2023年10月27日掲載

Point of view - 第239回 石崎真弓―ハイブリッドワークにおけるワークプレイスの重要性

石崎真弓 いしざき まゆみ
株式会社ザイマックス不動産総合研究所
主任研究員

リクルート入社後、リクルートビルマネジメント(RBM)にてオフィスビルの運営管理や海外投資家物件のPM(プロジェクトマネジャー) などに従事。2000年RBMがザイマックスとして独立後、現在のザイマックス不動産総合研究所に至るまで、オフィスマーケットの調査分析、研究に従事。近年は、働き方と働く場のテーマに関するさまざまな調査研究、情報発信をしている。

 長きにわたったコロナ禍の影響を受け、日本企業の働き方と働く場は大きく変化した。コロナ禍に突入した2020年に騒がれたオフィス縮小・不要論を聞くことも少なくなり、5類感染症へ移行した今年は再びオフィス出社への揺り戻しが話題となっている。採用意欲が強まっていることも影響して、オフィスの手狭さを感じている企業が増えており、オフィスの拡張ニーズもコロナ禍前の勢いに近づいている。
 しかし、在籍する人数に合わせた従来の固定的なオフィス施策は、時代に合わなくなってきた。出社とテレワークを併用するハイブリッドワークに即したオフィスにアップデートしていくことは、新規採用や人材のリテンションなどを扱う人事の観点からも見逃せない要素となってきたといえるだろう。ただし、その具体的な施策や運用に課題を感じている企業は依然として多い。
 本稿では、弊社調査の結果から足元のハイブリッドワークの実態と課題、そして企業経営におけるワークプレイス戦略および施策の重要性についてお伝えしたい。人事部の方にとっても、参考となる情報提供となれば幸いである。

1.ハイブリッドワークの取り組みが続く(働き方と働く場の変化)

 コロナ禍の収束に伴い、日本では欧米に比べて出社率が高まっていることが指摘されているが、コロナ禍以前に戻るわけではない。オフィスを利用する企業の実態をみると、74.4%が今後もテレワークを行う意向があると回答し、完全出社の意向と回答した企業は25.6%にとどまっていることから、今後はハイブリッドワークをデフォルトとした働き方が定着していくと想定される[図表1]

[図表1](企業)出社率の実態と意向

図表1

資料出所:ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2023春」
https://soken.xymax.co.jp/wp-content/uploads/2023/08/2308-office_demand_survey_2023s.pdf

 テレワークは、従業員の労働環境や心身の健康、ウェルビーイングの向上や通勤時間の削減によるストレスの低下といった効果があることから、恒久的な施策として捉えられるようになったといえる。
 その一方で、働く場としては適さない住宅環境のほか、オンオフの切替えがしづらい、孤独感や運動不足など、在宅勤務が持つさまざまな課題も根強く残る中、コロナ禍当初に一気に増えた在宅勤務制度の導入率が昨年から若干低下している。そのような中、テレワークの場の新たな選択肢として、サテライトオフィス(企業が、自社で整備または多様な場を選べる他社サービスを利用して従業員に提供する、テレワークのための場)の整備・導入率が伸びていることに注目している。
 加えて、オフィスの価値や在り方についても再考されている。せっかく出社しても席が不足している、増えたオンライン会議ができる小規模な会議室がないなど、オフィスの機能的快適性を満たせていないケースは少なくない。また、オフィスをコミュニケーションの活性化や企業ブランディング、エンゲージメントの意識を高める場にしたいとレイアウトを変更しても、どうオフィスを使ってほしいのかに関するメッセージの伝え方といった従業員とのコミュニケーションに頭を悩ませているケースもあるだろう。
 企業、組織、チームや個人の各レベルにおいて、オフィスとテレワークそれぞれをどのように運用すればうまくいくのか、簡単に解決策にたどり着くことが難しくなっている。

2.ワークプレイス施策が従業員の心理的快適性に与えるプラスの影響

 そこで次に、弊社調査による、ワークプレイス施策が従業員のワーク・エンゲージメントに与え得る影響の考察を紹介したい。分析の結果、オフィス出社か在宅勤務かの二択よりも、サテライトオフィスを加えた多様な選択肢からその日の仕事やプライベートの事由に合わせて場所を選んで働ける環境を従業員に与えるほうが、ワーク・エンゲージメントをより高めることにつながる可能性が見て取れた。さらに、ワーク・エンゲージメントと、会社で働き続けたいと思う「定着性」や生産性高く働けていると感じる「生産性」の指標との間にも正の関係が見られた[図表2]
 従業員個人の特性や仕事、生活の環境変化など複合的な要素に影響を受ける心理的快適性を、企業が直接的にコントロールすることは難しいと思われるが、働く場所を自律的に選ぶ権限を与え、多様なワークプレイスの選択肢を提供することは可能であり、それが結果的に企業にとってもポジティブな効果を生むことにつながるとなれば、選択肢の一つとしてハイブリッドワークを検討する価値はあるだろう。

[図表2]検証により示唆された関係性

図表2

資料出所:ザイマックス不動産総合研究所「ハイブリッドワークが企業にもたらすメリット」
https://soken.xymax.co.jp/2023/05/24/2305-benefits_of_hybrid_work/

3.ワークプレイス戦略には、人事、IT戦略を含めたトータルな取り組みが有効

 日本企業の、オフィスにおける心理的快適性への関心不足は海外の有識者からも指摘されているところであるが、人的資本経営が求められる中で、今後のワークプレイス戦略においてもワーク・エンゲージメントやウェルビーイング、アイデンティティーの創造など心理的快適性に対する多様なアプローチが求められてくるだろう[図表3]
 従来のオフィスに新たな役割を与え、在宅勤務やサテライトオフィスが持つ機能を組み合わせた柔軟なハイブリッドワークの運用を目指すことは、もはや人事の領域にも大きく関係を持つようになってきたともいえる。
 ぜひワークプレイスが持つ価値とポテンシャルについて、ご一考いただければと思う。

[図表3]ワークプレイスの快適性モデル

図表3

資料出所:ザイマックス不動産総合研究所「グローバル:新しい働き方を理解するための7つのモデル」
https://soken.xymax.co.jp/hatarakikataoffice/viewpoint/worktrend/column23.html