立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、特定非営利活動法人日本人材マネジメント協会 副理事長
A5判/320ページ/3091円+税/白桃書房
BOOK REVIEW ―人事パーソンへオススメの新刊
■ グローバル化や少子高齢化などの外部環境の変化が組織に多様性と複雑性をもたらした結果、これまでの日本的人的資源管理の特徴であった“個人を同質化するマネジメント”は、“異質な人々を抱えるマネジメント”へのスタイルの変化が求められている。しかしそれは、「個人と組織が適合している」という前提が通用しなくなることも意味する。本書は、①採用や教育を経て組織に適合したはずの個人は、どのように不適合を自覚するのか、②不適合になると個人はどのような適応行動を取るのか、③その適応行動は組織にどのような影響を与えるのか――という一連の動きを個人の適応行動の視点から探るものである。
■ 「適合」について議論する際、本書では「個人」と「組織」とは別に「外部環境(顧客市場)」の論点を含める点が特徴だ。その上で、「顧客志向性」を“外部環境への適応”という意味付けにして、適合と不適合をパターン分けする。適合については、個人と組織の双方の顧客志向性水準が高い「高水準適合」と、個人と組織が適合していても外部環境には適応していない「低水準適合」に分け、不適合については、個人の顧客志向性水準が組織に及ばない「劣位不適合」と、個人の顧客志向性水準が組織より高い「優位不適合」に分けている。適合・不適合となった場合の個人の認知とその変化を見るため、2社のヒアリングを実施した上で、特に優位不適合を認知した個人の適応行動を分析し、これが組織の外部環境への適応に与える影響や可能性を考察していく。
■ 筆者の職歴は、人事実務から得た課題意識を探求する“人事実務家と研究者のハイブリッド”である。そのため、本書は学術書ではあるものの、想定する読者について人事担当者を第一に挙げ、人事実務に役立ててほしいとの願いを込めて書かれている。例えば第7章では、本書の理論をどのように実務で活用することができるのかについて、「優位不適合による個人と組織のダイナミクスの命題モデル」の流れに沿って解説している。本書を通じて自社の社員の適合を考えることで、これからの時代に求められるマネジメントのヒントを得られるだろう。
個人と組織 不適合のダイナミクス ―適合と不適合が牽引する外部環境適応 内容紹介 グローバル化や少子高齢化、デジタル技術の急速な進歩といった外部環境の変化が組織にも多様性と不確実性をもたらすことになった現在、むしろ違いを活かし、出る杭を伸ばして市場や技術の変化に対応していくことが求められるようになってきている。 大きく変動する環境に直面し、いま、変革しなければという危機感を持つ日本の組織に必要なマネジメントへの示唆に富む。 |