2023年04月14日掲載

BOOK REVIEW - 『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』

小林祐児 著
パーソル総合研究所上席主任研究員 
新書判/336ページ/920円+税/光文社 

BOOK REVIEW  ―人事パーソンへオススメの新刊

■ 近年、「リスキリング」という言葉が日本社会に浸透しつつある。一方で、社会人の学習行動や、その背景にある認知のメカニズムに関する学術的知見が全く参照されず、必要なスキルの教育訓練とその後の就業を目的とする日本の「リスキリング」議論は表層的なレベルにとどまっており、現在の日本は「学びの貧困大国」であると著者は指摘する。

■ 本書では、日本で議論されているリスキリングを、人をスキルの鋳型に入れる「工場モデル」と指摘する。その上で、個人のやる気頼みではなく、動機付けを仕組み化すべき――というのが著者の主張だ。第1章では工場モデルに至っている背景を解説し、第2章ではリスキリングにおいて最大のハードルとなる日本人特有の「学ばなさ」、第3章では次に大きなハードルである従業員の「変わらなさ」をテーマに、日本における問題について論を進める。第4章では筆者が所属するパーソル総合研究所の調査を提示して、「アンラーニング」「ソーシャル・ラーニング」「ラーニング・ブリッジ」の三つがリスキリングを支える具体的な学び行動として見いだされた結果を示し、それぞれの手法を解説する。

■ 本書後半では、リスキリングを促進するための「変化創出モデル」を提案する。リスキリングを本来の創発的な営みに近づけるには「行動変化」「学びのコミュニティ化」「意思の創発」という3領域で仕組み化が必要であるとし、第5章から第7章では3領域の具体的な仕掛けを解説する。日本におけるリスキリングをさまざまな角度から分析した本書には、リスキリングをブームで終わらせないという著者の気概が込められている。従業員の学びに関心を持つビジネスパーソンにはぜひ手に取ってほしい一冊だ。

リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考

内容紹介
個人の「やる気」よりも大切なのは組織の「仕組み」
大規模調査データと学術知見でわかる、大人が「世界一学ばない」日本社会の構造と対策

「リスキリング」とはひらたく言えば、業務上の技術や専門スキルを新しく獲得すること、そしてそれを企業が従業員に促進することである。DX(デジタル・トランスフォーメーション)とあわせて普及しつつあるこの言葉は、「生涯学習」「リカレント教育」などと同じく、広く大人の「学び直し」と捉えられる。

しかし、残念ながら日本の社会人のほとんどは、学びへの意欲が極めて低い。統計データからも、大人が世界一学ばない国であることが明白だ。これは決して個人の「やる気」不足のせいではなく、日本企業の働き方やキャリアの「仕組み」に起因する。大人の「学びの貧困」を解消するために必要な構造改革とは何か。

幅広い調査データや学術知見を基に、日本企業がリスキリングを通じて生まれ変わる方法を提言する。