2023年03月10日掲載

BOOK REVIEW - 『日本の人的資本経営が危ない』

佐々木 聡 著
パーソル総合研究所 上席主任研究員/立教大学大学院 客員教授 
A5判/200ページ/2500円+税/日本経済新聞出版 

BOOK REVIEW  ―人事パーソンへオススメの新刊

■ 「人的資本経営」がバズワードとなっている。その背景の一つは、持続的な企業価値の向上に向けて、経営戦略と連動した人材戦略に関する経済産業省の検討会報告書「人材版伊藤レポート2.0」の公表にある。本書は、20年以上にわたって「人的資本」の概念に携わってきた筆者が、自身の問題意識に照らして「人的資本の論理と戦略」「人的資本を骨抜きにしない論点解明」「先端をいく企業は何が違うのか」という三つのテーマに分け、人的資本経営の意義と、実現に向けた人事部門の在り方を見ていくものである。

■ メインとなる第Ⅰ部では、人的資本に関わる進化の軌跡と国際比較について触れたのち、人的資本に関連するフレームワークや、人的資本経営の実現のために求められている取り決めへの理解を進める。また、ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)の指標を取り上げ、投資家視点の企業統合報告書の位置づけを示した上で、人事部が“戦略人事”になるための考察を行う。これを受けて、第Ⅱ部では学者やジャーナリストなど有識者と筆者の対談内容を掲載し、人的資本を多角的に洞察する。

■ 第Ⅲ部では、KDDI、サイバーエージェント、SOMPOホールディングス3社の人事部門責任者に筆者が取材して聞き出した「実践の現場の声」をまとめている。本書ではSDGs、ESG、CSR、HCMなど、抽象的で意味を混同しがちな概念の説明から、人的資本経営に関する開示を積極的に行う企業の豊富な事例まで網羅的に紹介している。本書を手引書として、自社の人的資本経営に関する検討を進めてみてはいかがだろうか。

日本の人的資本経営が危ない

内容紹介
長年にわたり人的資本経営に取り組んできた第一人者が、最新調査にもとづいて、日本が持っている強みを活かした戦略的対応をどのように実現すべきかを説く。KDDI、サイバーエージェントなどの“現場の声”も収録。

人的資本経営が話題になっている。ジョブ型雇用への転換と同様に日本型経営の在り方に揺さぶりをかけているかの様相であるが、人的資本情報開示に関する世界的な波に乗って横滑りの形で整えても、本質を見逃して市場からは魅力的な投資対象とみなされなくなるリスクをはらんでいる。このままではジョブ型雇用の時と同じく表面的な対応で終わる可能性大だ。

本書は、パーソル総合研究所が上場企業の経営者、人事部長に実施した最新調査(「人的資本情報開示に関する実態調査」「人事部大研究調査」)にもとづいて、強みを活かした人的資本経営の実現に向けた日本企業の姿と、カギを握る人事部の在り方を提示するもの。客観的なエビデンスによる信頼性がある内容になる。