代表 寺澤康介
(調査・編集:主席研究員 松岡 仁)
ProFuture代表の寺澤です。
毎年、日経HRと日本経済新聞社は、上場企業と有力非上場企業の約5000社の人事担当者を対象に「企業の人事担当者から見た大学イメージ」調査を実施しています。調査では、「行動力」「対人力」「知力・学力」「独創性」の側面と、「授業改善への取り組み」「グローバル教育への取り組み」「優れた研究への取り組み」「就職支援への取り組み」「留学生への取り組み」「地域活性化への取り組み」など、大学の取り組み姿勢を評価ポイントとして集計されます。
2023年の調査結果も6月に発表されましたが、総合ランキング1位は2年連続で京都大学となりました。京都大学は3年連続で「知力・学力」部門で1位を保持しており、「独創性」部門でも1位を獲得しています。総合ランキングトップ10は国立大学が独占しており、トップ20までを見ても私立大学は19位の慶応義塾大学と20位の早稲田大学のみとなっています。この調査はあくまで「人事担当者から見た大学イメージ」を示すものであり、大学の実力を完全に反映しているわけではありません。しかし、国立大学に対する偏重が見受けられることには若干の違和感を覚えます。ちなみに、トップ20に東京大学がなぜか含まれていないのは興味深いところです。
上位サイトの順位は不動
さて、今回は、HR総研が「楽天みん就」と共同で実施した「2024年卒学生の就職活動動向調査」(2023年6月1~12日)の結果を紹介します。
まずは、就職サイトの活用状況について見ていきます。2022年6月から2023年2月までの就活前半と、就活ルール上で採用広報解禁となった2023年3月以降の就活後半で、それぞれ活用した就職サイトを複数選択で回答いただき、さらにその中から1年間を通じて最も活用した就職サイトを一つだけ回答していただきました。参考として、図表はすべて2023年卒調査の結果と組み合わせて掲載しています。
就活前半(2月以前)の就職サイトの活用状況では、文系・理系ともに上位5サイトまでが2023年卒と全く同じで、1位が「マイナビ」、2位が「リクナビ」、3位が「楽天みん就」、4位が「ONE CAREER」、5位が「就活会議」という結果になりました[図表1]。これらの5サイトはすべて50%以上の利用率を記録しており、6位以下は50%未満です。利用率の変化を見ると、理系の「楽天みん就」が2023年卒70%から2024年卒65%へ5ポイント減少しているのが目立ちますが、それ以外に大きな変化は見られません。ただし、5位の「就活会議」は、文系で2023年卒50%→2024年卒53%、理系で2023年卒50%→2024年卒52%と、両方で利用率が上昇していることが注目されます。
6位以下では、「OpenWork」が文系で2023年卒40%→2024年卒45%、理系で2023年卒40%→2024年卒46%と、5位の「就活会議」よりも2023年卒から大幅に利用率を伸ばしています。一方で、「unistyle」は文系で2023年卒27%→2024年卒23%、理系で2023年卒28%→2024年卒20%と、両方で利用率が大きく減少していることが分かります。また、理系では、理系特化型の逆求人サイトである「LabBase」が2023年卒18%→2024年卒23%へと5ポイントの利用率増加となっています。
[図表1]就活前半(2月以前)に活用した就活サイトの2年比較(複数回答)
資料出所:HR総研「2024年卒学生の就活動向調査」(2023年6月、以下図表も同じ)
次に、就活後半(3月以降)の就職サイトの活用状況では、文系・理系ともに上位7サイトの顔ぶれに変化がありませんでした[図表2]。ただし、注目すべきは、1位の「マイナビ」ですら、文系で2023年卒82%→2024年卒76%、理系で2023年卒74%→2024年卒66%といったように、多くの就職サイトが利用率を減少させている点です。[図表1]の就活前半のデータと比較すると、「マイナビ」では、文系が前半86%→後半76%と10ポイントの減少、理系では前半83%→後半66%と17ポイントもの減少が見られます。
従来型の就職ナビでは、3月1日以降、2024年卒採用向けの採用情報を公開し、プレエントリーの受付も開始されます。また、専用のマイページを持たない企業の場合、プレエントリーをした企業からの会社説明会や選考連絡なども、就職ナビ内のメールボックスに届くことが多いでしょう。したがって、就活後半でも就職ナビの活用価値は十分にあるはずです。それにもかかわらず、多くの就職ナビがここまで利用率を下げていることから、それだけ採用活動の早期化が進行していることがうかがえます。
[図表2]就活後半(3月以降)に活用した就活サイトの2年比較(複数回答)
[注]「〃」は、直前のサイトと全く同じポイントであったことを示しているのに対し、ポイント数が同じ表記の場合には、小数点以下で差異があることを示している([図表3]も同じ)。
こうした状況の中でも2023年卒調査から利用率を伸ばしているサイトも存在します。前半にも触れた「OpenWork」は、文系で2023年卒38%→2024年卒42%、理系で2023年卒36%→2024年卒39%へと利用率を伸ばしています。また、理系専門の「LabBase」も、2023年卒10%→2024年卒12%へと利用率を増加させています。
クチコミ就職サイトが堅調
1年を通じて最も活用された就職サイトを見てみると、1位の「マイナビ」は文系でもついに49%と50%を割る結果となりました[図表3]。理系は2023年卒よりも若干利用率を盛り返しましたが、それでも43%と4割台前半にとどまります。2位の「ONE CAREER」は文系・理系ともに利用率を伸ばしており、前回からさらに利用率を下げた3位の「リクナビ」との差は開くばかりです。ついに「リクナビ」は、文系・理系ともに1桁台にまで利用率を下げ、かつて「リクナビ」が「マイナビ」を押さえて利用率1位に君臨していた時代がはるか昔のことのように感じられてしまいます。
[図表3]就活を通して最も活用した就活サイトの2年比較(単一回答)
[注]理系(2023年卒)の「dodaキャンパス」は、0.42%。
従来型の就職ナビが利用率を下げる中、利用率を伸ばすか維持しているのは、前述の「ONE CAREER」をはじめ、「就活会議」「OpenWork」などのクチコミ就職サイトです。ただし、クチコミ就職サイトの先駆けである「楽天みん就」だけは利用率を下げています。新興のクチコミ就職サイトは、過去に合格したエントリーシートを公開するなど、企業ごとの選考情報(体験談)が非常に充実しており、投稿者が就活生だけでなく、社員や元社員などの社会人も含まれ、入社後の会社の情報まで確認できる点が評価されているようです。
これらのクチコミ就職サイトを利用している学生のコメントを、一部抜粋して紹介します。
【ONE CAREER】
- 面接における質問内容、面接官の人数、所要時間、フローなど、「実戦」の場で参考になる内容が最も細かく掲載されている(文系・早慶大クラス)
- 過去のエントリーシートや面接の質問について事前に把握するために重宝した(文系・早慶大クラス)
- エントリーシートや面接、インターンシップの内容など、選考対策や企業理解に役立つ情報が最も多かった(文系・上位私立大)
- 申し込みからエントリーシートの作成まで幅広く使用できたため。また、他のサイトに比べてバグが少なくストレスフリーだった(文系・上位私立大)
- アプリがあるため見やすく、面接の過去問など流れを知ることができ、エージェントへの勧誘などがない(文系・中堅私立大)
- 情報に余計なバイアスがかけられていないのでフラットな視点で情報を得ることができる(理系・旧帝大クラス)
- 先輩の体験談が多く、詳細が載っており、信頼できる(理系・早慶大クラス)
【就活会議】
- 内定者のエントリーシートが見られる。また、インターンシップ情報や面接の質問内容も見られる(文系・上位私立大)
- 大学のランクごとに○次面接通過率や内定率などが詳しく見られ、就活中の学生や昨年の就活生のクチコミも閲覧可能だったため、一番役に立った(理系・その他私立大)
- 「転職会議」というサイトも運営しており、そちらで社員のクチコミも見ることができ、自分と会社のマッチ度も知ることができる。「転職会議」は有料だったが、周りの学生と差をつけるために有利な情報が得られた。実際に、クチコミの情報を元に入社後の自分をイメージし、面接でアピールすることができ、内定後のフィードバックでは管理職や社長からの評価も非常に高かった(理系・その他私立大)
- 就活速報が多く投稿されるため、面接対策の参考になった(理系・その他国公立大)
【OpenWork】
- 社員の本音が書かれているため(文系・上位私立大)
- 企業のクチコミで企業研究や逆質問を考えることに役立った(文系・旧帝大クラス)
- 働いている人のリアルな声が聞けること、また、クチコミ数が多い(文系・その他国公立大)
- 実際に働いていた人たちの声が聞けるツールは他にあまりなかったため(文系・中堅私立大)
「21社以上」からアプローチを受ける割合が最多
クチコミ就職サイトと並んで健闘しているもう一つのジャンルが、「逆求人型就職サイト」です。「OfferBox」「dodaキャンパス」「キミスカ」のほか、理系で利用率を伸ばしている「LabBase」がこのカテゴリーに含まれます。ここからは、「逆求人型就職サイト」に絞って、就活生の利用状況やオファー(スカウトメール)の受信状況などを見ていきます。
まず、逆求人型就職サイトの利用状況については、文系・理系ともに「利用した」が46%と、半数近くの学生に利用されていることが分かりました[図表4]。
[図表4]「逆求人型就職サイト」の利用状況
次に、「利用した」と回答した学生に限って、登録した逆求人型就職サイトを通じて、アプローチ(スカウト、オファー)のあった企業数を尋ねたところ、文系・理系ともに「21社以上」との回答が最も多く、文系で36%、理系では43%に達しました[図表5]。2023年卒調査では、文系・理系ともに「21社以上」は33%だったため、どちらも増加しています。特に理系は前回調査から10ポイントもの大幅な伸びとなっており、企業における理系学生の争奪戦が激化していることを物語っています。
文系では、「6~10社」(16%)、「11~15社」(12%)、「4~5社」(11%)などの割合が高く、一方で理系では、「4~5社」(13%)、「16~20社」(12%)などの割合が高くなっています。「4社以上」(「4~5社」~「21社以上」の合計)は、文系で81%と8割を超え、理系では87%と9割近くに達しています。これにより、学生の利用だけでなく、企業側でも利用が広がっていることが分かります。
[図表5]「逆求人型就職サイト」を通して受けたアプローチ社数
ちなみに、“登録したもののアプローチが1社からもなかった”学生の割合は、文系で5%、理系ではわずか1%にとどまります。この結果からは、企業がいろいろな角度から学生データベースを検索してアプローチしている様子がうかがえます。なお、企業がこうした逆求人型就職サイトを活用する上では、学生データベースの検索作業だけでなく、その学生の登録内容に沿った形での適切なアプローチメールの作成・配信も、かなり手間のかかる作業になります。今後は、採用する企業に代わってのアプローチ代行サービスの需要が、これまで以上に増えると予想されます。
さて、アプローチを受けた学生は、どの程度正式な応募につなげているのでしょうか。逆求人型就職サイトを通じてのアプローチをきっかけにして応募した企業数についての結果が[図表6]です。アプローチを受けたからといってすべての企業に応募するわけではありませんので、アプローチ数では「21社以上」が最も多かったものの、応募した企業数で「21社以上」との回答は、文系でわずか1%、理系に至ってはゼロでした。
文系では、最も多いのは、1社にも応募しなかった「0社」の35%であり、次いで「1社」が15%、「4~5社」が14%、「2社」が12%、「6~10社」が10%となっています。応募企業数が「3社以下」(「0社」~「3社」の合計、以下同じ)は71%と7割を超えます。
[図表6]「逆求人型就職サイト」からのアプローチきっかけの応募社数
一方、理系においても「0社」の割合が32%でもっと多く、次いで「1社」が21%、「2社」16%などと続き、「3社以下」は文系よりも多く、78%と8割近くを占めます。もともと従来型の就職ナビ等のマス採用(待ちの採用)では応募してこないような学生層にアプローチをするわけですから、応募を集めることが難しいことに変わりはありません。ただ、アプローチしなければ巡り会うことはなかっただろうターゲット層からの応募ですから、逆求人型就職サイトを活用する価値はあるといえるでしょう。
勤務条件を重視する学生たち
ところで、学生が就職サイトなどで応募先企業を探す際にどんな点に重点を置いているのでしょうか。複数選択で回答してもらった結果を見てみましょう。文系と理系では少々異なる結果が出ています[図表7]。
文系では、1位が「給与・待遇」で61%、2位が「福利厚生」で58%、3位が「休日・休暇・残業」で55%となっており、勤務条件に関する項目が上位を占めています。ようやく4位に「仕事内容」(49%)が入っていますが、50%を切っています。一方、理系では、1位が「福利厚生」で64%、2位が「給与・待遇」で62%、3位は「休日・休暇・残業」(4位、56%)を抑えて「仕事内容」が58%となりました。両者ともに「社風・企業文化」や「社員の人柄・対応」は4割前後となっています。
[図表7]応募先企業を探す際に重視する点(複数回答)
[注]グラフ上で文系のポイントのほうが高い項目として「女性の働きやすさ」(文系37%、理系25%)があるが、回答者に占める女性の割合によるところが大きいため、本文では取り上げていない。
その他、文系と理系で差異が見られた項目を挙げてみると、文系で高かったのは「転勤の有無・範囲」(文系31%、理系23%)であり、理系で高かったのは「専攻・自分の強みとの関連性」(文系11%、理系26%)や、「業種」(文系31%、理系42%)、「企業規模」(文系26%、理系35%)、「製品・サービス」(文系13%、理系21%)、「成長性」(文系24%、理系31%)、「企業イメージ」(文系23%、理系30%)などです。
3月をピークに説明会参加社数は急減
ここからは、企業が個別で開催するセミナーや会社説明会について見ていきます。まずは、文系と理系ごとに参加した企業数を、それぞれ2023年卒調査の結果と比較してみましょう。
文系では、「1~3社」と「4~6社」がいずれも15%で最多となっており、「1~3社」から「30社以上」まで11~15%でほぼ均等に分布している一方、唯一「25~29社」だけが3%と少なくなっています[図表8]。2023年卒調査と比較すると、「10~14社」が6ポイント減少しているほか、「30社以上」も2ポイント減少しており、社数が多い区分での減少が見られます。一方で、「1~3社」は5ポイント増加するなど、社数が少ない区分での増加が見られます。全体的にセミナー・会社説明会への参加社数は、2023年卒より減少していることが分かります。
[図表8]個別企業のセミナー・説明会参加社数の2年比較(文系)
理系では、「4~6社」が22%で突出して多くなっています[図表9]。文系と違い、各社数区分によって1~22%まで幅広く分布しています。2023年卒調査との比較でも、社数の少ない「1~3社」が3ポイント減少している一方で、「4~6社」は3ポイント増加、「15~19社」や「30社以上」といった社数の多い区分でもそれぞれ4ポイント、1ポイント増加しています。しかし、「20~24社」は2ポイントの減少が見られるなど、全体的に参加社数が減少しているわけではないようです。
[図表9]個別企業のセミナー・説明会参加社数の2年比較(理系)
次に、セミナーや会社説明会への参加時期についても、文系・理系別に、それぞれ2023年卒調査の結果と比較してみましょう。
文系では、「本年3月」が70%に達し、参加時期のピークとなっていますが、以降は急激に減少し、「本年6月」には8%と1桁台にまで落ち込みます[図表10]。「前年5月以前」や「前年6月」といった早期には、2023年卒より2ポイントほどの増加が見られるものの、「前年7月」から「本年1月」まではほとんど変わりはありません。一方、「本年2月」以降は一転して、すべての月において2023年卒より下回っており、「本年4月」は2023年卒の57%から45%へと12ポイントも減少し、「本年5月」も10ポイントも減少しています。各就職ナビ等が発表する内定率の推移に見られるように、2023年卒よりも早いペースでの内定出しが進行した結果、就職活動を早く終了する学生が増加したとともに、“手駒企業”がなくなり、新たな応募先企業を探す必要に迫られた学生の割合が減少したものと推測されます。
[図表10]個別企業セミナー・説明会参加時期の2年比較(文系、複数回答)
一方の理系を見ると、参加時期のピークは文系と同じく「本年3月」で62%ですが、その後は月を追うごとに参加率は急減し、「本年6月」には文系の半分となる4%にまで低下しています[図表11]。2023年卒との比較では、「前年5月以前」や「前年6月」といった早期だけでなく、「本年1月」まではほぼどの月も2024年卒のほうが上回っています。「前年11月」は2023年卒40%に対して44%、「前年12月」は2023年卒48%に対して53%といった具合です。「本年2月」以降は、文系と同じく、すべての月において2023年卒より下回っており、「本年3月」は2023年卒の68%から62%へと6ポイント減少し、「本年4月」や「本年5月」も6~7ポイント減少しています。ピークの「本年3月」(文系70%、理系62%)の参加割合は、理系が文系よりも8ポイントも低く、それ以降もすべての月で文系よりも参加割合は低くなっていますが、この傾向は「本年2月」以降に限られます。「前年6月」(文系25%、理系30%)、「前年7月」(文系29%、理系34%)、「前年11月」(文系38%、理系44%)、「前年12月」(文系44%、理系53%)など、「本年1月」までは文系よりも理系の参加割合のほうが高くなっています。そのため、理系に対しては、早期にセミナーや会社説明会を設定する必要がありそうです。
[図表11]個別企業セミナー・説明会参加時期の2年比較(理系、複数回答)
減少の一途、理系の推薦応募
伝統的な理系学生の応募形態として「学校推薦応募」があります。企業が大学ごとに割り当てた推薦枠を上限として、事前に学内で応募学生を調整の上、教授の推薦書とともに応募する形態です。この形態は、企業と大学、または教授との確固たる信頼関係の上に成り立っており、企業は推薦書を重んじ、かつては通常1回の選考会(技術面接)で合否が決定していました。しかも、よほどのことがない限り、推薦応募の段階で合格が約束されていたものです。
ただし、推薦応募で内定を得た学生はその企業への就職が確定したものとして、他の企業への応募は許されないという制約がありました。こうした制約にもかかわらず、理系学生にとっては、文系学生のように就職活動に膨大な時間を費やす必要がなく、学内で推薦さえ得ることができれば実質的な就職活動はほぼ完了し、卒業研究や実験に残りの時間を充てることができたため、実際に学校推薦応募を通じて多くの学生が企業の内定を得ていたわけです。
しかし、この学校推薦制度にも限界が来ているようです。学校推薦で応募した学生が不合格となるケースが増え、逆に推薦応募で内定を取得した学生が内定を辞退する事例も現れています。こうした状況をみると、「推薦」の重みが随分と変わってきているようです。かつてのように、教授と学生が文字通りの“師弟関係”のようになり、“師匠”である教授が紹介してくれる企業にただ従順に応募する――という時代はとうに終わっています。いまの学生はインターネットを通じて自由に企業を調べられるようになり、インターンシップやセミナー、OB/OG懇談会等を通じて企業に触れる機会があります。そのため、多くの企業を比較し、自分の意志で企業を選択することができるようになってきています。同様に企業側も、2022年卒採用から学校推薦制度を廃止したトヨタ自動車をはじめ、学校推薦枠を縮小し、自由応募枠の拡大に舵を切る動きが増えています。
それでは、学生たちは「学校推薦応募」をどのように利用しているのでしょうか。理系学生の応募経路を尋ねてみた結果、「推薦応募のみ」はわずか2%であり、「推薦応募と自由応募を併用」が21%となっています[図表12]。いずれの割合も2023年卒よりも2ポイント減少しています。以前は理系学生の特権的応募方法とまでいわれた学校推薦ですが、現在ではこの方法を利用する学生は2割程度にとどまり、最終的に推薦応募で内定した企業に就職する学生は2割をも下回る見込みです。
一方で、「自由応募のみ」とする学生が7割を超え、さらに「推薦応募と自由応募を併用」を含めると9割を超えます。「理系の場合、学生の多くが推薦で就職するため、自由応募で採用市場に参加する学生の割合は少ない」と考えられている採用担当者の方々には、ぜひその認識を見直していただくことが望ましいと思われます。いまや、ほとんどの理系学生が自由応募による就職活動を行い、採用市場に積極的に参加してきています。
[図表12]理系の応募経路の2年比較
ChatGPTの利用は、校正・添削が主流
最後は、2022年秋に登場し、賛否両論を巻き起こしている生成AI「ChatGPT」について取り上げます。採用選考でのエントリーシートの作成にChatGPTを活用する学生が増加しているという話題も出ており、実際にどのくらいの2024年卒学生が利用したかについても調査しました。就職サイトの中には、ChatGPTを利用してエントリーシートを作成するサービスも見られますが、サービスがリリースされた時点から考えると、2024年卒の学生はChatGPTを自分で使いこなすしかなかったと推測されます。
そのため、2023年6月時点では、「まったく利用しなかった」学生が圧倒的に多く、文系で85%、理系でも79%に上っています[図表13]。エントリーシート作成にChatGPTを利用した少数派の学生の中でも、「すべての企業に利用した」割合は文系・理系ともにわずか1%であり、現状では利用先を絞っていることが分かります。
[図表13]エントリーシート作成時の「ChatGPT」利用状況
エントリーシート作成にChatGPTを利用した理由について、フリーコメントで回答してもらいましたので、一部抜粋して紹介します。学生たちは、ゼロから文章を作成するよりも、自分で書いた文章の校正や添削にChatGPTを活用していたことが多いようです。
- 自分が書いた文章に説得力に欠ける箇所がないか確認したかった(文系・早慶大クラス)
- 自分が書いた内容をそのまま入力して要約してもらい、自分の意図が伝わっているか確認するために利用していた(文系・早慶大クラス)
- 他人にも理解しやすい文章にするため(文系・早慶大クラス)
- 第三者の視点から志望動機の添削や表現の提案をしてほしかった(文系・その他私立大)
- キャリアセンターなどでの添削に時間がない時に確認のため利用した。言葉遣いや表現を改善してもらうのに便利だった(文系・その他私立大)
- 箇条書きで書いた文章を整理したかったため。また、ヒントが欲しかったため(文系・その他国公立大)
- 友達がChatGPTを使ってエントリーシートを作成して通過したと話していたため(文系・中堅私立大)
- 文章の組み立て方や、新たなアイデアを得るため(文系・上位私立大)
- 書きたい要素は決まっているが、文字数制限がある場合、まずChatGPTに初稿を作ってもらい、それをブラッシュアップしていく方式のほうが、圧倒的に効率が良かった(文系・上位私立大)
- 友人も就活が忙しくて添削がお願いできない時に、即座に添削してくれる機能がありがたくて利用していた(文系・上位私立大)
- 指示された文字数以内で文章を書けなかったため、文字数を削る際の参考になればと思い使用した(文系・上位私立大)
- 志望理由が浮かばない企業があったため(理系・旧帝大クラス)
- 大学のキャリアセンターの人より、ChatGPTに文章を添削してもらうほうが、主観に左右されないと考えた(理系・その他国公立大)
- 文の体裁などが客観的に見て正しいかどうかを確認してもらいたくて利用した(理系・その他国公立大)
- ChatGPTに作成してもらったエントリーシートは表面的には書けているものの、読み込むと細部で辻褄が合わないところがあったりしたので、最終的には自分でほとんど書き、言い回しなどの修正に利用した(理系・その他国公立大)
- バイアスがかかっていない状態で文章の添削をやってもらいたかった(理系・上位国公立大)
- 企業理解をした上で、適切な内容をエントリーシートに書けるようにしたかった(理系・上位私立大)
- 文章をまとめるのにどうしたらいいか分からなかった(理系・中堅私立大)
- 誤字脱字を調べるにはとても良いと思い、添削で利用した(理系・中堅私立大)
寺澤 康介 てらざわ こうすけ ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長 86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。 著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。 https://www.hrpro.co.jp/ |