てきたことをお伝えしたい。
 筆者も含め、多くのミドルシニアは企業に「就社」意識で入社し、同質性が重視される中で画一的に育成されてきた。極端に言えば、勤務先企業に一命を捧げ、指示に従うこと、企業の中枢に少しでも近づくために努力を惜しまないこと、その代わり企業からは終身雇用という生活の安定を得ることができていた。
 そのため、過去の経済成長期にあっては、「就社」意識自体は多くの働く人の選択肢であり、決して悪いこととはいえないと考える。問題は「就社」ゆえにメンバーシップ意識が強く、勤務先企業を"卒業"する時期になって、初めてプロフェッショナル意識としての「就職」の考え方が求められ、「自分の活躍の場」を企業内外で見つけられないケースが散見されることである。では、私たちは、どのように自らが持つ資質を最大限に活かせるのであろうか。

3.本当にミドルシニアには活躍の場がないのか

 企業の現場で多くのミドルシニアと個別カウンセリングを続けていくうちに、気がついたことの一つ目は、多くのミドルシニアは自分の「強み」や専門・汎用スキルを持っていないのではなく、それに気づいていないだけという現実である。つまり、自分自身の経験を棚卸しし、かつ自分を可視化・言語化できていないという自己探索不足にあるだけということだ。自分を知るということはセルフマネジメントであり、自分にとっての働き方、生き方の最重要戦略であるにもかかわらず、なぜそのような事態に陥ってしまったのか。
 おそらく、勤務先企業の意向で人事異動も昇格ポストも決定されてきたため、自分自身の人的資本(強み、専門・汎用スキル)を考える必要がなかったこと、また、人事部門も人材育成の観点から人的資本の把握を本人に求めてこなかったことが要因ではないかと考える。
 二つ目は、多くのミドルシニアにとって、勤務先企業や上司の意向に自分を合わせることで職業生活面でのメリットが享受できることから、企業内において同質的な集団の付き合い(懇親会やゴルフなど)を優先してきた。人事異動や昇進ポストも会社任せならば、自ら中長期的な視点で、自分は何を学び、深め、自分自身の価値を向上させていくかという意識が乏しかったのではないだろうか。
 筆者自身を振り返ってみれば、20代では人事部で採用・教育、30代前半ばに海外営業に異動し4年間の海外駐在も経験したが、その次の異動先は再び人事部での採用・教育であった。人事部では海外と触れる機会が少なかったことから英語を学ぶ必然性やモチベーションが乏しくなり、自分自身の価値を向上させていく努力を怠った点を今になって後悔している。

4.ミドルシニアのあなたは一体何者か?

 では、自分自身の経験を棚卸しした上で、自分の価値観、強み、専門・汎用スキルを言語化し、自己理解を深めるにはどうしたらよいのか。
 ここにキャリアの専門職である「キャリアコンサルタント」を活用する意義がある。キャリアコンサルタントの役割を端的に言えば「自己理解と職業理解による意思決定支援」と筆者は捉えている。
 思えば、自己理解とはセルフマネジメントの第一歩である。セルフマネジメントができていないと、仕事において自律し、環境変化に対応する柔軟性やチャレンジ精神を備えた自律型人材に成長し、その延長上としてのキャリア自律もおぼつかないからである。これは日頃、一人のキャリアコンサルタントとしてキャリア自律を標榜(ひょうぼう)している筆者自身の反省でもある。
 筆者が個人面談をしていて毎回感じることは、経験豊富なミドルシニアには必ず仕事経験の「成果」に「強み」が現れているということである。専門性を語れる人は多いが、自分自身の「強み」や汎用スキルを語れる人は少ない。
 経営学者のP.F.ドラッカーは「自らの強みは自らの成果でわかる」※2また、「第一は、こうして明らかになった強みに集中することである。成果を生み出すものに強みを集中することである。第二は、その強みをさらに伸ばすことである」※3と述べている。筆者はミドルシニアから自らの現場経験での学びやアウトプットの仕方、仕事の価値観などを話してもらい、自分は一体何者かとおぼろげでも気づいてもらう時が、一番うれしい。「自ら気づくと人は変わる」と常日頃から感じている。
 ミドルシニアが現場経験を通じて培ってきた「強み」や「スキル」を把握するために効果的なことは、デイビッド・コルブの経験学習サイクルの活用や、一皮むけた経験やベストジョブ、エピソードを話してもらうことである[図表1]
 ちなみに、筆者は一体何者かと問われたら、「転機を支援する人」と答えている。

[図表1]「強み」や「スキル」を把握するために効果的なこと

資料出所:筆者作成

5.主体的な学びと変化対応力

 自らの価値観、強み、専門・汎用スキルに気づきを得た段階で、自分の夢、希望、ミッションに向けた主体的な学びが重要となる。なぜなら、人事異動や昇格は自らコントロールすることは困難だが、適切な学びは最も重要な人生戦略への投資であり、その投資は自分の期待を裏切らないからである。
 今後ますます、人的資本経営が標榜されていくが、私たちはまず一人ひとりが自らの人的資本を捉え、高めていくことが重要になる。なぜなら、自らが人的資本となり、現場経験や主体的な学びを通じた自らの価値を提供し、仕事の相手(顧客)の価値創造に貢献することが、自らの価値を高め、組織・企業の価値を高めることになるからである。
 どのような学びが必要であるかは100人いれば100通りあり、だからこそ一人ひとりのキャリア自律が求められる。そして、特にミドルシニアは、大きな環境変化に自らの変化対応力も実装していくことで、一人ひとりの未来が開けていくものと考える[図表2]
 気づきと学びであなたの未来は開ける。

[図表2]主体的な学びと変化対応力

資料出所:中央職業能力開発協会「キャリア・シフトチェンジ・ワークショップ」を基に筆者作成

【引用文献】

※2 P.F.ドラッカー著 上田惇生訳 (2007)『ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営』(ダイヤモンド社)216ページ

※3 P.F.ドラッカー著 上田惇生訳 (1999)『明日を支配するもの 21世紀のマネジメント革命』(ダイヤモンド社)196ページ

岩佐勇一 いわさ ゆういち
一般財団法人ACCN 会員
1級キャリアコンサルティング技能士

鉄鋼会社出身。総合エンジニアリング会社の総務部長、人事部長、関連会社代表を経て、現在はワークライフ相談室の創設や運営、個別カウンセリングの経験を活かしキャリアマネジメントプロデューサーとして活動中。人事・総務・法務・営業部門と多岐にわたる現場経験を元にした実践的なガイド役として、企業の人事・人材開発部門から共感を得ている。
主な活動領域はキャリア相談室の創設や運営コンサルティング、キャリア自律セミナーや対話型コミュニケーションのワークショップ等。
1級キャリアコンサルティング技能士、ACCN会員、ドラッカー学会会員。

社会でキャリアを考えるイベント

「キャリアマンス2022」(一般財団法人ACCN主催)の2022年のテーマは「学び直しとキャリア」です。キャリアコンサルタントでなくても参加できるイベントも掲載されています。ぜひ、下記サイトをご覧ください。
 https://careermonth.wixsite.com/2022