2023年06月29日掲載

キャリアコンサルティング―押さえておきたい関連情報 - 第12回 「リ・スキリング」「ジョブ」とキャリアコンサルタント

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学
事業創造研究科教授

1.はじめに

 5月16日に、新しい資本主義実現会議で「三位一体の労働市場改革の指針」(以下、指針)が取りまとめられ、6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」、いわゆる骨太の方針に、その内容が盛り込まれた。
 労働市場改革の柱は、「リ・スキリングによる能力向上支援」「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」「成長分野への労働移動の円滑化」である。
 これを進めていくために、リ・スキリングに関しては教育訓練給付の拡充、雇用調整助成金の見直しを進め、職務給の導入に関しては事例集を作成し、労働移動の円滑化に関しては官民の求職・求人に関する基礎的情報の集約、共有、相談体制の整備、失業給付制度の見直しを行うという。
 「キャリアコンサルタント」は、この指針のあちらこちらに登場している。施策として具体化されるのはこれからだが、キャリアコンサルタントに何を期待されているのか考えてみたい。

2.リ・スキリングとキャリアコンサルティング

 リ・スキリングの重要性については、既に随所で指摘されているが、指針では、個人主体のリ・スキリングに重点を置く。
 個人主体となれば、本人の意向が重要だが、学ぼうという気持ちはあっても、何を学べばよいか、どう学べばよいか、分からないという人も多いだろう。
 在職者などが、学ぼうとした場合、考えるべきことが幾つもある。
 何を学ぶかを決める上では、まず、既に有しているノウハウ、スキルを振り返ることが必要である。さらに、この後、自分のキャリアをどうしたいのか考え、学んだことを活かしていけるのかなどを検討し、その上で、どこで学べるのか、どんな学び方があるのか、いくらかかるのか、支援は受けられるのか、なども調べる必要がある。
 このような中、キャリアコンサルタントに目が向けられている。キャリアコンサルティングは、一般に、①自己理解、②仕事理解、③啓発的体験、④意思決定、⑤方策の実行、⑥新たな仕事への適応の支援の6ステップからなり※1、必要に応じ、この6ステップの一部または全部を行う。

※1 厚生労働省「キャリアコンサルティングの流れ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198322.html

 リ・スキリングに当てはめると、①の自己理解は、既に有しているノウハウ、スキルを振り返り、適性などを見ること、②の仕事理解は、職業の内容や就労する方法、労働条件、需要、業界事情などを理解すること、④の意思決定は、プランや目標の設定や学びについての情報提供、などということになる。

3.「ジョブ」とjob tag[じょぶたぐ]

 キャリアコンサルティングのツールは数多くあるが、その多くは「ジョブ」を意識したものである。代表的なツールの一つに、2020年に開設されたjob tag[じょぶたぐ](職業情報提供サイト[日本版O-NET])がある。job tagは、「ジョブ」「タスク」「スキル」などの観点から職業情報を「見える化」したサイトで、約500種類の職業について、職務内容、入職経路、労働条件の特徴(労働時間、賃金など)、しごと能力プロフィール(スキル、知識、仕事に対する興味、仕事に対する価値観など)などを解説文と数値データで提供している。それぞれの職業を具体的にイメージできる動画も掲載されている。IT系など、新しい職業なども積極的に取り入れられている。

[1]何を学ぶか
 job tagには、職業興味検査、価値観検査、簡易版職業適性テストなど、興味・価値観から職業を検索できる機能がある。「しごと能力プロフィール」機能を使えば、既にあるスキルや知識などから適職を探索できるし、「ポータブルスキル見える化ツール」を使えば、業種や職種が変わっても強みとして発揮できるスキルを活かせる職務を探索することもできる[図表1]
 「職業能力チェック」により、希望する職業に不足する能力、身に付けるべき能力を確認したり、何をできるようにすべきかを整理したりすることもできる。

[図表1]job tagのツールの例:「何を学ぶか」考える上で役立つ「しごと能力プロフィール」

 職業を選択すると、職業間で比較可能な形で、どのようなスキルがどの程度必要かが示される。また、どのような分野の知識が重要であり、必要か、この職業に就いている人はどのようなことに興味がある人が多いか、この職業ではどのような点で満足感を得やすいかなどのほか、職場環境や仕事の内容なども表示される。経験した職業を基に、自分の「しごと能力」プロフィールを作成しておけば、希望する職業との比較などを行うことができる。

[2]どう学ぶか
 各職業の詳細ページの「訓練検索」ボタンを押すと、必要な職業スキルや知識などの訓練コースや講座を探すことができる。公的職業訓練、教育訓練給付対象講座検索システムのほか、2023年3月からは、「マナパス」という、社会人の大学・大学院等での学びを応援するサイトにもリンクし、関係する講座情報を検索できるようになった。具体的な学校、訓練・講座の内容や特徴、必要な費用、利用できる支援制度などの情報も得られる。

[3]ジョブの整理
 job tagは、従業員の業務の見える化による職務分析の支援などに利用できる。企業において、職務の内容を明らかにすることはもちろん、ジョブの整理などを行うことや、職務記述書の作成に役立てることもできる。2022年3月からは、企業向け支援ツールとしてタスクを整理する機能が「タスク整理」として独立し、より使いやすくなった[図表2]

[図表2]job tagのツールの例:「ジョブの整理」に役立つ「タスク整理」

 参考にする職業を選択すると、その職業に就いている人が実施しているタスクについての説明や実施率(一般的に、その職業に就いている人のうち、そのタスクを実施している人の割合)が示される。タスクについての説明や実施率を参考に、タスクを整理することができる。

[4]キャリア・チェンジ
 job tagでは、職務内容、スキル・知識、免許・資格、経験が求められる度合いなど、さまざまな観点から職業検索ができる。ハローワークインターネットサービスの求人情報ともリンクしている。2023年3月からは、マイジョブ・カード※2とリンクし、マイジョブ・カードからjob tagを参照したり、job tagのマイリストをマイジョブ・カードに保存したりできるようになった。

※2 マイジョブ・カードとは、職歴や資格、キャリアプランを記録するジョブ・カードをオンライン上で作成・管理できるウェブサイト。「キャリアコンサルティング―押さえておきたい関連情報」第6回で詳しく取り上げている。

4.おわりに

 指針の冒頭には、「『キャリアは会社から与えられるもの』から『一人ひとりが自らのキャリアを選択する』時代となってきた。」とある。主体的なキャリア形成は、キャリアコンサルタントにとって当たり前のことだが、その一方で、キャリアには「買い手」が必要であり、労働市場を踏まえた判断、組織との調整なども必要である。
 指針には、「成長分野への円滑な労働移動のために、求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を加工して集約し、共有して、キャリアコンサルタントが、この情報的情報に基づき、働く方々のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制を整備する」といった記載もある。
 期待は大きいようだが、キャリアコンサルタントには、ツール、情報を使いこなし、リ・スキリング支援、キャリア・チェンジ支援のみにとどまらず、組織と個人の調整でも頼りにされる、そんな存在となることを期待したい。

【参考文献】

・新しい資本主義実現会議「三位一体の労働市場改革の指針」(令和5年5月16日取りまとめ)

・厚生労働省「job tag[じょぶたぐ]」(職業情報提供サイト[日本版O-NET]

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学 事業創造研究科教授
厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。
社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリアデザイン学会理事、人材育成学会理事、経営情報学会理事、国際戦略経営研究学会理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。
筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学キャリアデザイン学研究科非常勤講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師、成蹊大学非常勤講師など。
専門は、人的資源管理論、キャリア論

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