2023年01月27日掲載

BOOK REVIEW - 『パワハラ上司を科学する』

津野 香奈美 著
神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科准教授 
新書判/288ページ/900円+税/筑摩書房 

BOOK REVIEW  ―人事パーソンへオススメの新刊

■ 「仕事量が多いのに、裁量権が低い」「明文化されていないルールが多い」「職場のメンバーに多様性がない」――これらは、パワハラが起こりやすい職場のチェックリスト例として本書で触れているものであり、身に覚えのある読者もいるのではないだろうか。本書は、大学院の准教授として産業保健学等の教鞭(きょうべん)をとる筆者が、自らの研究および国内外の豊富な研究論文を根拠として、パワハラ発生のメカニズムを明らかにするとともに、「どうしたらパワハラを防げるのか?」を解説するものである。

■ パワハラ行為者に関する研究は発展途上だが、パワハラ被害者を対象にした研究により、パワハラ行為者の個人特性や性格特性が報告されつつある。例えば、パワハラ行為者の“7割が上司”“男性が多い”“高い外向性、低い協調性や誠実性をもつ”といった点や、特に周囲に悪影響を及ぼす邪悪な特性(ダークトライアド)との関連性などだ。これらの特性に着目したパワハラ対策として、①行為者に「自ら気付いてもらう」という幻想を捨てる、②口頭ではなく文書注意からスタートする、③管理職登用を検討する際、性格傾向にパワハラ気質がないか、周囲の人にヒアリングする――という3点を提案している。

■ また、パワハラをする上司のリーダーシップ形態として「脱線型」「専制型」「放任型」の3タイプを挙げ、それらの特徴を紹介するとともに、パワハラをしない上司の特徴も提示し、必要となる心構えや行動を詳細に説明している。このように、本書はパワハラに関する知見のみならずマネジメントやリーダーシップにも触れているため、人事担当者、組織の管理職、産業保健スタッフ等幅広い読者にとって学びの多い一冊となっている。本書を片手に、パワハラのみならず“上司の在り方”を考えてみてほしい。

パワハラ上司を科学する

内容紹介
「どうしたらパワハラを防げるのか?」10年以上にわたる研究で、科学的データを基にパワハラ上司を三つのタイプ別に分析、発生のメカニズムを明らかにした。

「パワハラとは何か? どうしたら防げるのか?」――実は、多くの人がわかっていない。著者は、パワハラ測定の尺度を開発し、誰が行為者になり、どのような性格特性の上司がパワハラしやすいかを10年以上にわたり研究。科学的データを基に、実態を明らかにした。「仲がよければいい」「関わらなければいい」など、多くの人がやってしまっている誤った対応を明らかにし、本当に防ぐにはどうすればいいのかに迫った。