代表 寺澤康介
(調査・編集:主席研究員 松岡 仁)
ProFuture代表の寺澤です。
2024年度(2025年3月)卒業・修了予定者の就職・採用活動時期に関する東京大学からの要請文書が、10月24日に公開されました。東京大学が新卒採用に関して企業に要請文書を公開するのは、2016年3月以来のこととなります。この時は、「採用選考に関する指針」(就職ルール)が前年の「採用広報開始 3月1日、採用選考開始 8月1日」から「採用広報開始 3月1日、採用選考開始 6月1日」に変わるタイミングで、学業等に支障を来さないように必要な配慮を企業に求めたものでした。
今回の要請文書も基本的な趣旨は前回と同様ですが、2024年2月末までに開催される「企業説明会」には協力を拒否する点や、採用選考開始前の早期内定や“オワハラ”など、職業選択の自由を妨げる行為を禁止する内容が強調されています、また、インターンシップの適切な実施についても、「三省合意」に基づく指針が詳細に示されており、要請文書全体としては、前回よりも内容が強化されています。これは、東京大学の学生の学修環境に対して著しい影響を及ぼす事象が既に現れていることを示唆しています。
内定承諾しても不安を抱える学生が半数以上
さて、今回も前回に引き続き、HR総研が「楽天みん就」と共同で実施した「2024年卒学生の就職活動動向調査」(2023年6月1~12日)の結果を紹介します。
まずは、内定承諾した企業に向けた不安について確認した結果を[図表1]で示します。理系の学生の中で「(不安が)ある」と回答した割合は53%であり、文系学生の59%よりは低いものの、いずれも半数以上の学生が何らかの不安を抱えていることが分かります。「(不安が)ある」学生の割合において理系のほうが少ない背景は、前回の最後の項目([図表14])で述べたように、「第1志望の企業に内定したので(就活を)終了」した割合が文系よりも多く、6割を超えていることが大きな要因と考えられます。
[図表1]内定承諾した企業への入社に向けた不安の有無
資料出所:HR総研「2024年卒学生の就活動向調査」(2023年6月、以下図表も同じ)
それでは、学生はどんな不安を抱えているのでしょうか。入社に向けた不安の内容を複数選択で回答してもらった結果、文系と理系の間ではほぼ同じ傾向が見られました[図表2]。文系と理系の両方で最も多かったのは「職場メンバーに馴染めるか」で、文系で54%、理系ではさらに多い59%となっています。理系では6割近くに達し、文系でも半数を超えたのはこの項目だけです。次に多かったのは「仕事で成果を出せるか」で、文系で46%、理系では53%とこちらも半数を超えています。続いて「配属先」(文系38%、理系41%)が挙げられます。これらの不安はいずれも入社してみないと解消が難しいものばかりですが、内定者が安心して入社できるよう、企業は「エンプロイー・エクスペリエンス」(Employee Experience:従業員体験)を提供し、内定者に寄り添った内定者フォローを行うことが必要です。採用担当者だけではなく、現場に配属された若手社員にも協力を頼んで、自身の経験や実例を共有してもらうことが効果的です。
[図表2]入社に向けての不安の内容(複数回答)
全体的な傾向は文系と理系で大きな差異はありませんが、「会社の安定性」に関心を寄せる学生の割合は文系よりも理系が高いです。これは、「大手志向」や「安定志向」の影響を受けているためだと考えられます。また、「教育制度・研修」に関心を示す学生が比較的多いことも理系の特徴と言えます。一方で、コロナ禍では重要視された「テレワークでの就業環境」は、文系・理系ともに1割未満の割合でしか関心を示していない結果となりました。
「その他」の不安の内容としては、「残業時間(文系、上位国公立大)」、「労働時間の長さ(文系、上位私立大)」、「寮の環境、親元を離れての生活への不安(文系、中堅私立大)」、「学閥(文系、上位私立大)」、「自分のスキル(理系、旧帝大クラス)」、「英語(理系、上位私立大)」などが挙げられています。
これらの不安を解消するためには、内定承諾先の企業の社員に相談するのが最適です。では、内定承諾先企業内で、これらの不安を相談できる相手は存在しているのでしょうか。相談相手の有無について尋ねた結果、文系では53%、理系では60%が「(相談できる相手が)いる」と回答しています[図表3]。ただ、逆に言えば、4割以上の学生は「(相談できる相手が)いない」ということです。相談できる相手が不在の場合、学生は不安を抱えたまま(モチベーションが低いまま)入社式を迎えることになります。入社式まで持ちこたえてくれればまだよいのですが、運が悪いと、入社までの期間に内定承諾先企業よりも安心感のある企業と出会ってしまい、そちらの企業にくら替えを考えることもあるかもしれません。
[図表3]内定承諾した企業における相談相手の有無
内定者一人ひとりに、相談できる相手が自社内にいるのかどうか、再度確認することが必要です。採用担当者がその役割を担うことも可能ですが、内定者が多い場合には、入社前からメンター的な役割の社員を配置することが望ましいでしょう。内定者フォローの計画を見直し、内定者とのコミュニケーションを強化することをお勧めします。
内定後、内定承諾まで1週間が半数以上
次に、学生が「内定承諾した企業を初めて就職先候補企業として認知した時期」を文系と理系で比較してみましょう。文系で最も多かったのは「2023年3~4月」で、その割合は22%でした[図表4]。それに続き、「2022年10~12月」が20%、「2023年1~2月」が17%と続き、合計で「2022年10月~2023年4月」が60%近くに達しました。一方、理系で最も多かったのは「2022年3月以前」で、その割合は22%であり、文系で最多だった「2023年3~4月」は16%にとどまりました。これらからも、理系のほうが早くから志望企業を形成し、第一志望の企業からの内定を得られていることが示唆されています。
[図表4]内定承諾した企業を初めて就職先候補企業として認知した時期
では、「入社を決めた企業」(内定承諾した企業)から内定をもらった時期にはどんな違いがあるのでしょうか。[図表5]は、文系における入社を決めた企業の内定時期の結果です。最も多かったのは「2023年5月後半」の21%で、次いで「2023年4月後半」が17%、「2023年5月前半」が14%、「2023年6月前半」が10%で続きます。言い換えれば、内定は「2023年4月後半」以降に6割以上(62%)が集中していることが示されています。
[図表5]「入社を決めた企業」(内定承諾した企業)の内定時期(文系)
一方、理系で最も多かったのは「2023年4月前半」と「2023年4月後半」で、それぞれ18%でした[図表6]。次いで「2023年3月後半」が13%で続き、「2023年2月」も10%と高い割合でした。文系で最多だった「2023年5月後半」は11%にとどまります。「2023年4月後半」以降は46%と半数を下回り、一方で「2023年2月~4月後半」は64%に達します。したがって、最終的に入社を決めた企業からの内定時期についても、文系より理系のほうが1カ月程度早いことが分かります。
[図表6]「入社を決めた企業」(内定承諾した企業)の内定時期(理系)
では、入社予定の会社からの内定には、すんなり内定承諾をしたのでしょうか。内定を受けた企業からの内定承諾までの時間についても、文系と理系を比較してみましょう[図表7]。
文系と理系の両方で最も多かったのは「1週間以内」であることは同じですが、文系がちょうど半数の50%なのに対して、理系は65%と3分の2近くに達しています。「2週間以内」は文系19%、理系17%とそれほどの差はありませんが、それよりも長い「1カ月以内」となると、文系の19%に対して理系は10%と大きな差が開きます。それ以上の期間では、すべて文系のほうが高い割合となっています。
推薦制度を利用しての応募の場合、企業から内定が出たら原則、承諾することを求められますので、「1週間以内」の割合において理系のほうが大差で高いことは理解できます。また、理系のほうが、就活を終了してしまえるほどの第一志望企業からの内定割合が多かったことも影響しているでしょう。
[図表7]入社予定の会社から内定後、内定承諾するまでに要した期間
なお、「1週間以内」と「2週間以内」を合計すると、文系では69%とほぼ7割、理系では82%と8割を超えます。もし、内定を出してから「2週間以内」に内定承諾がなかった場合には、“内定辞退の兆候あり”と考えてもよいでしょう。特に理系学生においては、この割合が高いことが示唆されています。
また、文系学生の中で「3~4カ月以内」から「半年より長期間」までの範囲に入る割合が4%あることが気になります。これは、志望企業が複数あり、一部の企業の選考スケジュールが内定先企業のスケジュールと大きく異なっていた(極端に遅かった)場合に起こるものです。遅いスケジュールの企業の結論が出るまで内定承諾の決断はしづらいのは理解できるものの、さすがにこれだけ長期間にわたり待たされる企業側のことを考えると、「待たせすぎでしょう」と言いたくもなります。逆に、企業には「よく待てましたね」とたたえたいところですが、考えようによっては、学生の抱えている不安を解消できていなかったからこそ、陥った事態だと言えなくもありません。このように、内定を受けた学生にとって、不安を解消し、内定承諾をスムーズに進めるためのサポートが必要です。
内定承諾に重視される「福利厚生」
ところで、学生が最終的に内定承諾を決めた理由(決め手)は何なのでしょうか。文系、理系別に見ていきましょう。文系の内定承諾を決めた理由(複数選択)を降順に並べた結果が[図表8]です。最も多かったのは、「仕事内容」(64%)を押さえて「福利厚生」の65%でした。実に3分の2近い学生が選択しています。学生が面接等で最も質問しにくいと感じている「福利厚生」が内定承諾の決め手のトップとなると、企業は積極的に「福利厚生」に関する情報を提供し、自社の「福利厚生」面での強みに焦点を当てて、徹底的に訴求していくことが重要です。3番目には「給与」(61%)が挙げられており、「残業時間」(35%)と合わせて、これらも質問しにくい項目の上位に位置していますので、丁寧な説明が求められます。
[図表8]内定承諾を決めた理由(文系、複数回答)
なお、近年注目されている「ジョブ型採用」はわずか2%で、今回の選択肢群の中では最下位となっています。実業に結び付く専門性を持たない文系学生にとっては、「ジョブ型」が理解しにくい可能性があるかもしれません。
次に、理系の内定承諾理由(複数選択)を見てみると[図表9]、最も多かったのは「仕事内容」の71%で、次いで「事業内容」(65%)が続きます。3番目と4番目には「給与」(63%)と「福利厚生」(58%)が入り、理系にとっても重要な情報であることが分かります。ただし、「残業時間」については、22%と文系よりもかなり低い割合となっており、文系ほど重要視していない様子がうかがえます。
[図表9]内定承諾を決めた理由(理系、複数回答)
文系で最下位だった「ジョブ型採用」(4%)は、ポイントこそ文系よりも高いものの、理系においても同様に最下位となりました。これは、まだ「ジョブ型採用」を実施している企業が限られていることが影響している可能性があります。
文系・理系のどちらにおいても、「人事の対応・人柄」(文系:36%、理系:29%)と「社員の対応・人柄」(文系:32%、理系:31%)の評価が決して低くないことに注目します。インターンシップ、OB・OG懇談会、会社説明会・セミナー、面接、さらには対面することはないWEB上での動画紹介まで含めると、学生との接点は多岐にわたります。人選の重要性はもちろんですが、現在の新卒採用活動を取り巻く環境説明から、具体的な学生とのコミュニケーションの内容やスキルについて、研修やトレーニングを通じて積極的に向上していくことも大切です。
なお、内定承諾を決めたその他の理由としては、「自分の希望キャリアへの近道だと感じた(文系、早慶大クラス)」や「社員の経歴(理系、その他私立大)」、「大学の紹介(理系、その他私立大)」などが挙げられています。
「会社の雰囲気」はインターンシップで実感
前項の内定承諾理由を見ると、文系の5位、理系の6位に「会社の雰囲気」が挙げられています。では、学生は内定承諾した企業の「会社の雰囲気」について、どの情報源から得ているのでしょうか。文系、理系別に調査結果を見ていきましょう。
まず、文系に焦点を当てると、「企業説明会で人事担当者等からの紹介」が最も多くの学生に選ばれており、割合は45%です[図表10]。それに次いで、「インターンシップでの職場体験・見学」と「対面面接(会社訪問)での雰囲気から推測」がいずれも44%で高い比率となっています。また、「面談での人事担当者からの説明」も43%で、これらの項目はほぼ同程度の重要性を持つことが分かります。
[図表10]内定承諾した企業の「会社の雰囲気」情報の入手先(文系、複数回答)
[注]「企業HPでの紹介」は、“社員インタビュー・オフィス紹介などの動画”を指す([図表11]も同じ)。
面白いことに、「企業HPでの紹介」について、“社員インタビュー・オフィス紹介などの動画”と「企業HPでの紹介(文章による紹介)」とに個別に項目立てして調査したところ、前者が41%、後者が36%という結果が得られました。企業の採用ホームページを確認すると、多くの企業が「文章による紹介」を提供している一方で、「社員インタビュー・オフィス紹介などの動画」を提供している企業は多分半数に満たないでしょう。それにもかかわらず、学生は「動画」の情報を重視しており、5ポイントも高い割合となっています。動画コンテンツは文章よりもはるかに影響力が高い可能性が示唆されています。あるいは、意外と学生は、文章情報をそれほど読み込んでいない可能性も考えられます。
一方で、理系の結果を見ると、「インターンシップでの職場体験・見学」が49%とほぼ半数を占めており、他の情報に差をつける結果となっています[図表11]。このことから、理系学生向けのインターンシップは、文系以上にプログラム構成を工夫する必要がありそうです。34%だった文系学生と比べて、「リクルーター・社員座談会等を通じて」が43%と高いことも明らかになりました。文系よりも理系のほうが「リクルーター・社員座談会」を経験している学生が多いことが推測されます。また、文系と同様に、「企業HPでの紹介(文章による紹介)」は28%ですが、“社員インタビュー・オフィス紹介などの動画”は31%と、やはりこちらでも動画情報が重要視されています。一方で、「ネット記事(企業HPを除く)」については、文系(14%)と比較して、理系はわずか7%と半数にとどまり、ネット記事に左右される割合は低いことが明らかになりました。
[図表11]内定承諾した企業の「会社の雰囲気」情報の入手先(理系、複数回答)
文系と理系に共通して言えることは、「新聞・雑誌・書籍」は、わずか1%しか「会社の雰囲気」情報の入手先としては利用していないことです。新聞(紙面)を購読している学生は果たしてどの程度にまで低下しているものなのでしょうか。オンラインでの情報収集は便利ですが、新聞社のWebサイトを購読するのではなく、Yahoo!ニュースなどだけで情報収集している学生が増えることは懸念材料です。
最初の接点は「インターンシップ」が3割
内定承諾した入社予定の企業について、就職活動における最初の接点は何だったのかを尋ねて、その結果をまとめてみました。文系学生に関しては[図表12]、理系学生に関しては[図表13]です。文系・理系ともに、最も多かったのは「インターンシップ」で、文系では31%、理系でも29%とどちらも約3割となっています。今やインターンシップが最も重要な採用経路となっていることが分かります。採用選考の早期化の弊害が叫ばれながらも、企業としてはインターンシップを実施しないわけにはいかないと考えざるを得ないわけです。
[図表12]入社予定の企業との就職活動における最初の接点(文系)
[図表13]入社予定の企業との就職活動における最初の接点(理系)
次いで、「就職ナビからのプレエントリー」が文系で23%、理系では16%で続きます。文系は次に「企業のHPからのプレエントリー」が11%で続き、理系は「インターンシップ説明会/業界研究セミナー(2月以前)」が12%、「企業のHPからのプレエントリー」11%となります。なお、「合同企業説明会(3月以降)」や「知人からの紹介」などはいずれも1割未満の状況です。
続いて、複数の内定を持ち、入社する企業を決めた学生に対して、その他の企業(志望度の低い企業)への内定辞退の連絡が既に済んでいるかを確認してみました[図表14]。すると、「すべての企業に内定辞退を伝えた」と回答した学生は理系では75%に上りましたが、文系では50%と半数にすぎませんでした。文系学生の半数は、まだ辞退を伝えていない内定先を抱えており、さらにその半数以上が「まだ(1社にも)伝えていない」という状況が明らかになりました。6月後半以降に、内定辞退の連絡を受けた企業がいかに多かったかがうかがえます。
[図表14]内定辞退の連絡状況
最後に、企業にとって少しばかり希望的な結果となる調査結果を共有します。内定を辞退する意思があったにもかかわらず、その後の企業の何らかの対応等によって、決断を一転して内定承諾に変更した学生が、文系で7%、理系で6%もいるということが明らかとなりました[図表15]。「営業は断られた時から始まる」とよく言われますが、採用においても同様な「一発逆転」が可能であることを示唆しています。
[図表15]内定辞退予定から内定承諾に変更した企業の有無
次回は、この「一発逆転」の要因をはじめ、「志望度が上がったエピソード」や「採用する企業側に改善してほしいこと」など、学生からのリアルな声を中心に紹介したいと考えています。どうぞお楽しみに。
寺澤 康介 てらざわ こうすけ ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長 1986年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。2007年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。 著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。 https://www.hrpro.co.jp/ |