2023年07月14日掲載

BOOK REVIEW - 『セーフティネットと集団 新たなつながりを求めて』

玄田有史、連合総合生活開発研究所 編
四六判/264ページ/1900円+税/日本経済新聞出版 

BOOK REVIEW  ―人事パーソンへオススメの新刊

■ 新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた中、過去にない規模で支給された雇用調整助成金をはじめとして、事業主や個人に向けたさまざまな支援策が大規模に発動された。結果として、コロナ禍中における失業率の上昇は、10数年前のリーマン・ショック時と比べて顕著に小さく抑えられた。雇用調整助成金は、失業率を2.6%程度抑制する効果があったとの分析もある(厚生労働省「令和3年版 労働経済の分析」)。

■ 一方で、生活や雇用が不安定な人ほど、「セーフティネット」も脆弱(ぜいじゃく)だという構造問題が指摘されることも多い。2010年代に減少傾向にあった自殺者数が2020年代に再び増加傾向となり、自身や家族の感染への恐怖から働くことを断念した女性や高年齢者の無業者が増えるなど、セーフティネットから取りこぼされる人は確実に存在していた。また、「同一企業の下での」雇用を維持する施策は奏功した反面、時には労働移動を円滑に進めることが労働者にとってセーフティネットになる場合もある。――本書の狙いの一つは、労働経済や社会保障、労働法、人事管理などの専門家が、パンデミック下の雇用や生活に関するセーフティネットを検証し、改善提案を行うことにある。その上で、セーフティネットを不断に“編み直し”続けるために、「集団」と「つながり」はどのようにあるべきかを問い直していく。

■ 企業において人事業務に携わる方には、職場における新たな「つながり」に焦点を当てる第4章は要注目だ。ダイバーシティの考えが浸透する一方、新卒一括採用・終身雇用に代表される旧来の「日本型雇用」が多くの企業で機能しなくなっている。従業員個人としても、自身のキャリアを1社内で完結させようという考え方は少数派になりつつある。こうした中、職場は「多様性の尊重が分断や孤立を加速させる」という新たなジレンマに揺れている。このような現在の職場において、新たな「つながり」の担い手はどのように生まれ育つのかを分析する論考からは、さまざまなヒントをもらえるはずだ。

セーフティネットと集団 新たなつながりを求めて

内容紹介
本当に困っている人に必要な安全網とは?
コロナ禍が浮き彫りにした生活や雇用の課題をもとに、今求められるセーフティネットと集団の姿を明らかにする。

雇用が不安定な人のほうが、セーフティネットも脆弱であるという問題を、どう解決するか。従来の措置に欠けているものは何か。「多様性」の尊重が、分断や孤立を加速させるという新たなジレンマに、どう対処するか。そのための必要な「集団」のあり方とは?

本書では、労働経済学、社会保障、労働法、人事管理などの気鋭の研究者が、それぞれの専門の立場から、現状のセーフティネットの制度的課題を明らかにするとともに、それを補完する集団の機能(ERGや労働組合)、制度を動かす基盤としての人と人、人と組織の必要な「つながり」の意義について、国内外で注目されたユニークな取り組み事例なども紹介しながら、縦横無尽に論じます。