2024年02月05日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [272]『主体的に動く アカウンタビリティ・マネジメント(新装版)』

(ロジャー・コナーズ/トム・スミス/クレイグ・ヒックマン 著 伊藤守 監訳 花塚 恵 訳 
ディスカヴァー・トゥエンティワン 2023年9月)

 

 本書で言う〈アカウンタビリティ〉とは、「当事者意識を持って主体的に行動する力」という意味です。著者らは、アメリカで最もポピュラーな童話『オズの魔法使い』のテーマは、「登場人物たちが被害者意識から脱し、自分の持っている能力に気づく」ことであるとし、『オズ』の物語や登場人物になぞらえながら、個人と組織がアカウンタビリティを高めていく方法を解説しています。

 3部構成の第1部(第1章~第3章)では、ビジネスの世界に蔓延(まんえん)する被害者意識がどのような悪循環を生むかを述べていきます。ここでは、アカウンタビリティがないと被害者意識に陥ってしまうと述べた上で、アカウンタビリティこそが結果を生み出すとしています。

 第1章では、優良企業と凡庸な企業を分けるのは“1本のライン”だとしています。被害者意識から、目標が達成できないことを状況や他人のせいにする風潮がある企業を〈ライン下〉にある凡庸な企業とし、そこには、言い訳、他人への非難、混乱などが並ぶと説明しています。一方〈ライン上〉にある優良企業には、現実認識、コミットメント、問題解決、断固たる行動などが並びます。そして、〈ライン上〉に行くには、①現実を見つめる、②当事者意識を持つ、③解決策を見いだす、④行動に移す――という四つの〈アカウンタビリティのステップ〉を上らねばならないとしています。

 第2章では、被害者意識の悪循環から生じる言動として、①無視する/否定する、②「自分の仕事ではない」とする、③責任の押しつけ合い、④混乱、⑤言い逃れをする、⑥様子を見る――の六つを挙げ、被害者意識の悪循環に陥っていると気づけば、そこから抜け出せるとしています。

 第3章では、アカウンタビリティとは何かを改めて考察し、それは「現状を打破し、求める成果を達成するまで、自分が問題の当事者であると考え、自分の意志で主体的に行動しようとする意識」であると定義しています。また、アカウンタビリティとは「責任の共有」(ジョイント・アカウンタビリティ)でもあるとしています。

 第2部(第4章~第7章)では、自分のアカウンタビリティを伸ばすにはどうすればよいかを、先に挙げた四つのステップに沿って説明しています。第4章では勇気を持って「現実を見つめる」ことについて、第5章では「当事者意識を持つ」ことについて、第6章では「解決策を見いだす」ための知恵を手に入れることについて、そして第7章では、すべてを「行動に移す」ことについて、それぞれ解説しています。

 第3部(第8章~第10章)では、組織全体がアカウンタビリティを身に付けるにはどうすればよいかを述べています。第8章では、〈ライン上のリーダーシップ〉とはどのようなものかを、第9章では、組織全体を〈ライン上〉に導くにはどうすればよいかを述べ、第10章では、今日の企業が抱えるさまざまな問題に対し、どのように対処すればよいかを説いています。

 「成功の鍵を握るのはアカウンタビリティ」であるというのが本書の趣旨ですが、一般的にアカウンタビリティという言葉は、過去の出来事の「説明責任」というネガティブな意味で使われています。それに対し、本書においては、アカウンタビリティによって未来への前向きな意志を引き出すことができるという、ポジティブな用いられ方となっている点が特徴的です。

 本書の原書である“The Oz Principle”は1994年にアメリカで出版され、50万部を超えるベストセラーとなっています。日本では2009年に初版が刊行され、このたび改版されたということは、それだけ長く読まれて続けているということでしょう。『オズの魔法使い』を基に説明することによる読みやすさもさることながら、今日の企業組織が抱える問題に照らしても内容に普遍性があることが、その最大の要因ではないかと考えます。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2023年10月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー