法律で義務付けられた障害者雇用を巡り、企業に貸農園などの働く場を提供し、就労を希望する障害者も紹介して雇用を事実上代行するビジネスが急増していることが9日、厚生労働省の調査や共同通信の取材で分かった。十数事業者が各地の計85カ所で事業を展開。利用企業は全国で約800社、働く障害者は約5千人に上る。
大半の企業の本業は農業とは無関係で、障害者を雇うために農作物の栽培を開始。作物は販売せず、社員に無料で配布するケースが多い。違法ではないが「障害者の法定雇用率を形式上満たすためで、本当の意味での雇用や労働とは言えない」との指摘が相次ぎ、国会も問題視。厚労省は3月までに対応策を打ち出す方針だ。
多くの企業は障害者に適した仕事を用意し、法定率に見合った人数を雇うのに苦労している。
代行ビジネスは2010年ごろに現れ、事業者、農園数とも年々増加。(1)事業者が働きたい障害者と指導役を募集し、企業に紹介(2)企業が障害者らと雇用契約を結び、事業者に人材紹介料や農園の利用料などを支払う-仕組みだ。農園には複数の企業の障害者が集められ、給与は各企業から支払われる。働くのは知的、精神障害者が多い。
事業者によって運営方法や料金は異なる点もあり、厚労省は昨年1月から全国の労働局を通じて実態を調査。農園は昨年11月末現在、首都圏や愛知県、大阪府、九州を中心に85カ所あった。利用企業は東京など大都市圏が多く、大手の有名企業も複数利用している。
背景には、障害者雇用促進法に基づき一定規模の企業に義務付けられる雇用率が近年、引き上げられてきたことがある。10年前は1・8%だったが現在は2・3%。法定率を満たしていないと、企業は法令順守を問われるほか、官公庁の入札で不利になることもある。
障害者側にとっても福祉目的の作業所での工賃が全国平均で月約1万6千円にとどまる一方、企業に雇用されれば十数万円の月給が得られ、金銭面ではメリットがある。
ただ障害者団体からは批判が多く、衆参両院は昨年12月に成立した改正法の付帯決議で、代行ビジネスを利用しないよう企業の指導などを検討することを政府に求めた。
(共同通信社)