2023年10月17日掲載

女性リーダー・管理職が育つ企業の条件 - 第2回 女性リーダーが活躍する組織づくり「三つのポイント」

東宮美樹 とうみや みき
株式会社ジェイック 取締役
株式会社Kakedas 取締役

 第1回では、「女性管理職比率30%」という政府目標が示されている中で、実態として同水準をクリアしている企業は1割未満にとどまるとの調査結果もあるなど、現状では女性リーダー・管理職の登用がそれほど進んでいるわけではないという事実をお伝えした。

※ 帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査」(2023年)

 そして、女性活躍の取り組みで、うまくいかないケースの代表的な要因として下記の「三つの壁」を紹介し、それぞれの背景や個別の問題点について、具体例を引きながら整理した。

一つ目の壁:女性リーダー候補からの「管理職になりたくない」発言

二つ目の壁:制度を整えていく中での「職場がぬるくなった」認識

三つ目の壁:女性部下からの相談に「男性上司が対応できない」問題

 第2回では、次の点を検討することとしたい。

  • いったいどのように制度を整え、どのようなコミュニケーションを取っていけばいいのか
  • 女性リーダーが活躍する組織とはどのようにつくられるのか

 これらの議論を下敷きに、よくある「女性活躍プロジェクト」の失敗事例も交えながら「女性リーダーが活躍する組織づくりのポイント」について掘り下げていく。

1.よくある「女性活躍プロジェクト」の失敗事例

 まずは、よく指摘される「経営方針で女性活躍プロジェクトを立ち上げたが、うまくいかない」という問題について、これまで筆者が見聞きしてきた三つの失敗事例を基に「うまくいかない」背景、理由を探ってみたい。具体例を知っておくことで、よくある失敗パターンを回避することができるだろう。

[1]目標はあるが、方針がない

事例① 「女性管理職比率を◯%まで増やす!」と目標設定をしたが、方針がない

 A社では「女性管理職比率20%を目指す!」という経営方針を掲げたものの、現場の女性社員からは「何を言っているのか分からない」「自分は管理職になりたくない」「ロールモデルがいない」という声が多く上がってきた。
 実をいえば、これまで女性に管理職になる期待をかけていなかった場合、上記は当たり前の反応といえる。ここで一喜一憂したり失望したりする必要はない。

 「ロールモデルがいない」と言われたとき、「実際、いないしなぁ」と諦めるのではなく、「管理職になりたくない」本音の理由を探る必要がある。
 本音を探っていくと、実は「なりたい気持ちはある。ただ、責任を全うできる自信がない」といった声が出てくるケースも多い。彼女たちの本音を紐解(ひもと)いてあげるだけでも状況が変わってくることはある。

 今まで女性を管理職にするような風土がなかった会社であれば、女性活躍の目標だけを発表しても「どうせうそでしょう」という疑念を持つ女性社員は多いと思ったほうがよい。方針をきちんと整え、懐疑心を払拭する方法は2.で後述する。

[2]当初は反応が良かったが、次第にパワーダウンしている

事例② 女性活躍推進プロジェクトを立ち上げ、座談会や研修を開催。その結果、当初は反応が良かったが、実際の女性管理職比率はあまり上がっていかない

 B社は、女性活躍を経営方針に掲げ、現場で期待する意欲ある女性社員や人事など、すべて女性で構成されたチームで女性活躍推進プロジェクトを立ち上げた。

 社内の女性陣からアンケートを取ってさまざまな意見を集め、さらに生の声を拾おうと女性社員の座談会なども開催。その中で、働き方への課題や不満が明らかになった。
 また、「ロールモデル」として、キャリアを積んでいる女性管理職を社外から呼んだ講演会も実施したが、この講演会自体を評価する向きもあった一方で、「働き方がハード過ぎて、◯◯さん(登壇者)のようには働けない(働きたくない)」という本音も多く上がる結果となった。

 実は女性社員だけでプロジェクトを組み、女性社員の声だけを拾っていくと、こういう事象はよく起こる。初めは新たな意見が吸い上げられ、取り組みにも生かすことができると思われるが、現場とのつながりをうまくつくれずにズレが生じがちだ。
 特に現場の上司がプロジェクトの趣旨や内容をきちんと理解していればよいが、そうでないと、会社から(あるいはプロジェクトのメンバーから)突然「女性社員もキャリアを積むべきだ!(だから上司として支援・協力してほしい)」と言われても、上司は「え、何のこと?」または「うちの会社では無理じゃない?」といった反応をしてしまい、プロジェクトメンバーとの意識の差が露呈するようなことも起こりかねない。

 こうした観点からも、女性活躍を進めようとするとき、現場の管理職を巻き込むことが非常に重要になる。
 今いる管理職に男性が多いのであれば、プロジェクトのメンバーはすべて女性である必要はない。むしろ、男性管理職をはじめとした多様な協力者を巻き込むなど構成をトータルデザインしておかないと、施策がぶつ切りになり、どこかで息切れして止まってしまいがちだ。

[3]働きやすくなったが、女性リーダーが増えない

事例③ 女性の働きやすさを優先して制度を整え、女性の定着率も出産・育児からの復職率も改善した一方で、優遇し過ぎた結果、さまざまな制度の中で当人たちに「やってもらうこと」や「期待すること」をきちんと伝えられていない

 最後がC社のケース、第1回で紹介した「女性社員が働きやすいようにと制度を整えていく中で、『職場がぬるくなった』」という例だ。

 制度を整備していくと、導入当初はもちろん歓迎される。しかし、人は慣れるものである。また、新たに入社してきた人にとって、整備された制度は「当たり前の前提」であり、さらにプラスオンの要望が次から次へと出てくる。

 そして、「キャリアアップを目指す女性に生産性高く働いてもらいたい」という思いで制度を整えて優遇してきたのに、なかなか思うように活躍するリーダーが出てこないと、「子育て中の女性社員ばかり優遇し過ぎではないか」という不満が生じる。

 制度を整えることは大切だが、それがかなえば女性社員が活躍するわけではない。働きやすい制度の整備や給与アップなどの外発的なモチベーション刺激策には限界がある。一時的には満足感をもたらすかもしれないが、効果は時間とともに薄れ、これを維持するためには、また次の制度、さらに次の優遇……と与え続けなければならない。

 だからこそ内発的なモチベーション、つまり仕事のやりがいや達成感、チームメンバーと一緒に仕事をすることによる一体感などが重要になる。この視点による施策が不十分だと、どれだけ働きやすい環境を整えても、女性社員が本当に積極的に働くようにはならず、女性活躍が実現することは難しい。

2.女性リーダーが活躍する組織づくり「三つのポイント」

 続いて女性リーダーが活躍する組織づくりで重要になる「時間」「展望」「経験」の三つの観点を解説していく[図表1]。これはパーソル総合研究所が2022年に公表した「女性活躍推進に関する定量調査」の中で示されている視点であり、筆者の女性活躍支援の経験を踏まえても非常に理解しやすいものとなっている。

[図表1]女性リーダーが活躍する組織づくりは「三つの観点」で考える

図表1

[1]「時間」の観点──両立可能性の問題

 女性活躍を進めようとして、将来のリーダー候補となる若手女性にヒアリングしていくと、「管理職って大変そう」「土日出勤や残業も多くてつらそう」という声を聞くことがある。こうした声が上がる状態は、女性活躍の推進にとって非常に大きなハードルとなる。

 上述のパーソル総合研究所調査では、“「組織開発的残業施策」が女性の管理職意向のアップにつながる”という考察がある。
 組織開発的残業施策という言葉に聞きなじみがない人も多いと思うが、これに対比されるのが「ノー残業デーを設定する」「勤怠管理を厳格にする」など、とにかく勤怠管理をきっちりして残業時間を減らすという「管理的残業施策」である。

 一方、組織開発的残業施策では「残業の原因を解消する」「時短を進めて生産性も高める」「きちんと時間当たりの成果で評価する」といった取り組みが中心となる。

 もちろん管理的残業施策も必要だが、この場合、管理職にしわ寄せがいくケースがある。女性活躍に進める上では、根本的に生産性を高め、時短で働いて成果も出していく方向性を目指すべきであり、組織的開発的残業施策の考え方が大切となる。

[2]「展望」の観点──未来展望の問題

 ここまで紹介したとおり、女性社員から「ロールモデルがいない」「本当の悩みを男性管理職(会社)に話せない」「この会社は結局は『男社会』だ」「現場の上司はまだまだ“昭和気質”で仕事一辺倒だ」といった声が上がってくるのは、未来への展望が描けていない、会社への信頼がない状態だ。

 もちろん女性活躍に取り組む当初において、これらの声は実態を表しているものかもしれない。しかし、こうした悩みを一つひとつ解決して未来への展望を描いてもらう必要がある。

 一くくりに女性社員といっても、その悩みは多様だ。「子どもがいる人/いない人」「育児休業から復職したばかりの人/復職後しばらく経過し子どもが大きくなっている人」によって悩みや課題感は異なってくる。したがって、キャリア相談は個別に対応することがとても重要になる。

 また、未来への展望を描いてもらうためには、女性社員が抱える“もやもや”をきちんと解消する必要がある。これらが()まったままの状態では「未来への展望を描く」という前向きな気持ちにはなれない。わだかまりは「吐き出し切る」だけでもすっきりして、自己解決する側面もある。この意味でも、“もやもや”を吐き出せる個別の場をつくることが大切だ。

 なお、ここで聞くことができた声や本音は、エンゲージメントサーベイや社員アンケートなどでは得ることが難しい貴重な定性情報だ。エンゲージメントサーベイなどでは顕在的な不満や課題は出てくるが、その裏側にある思いや、本人の中でもまだ明確化していない潜在的な本音などは、なかなか読み取ることができない。

 こうした情報を押さえられると、組織開発における打ち手の精度が飛躍的に向上していく。

 なお、「未来への展望を描く」上では、本気で考えてもらう状態をつくることが必要になる。前述のとおり、これまで女性活躍が実現していない状況で、経営や人事方針として女性活躍を打ち出しても、簡単には信じてもらえないだろう。ここで、社員からどれくらい「疑われている」のか、データで見てみよう。

 前掲のパーソル総合研究所調査では、男性社員で約3割、女性社員では約4割が“自社の女性活躍方針に懐疑心を抱いている”という結果が示されている[図表2]

[図表2]社員が抱いている「自社の女性活躍推進施策への懐疑心」

図表2

資料出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」(2022年)([図表3]も同じ)

 これによれば、自社の施策について“ただ法律の改正に合わせて行っているだけ”“ただ表面的に世間体を整えているだけ”“どうせ効果はない”など、手厳しい見解が多く見受けられる。
 また、男性社員・女性社員ともに約1割が「女性活躍は自社には必要ない」と考えている点も見過ごせない。

 「懐疑心を持たれている」ということを認識しないで施策を走らせると、研修などでもすごく斜に構えた参加者が出てきたり、懐疑心を管理職が思わず口にしてしまったりすることもある。
 もちろん、研修などを通じて解消可能な側面もあるが、特に「疑われている」と強く感じる場合には、対応施策を講じるべきといえる。

 会社のカルチャーによるが、女性管理職が非常に少ない状態の会社が女性活躍に取り組む際には、最初のうちは方針の示達や施策の展開に対して懐疑心がかなり強く出る(かつ、その解消には相応の時間と労力がかかる)と思ったほうがよいだろう。

[3]「経験」の観点──育成の問題

 さまざまなデータを見ていくと、男性社員と女性社員はキャリアに対して求めるものが異なることが分かる。

 傾向としては、おおむね次のようなものだ。

【男性社員】

  • 「年齢とともに給与を上げていきたい」
  • 結婚・出産を機に「家族を支えたい」と考えて、さらなる昇進や給与アップを目指す人が多くなる

【女性社員】

  • 全般的に給与アップよりも「どのような経験ができるか」という点に関心がある

 例えば、ある会社では女性社員に「管理職を目指そう! 給与も上がるよ」と提案したところ、「お金が欲しいわけではありません」という反応があったという。
 また、新卒採用で、意欲的な人材を採用し、新卒で入社したてのころは「管理職やリーダーになりたい」という女性が多いものの、年齢を重ねるにつれて昇進意欲が減少していくというデータ(前掲パーソル総合研究所調査)もある[図表3]

[図表3]ライフステージ別に見た管理職への就任意向

図表3

 [図表3]を見ると明らかなように、男女ともにライフステージの節目(結婚や子育てのタイミング)でキャリア意識が変化する。

 男性の場合、結婚に伴って「頑張るぞ」と管理職になろうとする意欲が高まる。そして、子どもの成長とともに、その思いはさらに高まっていく傾向にある。
 一方、女性の場合、結婚のタイミングで男性ほど顕著な上昇はなく、さらに子どもが生まれて少し経過すると、総じてキャリア意欲が低下する。その後は再び上昇するものの、経験したことがない(かつ、あまり良いイメージのない)管理職就任への心理的なハードルは徐々に上がっていく。

 女性社員について、こうした状況を解消する上で、早期のリーダー選抜やキャリア教育がとても有効だ。

 経営トップの号令で女性活躍プロジェクトを立ち上げた──という話はよく聞く。だが、実際に狙いどおりの成果を得ている企業はどれくらいあるだろうか。今回はこうしたプロジェクト推進に関してよくある失敗事例として、
①目標はあるが、方針がない
②当初は反応が良かったが、次第にパワーダウンしている
③働きやすくなったが、女性リーダーが増えない
──という三つのパターンを紹介した。

 さらに、女性リーダーが活躍する組織づくりにおいて重要なポイントとして、
①「時間」の観点:両立可能性の問題
②「展望」の観点:未来展望の問題
③「経験」の観点:育成の問題
──の三つを解説した。

 第1回・第2回を通じて、女性管理職比率を思うように高められない企業が、どのような課題を抱えていて、どこに原因があるのか、全体像が見えてきたと思う。最終回となる第3回では、それらを解決するための処方箋を「女性リーダーの輩出に向けた具体施策5選」というテーマで提示したい。

東宮美樹 とうみや みき
株式会社ジェイック 取締役
株式会社Kakedas 取締役

ハウス食品株式会社で営業職を経験、人材紹介会社で求職者(3000人)のカウンセラーを経験した後、2006年ジェイックに入社し、「研修講師」としてのキャリアをスタート。2014年には前例のない快挙となる、講師として「リピート率100%」を3年連続で達成。2015年社員教育事業の事業責任者に就任、組織開発相談など支援実績多数。2023年キャリア相談オンラインサービスKakedasの取締役を兼任。定着・活躍推進、キャリア自律、イクボス、女性活躍推進などを中心に活躍中。

株式会社ジェイックについて(女性活躍推進の取り組み)

1991年に教育会社として設立。現在、企業向け研修などの教育支援と、新卒や20代若手の採用支援を手掛ける(東証グロース市場上場)。現在241人の社員のうち、男性51%・女性49%と男女比はほぼ半々で、女性の管理職比率は35%。社員教育を行い、社員が定着して性別を問わず継続的に活躍することを組織づくりのゴールに定め取り組みを進めてきた結果、「日本HRチャレンジ大賞」(後援:厚生労働省、中小企業基盤整備機構〔中小機構〕、東洋経済新報社、ビジネスパブリッシング、HR総研〔ProFuture〕)を3回受賞し、「働きがいのある会社」(Great Place To Work® Institute Japan)に7年連続(2017~23年)で選出。「女性活躍推進企業」として国が認定する「えるぼし」も、2018年に3つ星の認定を受けている。