2024年01月08日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [270]『変革せよ! 企業人事部 ―テレワークがもたらした働き方革命―』

(白木 三秀 著 早稲田新書 2023年7月)

 

 人的資源管理の研究者による本書では、コロナ禍におけるテレワークの普及は、単なる「働き方改革」を超えて、企業の人事部門にも変革をもたらしたとして、その動向を検証するとともに、日本企業の人事部の今後あるべき姿について考察しています。

 第1章では、企業におけるテレワークの実施状況等のデータを基に、テレワークの業務面・生活面での影響を確認していきます。章の最後に、国内の仕事はオフィスで、海外との仕事は時差の関係から自宅からテレワークで行っているグローバル人事担当者を例に挙げ、テレワークは既に国境を超える働き方を含んでいるとしています。

 第2章では、企業人事部でグローバルHR担当者として働く4人の実務家とのディスカッションを通して、テレワークが人びとの働き方や人事部の業務にどのような影響を与えたかを探っています。そこからは、在宅勤務の定常化、とりわけ海外における在宅オペレーションの定着、メンバーシップ型からジョブ型に変わりつつある仕事の仕方、といった変化が見られるとしています。

 さらに、テレワークには「正」の側面と「負」の側面について触れ、テレワークで仕事人生を送る「駐妻」(夫の海外赴任に帯同する女性)の抱える問題をテレワークは解決できるのか、海外オペレーションの今後や日本人スタッフの海外派遣はどうなっていくのかを議論しています。

 第3章では、実際の駐在員妻たちへのインタビューを通して、「越境テレワーク」はそうした海外で働く女性の救世主となるのかを語り合います。このやり取りの中で、課税制度の複雑な現状や、帰国後に立ちはだかる再就職の壁によるキャリアブランクといった諸問題を浮き彫りにしています。

 第4章では、テレワークにより働き方改革が進んだ場合、企業の人事権はどうなるかを法的視点から確認しています。第5章では、これからの人材開発と人事のドメインはどうなるかを考察、企業は従業員が「継続的学習力」を形成できるよう、社内環境を整備することが求められるとしています。

 テレワークの拡大を機に、ジョブ型が検討され、報酬体系の見直しも迫られている現状がうかがえます。また、働く時間や場所に関する制限の垣根が低くなることで、部署や会社の枠を超えた連携が可能になる一方、現場でメンバー同士が意見を言い合うことで生まれる“現場の力”は、ハイブリッド勤務では発揮に限界がある――という指摘もされています。

 「変革せよ! 企業人事部」というタイトルについての結論は、従業員一人一人が望む働き方を踏まえ、その人にふさわしいキャリア形成を支援する役割が人事部門に求められるようになったということなのでしょう。

 ただし、著者の専門が国際人的資源管理であることもあり、グローバルHR担当者から見たテレワーク、さらに海外駐在員の妻たちが抱える「越境テレワーク」上の問題にかなりのページを割かれています。そのため、これらのテーマに特化した研究レポート的な本になったようにも思われ、大上段に構えたタイトルの割には…といった印象もありました。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2023年9月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー