労働政策研究・研修機構(JILPT) 主任研究員
A5判/308ページ/3000円+税/労働政策研究・研修機構
BOOK REVIEW ―人事パーソンへオススメの新刊
■ 本書は、労働政策研究・研修機構(JILPT)による調査やデータの分析結果等に基づき、雇用・労働問題の実態や今後の課題等を明らかにする「プロジェクト研究シリーズ」の一冊である。労働分野の政策研究機関である同機構では、2005年度から介護離職に関する本格的な研究を続けており、制度づくりの参考資料となる調査結果を厚生労働省等に提供するとともに、さまざまな問題提起を行っている。
■ 1995年に制定された初期の育児・介護休業法適用下に行った2006年調査では、労働者の多くが介護休業ではなく年休を介護に充てている実態が明らかになったという。第1章はこのような法政策の想定と実態の乖離と、介護離職の問題構造を整理する。育児・介護休業法と介護保険制度の枠組みの詳解と先行研究の整理を第2章で行った上で、第3章から第8章は同機構が実施した「家族の介護と就業に関する調査」の結果から分析内容や考察を示す。育児・介護休業法の「制度的構造」と介護離職の「関係的構造」の関係に着目し、両立支援制度構築の課題を分析しており、介護者の健康問題(第5章)、職場での人間関係と介護離職の関係(第8章)など介護に派生する問題を多角的に明らかにする。
■ 介護の多様な実態の中に共通性を発見し、制度づくりの課題を明らかにしてきた従来の研究と異なり、多様性に着目し、ケースは少数でも介護離職につながり得る問題に対応可能な制度づくりの考え方を示したことが本書の特徴であると著者は述べる。なお、各章が完結した内容にまとまっており、関心のある分野から読むこともできる。介護をしながら働く社員が抱える問題と両立の実態への理解が深まる一冊だ。
内容紹介 社会学が拓く介護離職ゼロへの道。 現行法が想定する仕事と介護の生活時間配分の問題から守備範囲を広げて介護者の健康や人間関係の問題にも対応可能な両立支援制度の考え方を示す。 序章 介護離職問題と両立支援の現在地 第1章 法制度と実態の乖離を問う―本研究のための「構造」概念の整理 第2章 介護離職防止のための法政策―育児・介護休業法の枠組み 第3章 長期介護休業の必要性―その理由の多様性に着目して 第4章 日常的な介護と介護休業―介護休暇・短時間勤務との代替関係 第5章 介護者の健康と両立支援ニーズ―生活時間配分と健康問題の接点 第6章 介護サービスの供給制約と介護離職―介護の再家族化と両立支援ニーズ 第7章 「望ましい介護」と仕事の両立―介護方針の多様化と介護離職 第8章 介護離職と人間関係―職場・家族・友人との関係に着目して 終章 多様性に対応した両立支援に向けて |