2023年10月30日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [265]『ガラスの天井を破る戦略人事―なぜジェンダー・ギャップは根強いのか、克服のための3つの視点』

(コリーン・アマーマン/ボリス・グロイスバーグ 著 藤原朝子 訳 英治出版 2023年6月)

 

 本書は、数百人への調査やインタビューから、女性たちのキャリアにおける、ジェンダー差別による困難を浮き彫りにするとともに、なぜジェンダー・ギャップが根強いのかを分析し、それを踏まえて処方箋を提示したものです。

 2部構成の第1部(第1章~第3章)では、企業の施策などにかかわらず、ジェンダーによる不公平が依然として女性のキャリアを妨げているとし、エリートの女性が職場でぶつかる無数のハードルについて述べています。

 第1章では、就職してから中間管理職になるまでの障壁として、「女性は昇進を望んでいない」という(うそ)が組織にはびこっていたり、女性自身が「好感を持たれたい」という呪縛にとらわれていたり、さらには、働く母親は「良き母親」でなければならないという偏見に苦しめられていたりするとしています。

 第2章では、こうしたハードルを乗り越えて経営幹部になった女性たちに焦点を当てています。シニアレベルに達した女性たちの前に突然現れる「ガラスの天井」、男性にはない厳しい要求―それでも粘ってエグゼクティブとなった女性のレジリエンス(困難から早期に回復すること)には、本人の資質もある一方で、環境との相互作用で育まれた面もあり、特に、女性ロールモデルがいたことが大きな役割を果たしていたとしています。

 第3章では、さらに上の階層である取締役会に注目しています。政府や投資家が取締役会のジェンダー格差に圧力をかけても、企業統治は依然として白人男性の独壇場であることの原因を探るとともに、解決への取り組み例として、エリート女性たち同士の連帯ネットワークを紹介しています。

 第2部(第4章~第6章)では、組織におけるジェンダー・ギャップ解消の試みに焦点を当て、どうすれば男性が女性のアライ(味方)となれるかを探っています。

 第4章では、ジェンダー不平等を解消する上で最も活用されていないのが男性アライのパワーであるとして、男性メンターが果たす役割の重要性を述べています。

 第5章では、ガラスの天井を取り除く組織的アプローチとして、採用における面接担当者や採用決定者のバイアスを避けるポイントを挙げ、同じく、能力開発、人事考課、報酬と昇進の決定、人材定着等において、マネジャーにできることのポイントをそれぞれ整理しています。

 第6章では、インクルーシブ(包摂的であること)なマネジャーになるための手引きとして、①採用は直感の入り込む余地を最小限に、②女性に建設的なフィードバックを、③インクルーシブな文化を推進する、④マイノリティーの意見に意識的に耳を傾ける、⑤ダイバーシティはビジネスにプラスになる、の五つのポイントを挙げています。

 本書を読むと、米国でも、リーダーや高い地位にある女性が増えていない状況が依然としてあることが分かり、その原因には日本の企業社会にも通じる面があるように思いました。調査対象がややエリートに偏っている印象もありますが、今後わが国でも女性リーダーはもっと増えていくと思われ、将来に向けての人事戦略を考える上で示唆的な本であると思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2023年7月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー