浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学
事業創造研究科教授
1.はじめに
2022年12月10日、臨時国会閉会日に、障害者総合支援法等の一部を改正する法律(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律)が成立した。これにより、障害者総合支援法などと併せて、障害者雇用促進法も改正された。同法の改正は、障害者の多様な就労ニーズに対する支援や、障害者雇用の質の向上の推進を図ろうというもので、障害者雇用率の算定ルールの見直しや、障害者雇用調整金・報奨金などに関することも含まれている。
また、2023年1月18日には、障害者雇用率を段階的に引き上げていくことが決まった。
企業人事としては、雇用率に関することや、いつから施行されるのかなどが、まず気になるだろう。この機会に、障害者雇用の現状、法改正・雇用率引き上げの内容、さらに今後に向けてどう考えるべきかなどを順に見ていきたい。
2.障害者の雇用状況
2022年12月23日に公表された「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業(43.5人以上規模:法定雇用率2.3%)に雇用されている障害者の数は61万3958.0人で、前年より1万6172.0人増加(対前年比2.7%増)し、19年連続で過去最高となった。
障害の種別に見ると、身体障害者は35万7767.5人(対前年比0.4%減)、知的障害者は14万6426.0人(同4.1%増)、精神障害者は10万9764.5人(同11.9%増)であり、精神障害者の伸び率が大きい[図表1]。
各企業が雇用する障害者の割合(実雇用率)は、11年連続で過去最高を更新し、2.25%となった(前年は2.20%)。一方、法律で定められている障害者雇用率を達成している企業の割合は48.3%(同47.0%)であった。
[図表1]民間企業における障害者の雇用状況
資料出所:厚生労働省「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」(令和4年12月23日)
雇用されている障害者数は右肩上がりで伸びており、障害者雇用は着実に進んでいるようにみえる。しかしながら、課題も指摘されている。2022年6月17日の「今後の障害者雇用施策の充実強化について (労働政策審議会障害者雇用分科会 意見書)」によると、障害者雇用率の達成が目的となり質の確保が不十分となっている側面がある、一般就労の可能性がある障害者を適切な支援につなげるためには雇用施策と福祉施策の連携強化を図る必要がある、これまで就業が想定されにくかった重度障害者や多様な障害者の就業ニーズが高まっているなどといった課題が生じている(下線部は筆者による)。
障害者雇用促進法の改正は、こうした課題を改善しようというものである。一方、障害者雇用率の引き上げは、障害者雇用促進法に基づき、少なくとも5年ごとに設定することとされているもので、2023年度からの雇用率の設定が求められていた。
3.障害者雇用促進法の改正について
今回の法改正は、①障害者雇用と障害者福祉の連携をさらに進めること、②雇用義務の対象となる障害者の範囲を拡充すること、さらに、③障害者雇用の質の向上を進めることなどを主な内容とする。
[1]障害者雇用と障害者福祉の連携の促進
一連の法改正により、障害者総合支援法において、「就労選択支援」という就労アセスメントの手法を活用した新たな障害福祉サービスが創設されることとなった。「就労アセスメント」というのは、就労系障害福祉サービスを利用しようという障害者に対して、本人と協同して就労ニーズの把握や能力・適性の評価を行い、どのような支援や配慮が必要かについて整理することである。これを用いた「就労選択支援」の結果を踏まえて、ハローワークにおいて、職業指導などを行うこととなった(公布(2022年12月16日)後3年以内の政令で定める日)。
[2]雇用義務の対象となる障害者の範囲の拡充
これまで、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者は、これまで雇用義務の対象となっていなかったが、こうした障害者の働きたいというニーズに応えていくため、雇用率の上で、0.5人としてカウントできるようにすることとされた(2024年4月以降)。
なお、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の精神障害者について、当分の間、雇用率の上で、雇い入れからの期間などに関係なく、1人としてカウントできるようにすることとされた(2023年4月以降)
[3]障害者雇用の質の向上の推進
ノウハウ不足などによってなかなか障害者雇用の取り組みが進まない企業があることから、雇い入れやその雇用継続に関する相談支援、加齢に伴う課題に対応する助成金を新設することとされた。
具体的には、障害者雇用に関する相談援助を行う事業者から、原則無料で、雇い入れやその後の雇用継続を図るために必要な一連の雇用管理に関する相談援助を受けることができるようになる。また、加齢によって職場への適応が難しくなった障害者に、職務転換のための能力開発、業務の遂行に必要な者の配置や、設備・施設の設置などを行った場合に、助成が受けられるようになる(2024年4月~)。
4.障害者の法定雇用率の引き上げ
障害者雇用促進法では、企業に、法定雇用率以上の障害者を雇用することが義務付けられている。この法定雇用率が、現在の2.3%から段階的に引き上げられることとされた。具体的には、2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%となる[図表2]。
ただし、業種によって雇いやすさが異なることから、業種ごとに除外率が設けられているが、これが、2025年4月から、それぞれ10ポイントずつ引き下げられる。
[図表2]法定雇用率の段階的引き上げ
資料出所:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
5.雇用確保から雇用の質の向上、さらにキャリア形成へ
もともと、障害者雇用促進法5条には、「すべて事業主は、・・・・障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであつて、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。」と記載されていた。すなわち、雇用の場を与え、適正な雇用管理を行うことが事業主の責務ということである。その昔、この文言に感じ入った覚えもあるが、今回の法改正において、「適正な雇用管理」の後に、さらに、「並びに職業能力の開発及び向上に関する措置」という文言が追記された。事業主は、雇用の場を与えるだけでなく、障害者のキャリア形成の支援について責務があることが明記されたのである。
法定雇用率達成は重要だ。しかし、そこで安心してはいけない。雇用を確保するだけでなく、雇用の質を上げる。雇った障害者の持てる力を伸ばし、しっかり働いてもらう。同時に、障害者雇用と障害者福祉の連携をさらに進め、希望する人には、いろいろな形で働いてもらえるようにする。障害者雇用のための事業主支援の強化も予定されている。雇うだけでなく、雇用の質を上げ、さらに、障害者のキャリアについて考えていくことが求められている。
【引用・参考文献】
・厚生労働省「今後の障害者雇用施策の充実強化について(労働政策審議会障害者雇用分科会 意見書)」(令和4年6月17日)
・厚生労働省「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」(令和4年12月23日)
浅野浩美 あさの ひろみ 事業創造大学院大学 事業創造研究科教授 厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。 社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリアデザイン学会理事、人材育成学会理事、経営情報学会理事、国際戦略経営研究学会理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。 筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学キャリアデザイン学研究科非常勤講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師、成蹊大学非常勤講師など。 専門は、人的資源管理論、キャリア論 |
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