2023年12月26日掲載

ケース/シチュエーション別 知っておきたいアンコンシャス・バイアス20選 - 第2回 採用・選考の場面に起こりやすいアンコンシャス・バイアスに対処する

荒金雅子 あらかね まさこ
株式会社クオリア 代表取締役
プロフェッショナルファシリテーター(CPF)

 アンコンシャス・バイアスは、組織のさまざまな場面に潜んでいる。特に採用・面接・選考や、アサイン(役割付与)・育成・評価・昇格などの人事領域では、「評価者バイアス」や「人事評価エラー」などの言葉でその問題点が指摘され、新任管理職研修などでも学ぶべき必須テーマとなっている。
 近年では、テクノロジーの進展により、採用活動にAIを導入する企業も増えているが、こうした人工知能もアンコンシャス・バイアスと無縁ではない。2018年、米アマゾンは採用試験用に開発したAIの運用を取りやめ、話題となった。AIが「女性」という単語が入った履歴書を低く評価したためだ。また、マイクロソフトは、カリフォルニア州警察で運用開始を予定していた顔認識の装備を、「女性やマイノリティーに対して不当に厳しい態度をとる可能性がある」として中止している。ビッグデータを基に開発されるアルゴリズムは、人間の潜在意識にあるアンコンシャス・バイアスを反映してしまう危険性があることが、多くの研究からも指摘されている。さまざまな属性に対するアンコンシャス・バイアスは根強いものがある。だからこそ、評価やマネジメントをする立場にある人がアンコンシャス・バイアスに無自覚だと、自分自身の思考や価値観、経験などに無意識に影響され、正しい評価を阻害してしまうことになる。
 今回は、採用・面接や選考の場面で特徴的に起こりやすいアンコンシャス・バイアスの類型と、その対処法について紹介していく。

採用・面接・選考の場面でありがちなアンコンシャス・バイアスとは

アンコンシャス・バイアス類型(1):ステレオタイプ

あなたはどう思う?

IT部門の仕事は高齢者には難しいから、できるだけ若い人を採用する

運動部出身の学生は、元気で積極的だから営業に向いている

女性は配慮や気配りができるから、サポート業務が向いている

外国人はすぐ辞めるから、採用は慎重にしたほうがいい

今度のプロジェクトは長期間でハードだから、女性は難しい

ステレオタイプとは
 特定の属性を有する人々や特定の集団などに対して、過度に一般化して、「あの人は○○だからこうだ」とか「〇〇に属する人はきっと△△にちがいない」と決めつけたり、思い込んでしまう画一的な考え方を「ステレオタイプ」という。
 私たちは日々多くの人と出会い、関わりを持つことがある。相手がどういう人なのか、限られた時間や情報の中で素早く判断する必要があるときに、「カテゴリー(類型)化」することによって相手を大枠で理解し、その人に対するシンプルな見方を手に入れることができる。
 ステレオタイプの多くは、特定の属性の特徴について過度に単純化して、一般化・カテゴリー化したり、不確かな情報や知識に基づいて誇張するときに起こる。

起こり得る問題・影響
 ステレオタイプが強いと、性別や年齢、学歴、職業、人種など、その属性ごとに特定の特徴があると思い込み、先入観や固定観念で見てしまう。本来のその人自身の個性や特性よりもステレオタイプの影響が強くなり、誤った判断をしてしまうことがある。特に採用や面接の場面では、わずかな情報や短い期間で個人を判断しがちであり、担当者が強いステレオタイプを持って「イメージ先行」で相手を見てしまうと、合否に大きな影響を与えてしまうこともある。

基本的な対処法

①自分の偏った見方を手放す
 性別や年齢、国籍、学歴などの属性に対するステレオタイプは、非常に強固なところがあり、そう簡単には排除できない。だからこそ、“自分にもある”ということを自覚することが重要だ。そして、思い込みに惑わされないよう「ステレオタイプに陥っていないだろうか」と自問自答し、「目の前の人がそうかどうか分からない」と、客観的な考え方を手に入れる必要がある。

②複数の人と話し、さまざまな情報源に触れる
 メディアや権威のある人が言うとつい信用してしまったり、親しい人の言葉をうのみにしてしまったりする場合がある。また、限られた情報にしか接していないと、知らない間にステレオタイプに陥ってしまうことがある。固定的なステレオタイプを防ぐためには、できるだけ多方面から情報を入手し、自分とは異質な人、普段は話さない人と会話する機会を増やすなど、情報の質を高め、量を増やすことが大切だ。

アンコンシャス・バイアス類型(2):ポジティブ・ネガティブハロー効果

あなたはどう思う?

出身大学が有名だったり、特定分野での受賞経歴があると、優秀な人材だと考え評価が高くなる

語学が堪能な学生は、グローバルで活躍できそうだと期待する

明るく元気な人に対しては、営業や接客向きだと考える

学校を中退していたり転職回数が多いと、すぐに辞めてしまうのではと不安になる

内向的で無口な学生は、コミュニケーション力に問題があると決めつける

ポジティブ・ネガティブハロー効果とは
 ハロー効果とは、際立った特徴がある場合に、その特徴が他の要素にも影響を与え、評価や印象をゆがめてしまうことをいう。ポジティブハロー効果は、良い面、優れた面や好ましい点があると、実際以上に高い評価をしたり甘くなってしまうことをいい、ネガティブハロー効果は、相手の良くない面やネガティブな経験を基に、否定的に見てしまったり、評価が実際以上に低くなったり厳しくなってしまう傾向をいう。採用や面接の場面では、高学歴であれば他の欠点に甘くなる、秀でた能力があると他の要素に意識が向かなくなる――といったことが起こりがちである。

起こり得る問題・影響
 ハロー効果にとらわれると、多面的な視点が失われ、客観的な評価ができなくなってしまう。高学歴であるとか受賞経験があるなどの輝かしい経歴を持っていると、マイナス要素があっても評価が甘くなったり、マイナス要素自体を無視してしまったりすることがある。
 学歴や過去の業績は一つの判断材料にすぎないが、その部分に引きずられて、偏った判断をしてしまうのだ。また、語学力やITリテラシーなど特徴的なスキルが高いと、それを拡大解釈し、すべての仕事の能力が高いように解釈してしまい、その結果としてミスマッチングを起こす可能性もある。一方で、転職回数が多いとか内向的であるということを否定的に受け止めた結果、他の側面についても評価を下げてしまうことがある。ネガティブハロー効果にとらわれると、一つのマイナス要素を基に相手を判断してしまい、さまざまな可能性を見落としてしまうことになりかねない。

基本的な対処法

①評価基準や質問内容を明確にする
 書類の内容や第一印象、自分自身の好き嫌いなどに引きずられないよう、客観的で明確な評価基準を設けることが不可欠だ。ハロー効果は、ある項目での優れた(あるいは見劣りする)評価が他の項目に影響を与えるため、項目単位で評価の仕方を変更したり、評価者を変えるとよいだろう。誰が行っても同じ結果が出せるよう、評価基準や質問内容を事前に決めて一律に行う「構造化面接」も効果的だ。

②対象者を多面的に評価する質問を行う
 面談をする場合は、表面的な特徴だけでなく、日常の行動や考え方を多面的に観察し、評価することが重要である。そのためには、グループ面接やグループディスカッションの場を設ける、自分に関するレポートを作成してもらうなど、具体的な言動を基に判断できる機会をつくるとよいだろう。評価項目に応じて踏み込んだ働きかけをすることで、適切な判断材料を得ることができる。

アンコンシャス・バイアス類型(3):論理誤差

あなたはどう思う?

乳幼児がいる女性は、子どもの病気などでよく休むから、採用するのは慎重に考えたほうがいい

残業や休日出勤など気にしないという応募者は、仕事熱心だと考える

髪型や服装が独特な応募者は、扱いにくいと敬遠する

理解力の高い人は、問題解決力も高いだろうと評価する

重要なプロジェクトを任せるのだから、残業や急な用件に対応できない人は難しい

論理誤差とは
 論理誤差とは、事実を確認せず、異なる項目が論理的に関係していると思い込み、評価したり判断することをいう。ハロー効果と共通点が多いが、ハロー効果は根拠なく自分の主観・感覚で思い込むことが多いものである一方、論理誤差は、事実に対する間違った理解や過程から推論を積み上げていくところに特徴がある。

起こり得る問題・影響
 例えば、「残業をしない人や、緊急時に対応できない人には、重要なプロジェクトは任せられない」という意見がある。しかし、重要な仕事を任せられる人の要件は、残業することができたり、緊急時に対応できることがすべてではない。論理誤差は、論理の飛躍やゆがみ、偏りに気づかずに、異なる評価項目間に論理的な関係があると思い込み、評価・判断してしまうことに問題がある。このような考えが強くあると、個人の資質や能力、特性を正確に把握することができず、適切な対応ができなくなってしまう。
 さらに、論理誤差に無自覚だと、自分の主観や印象論に振り回され、公正・公平な採用や選考を行うことができない。

基本的な対処法

①「価値の相対化」を意識し、“検証モード”を持つ
 論理誤差は、事実を確認せず自分の推論を正しいと思い込むことに問題がある。自分の価値観を捨てる必要はないが、「絶対」としてしまうと、論理誤差の(わな)にはまってしまうかもしれない。自分の価値をいったん横において、「本当に適切か?」「妥当な判断か?」「ほかの考え方はないか?」と相対的に考え、検証することが重要だ。

②「思考の生活習慣病」を改善する
 「長く仕事をしていると、誰もが知らず知らずのうちに『思考の生活習慣病』にかかっている」と述べるのは、株式会社グローバルインパクト代表パートナーの船川淳志氏だ。思考停止状態になると、思考の放棄症、あるいは思考の依存症を発症し、思考不全状態となる。思考不全状態は、思考のゆがみや思考の偏りを引き起こす。そして、一般的な生活習慣病と同様に、思考の生活習慣病にも自覚症状はなく、自分の思考のクセにも気づきにくい。論理誤差は、この思考の生活習慣病から発生することも多い。自分の思考のプロセスを丁寧にたどり、ゆがみや偏りがないか客観的に精査して、不適切さに気づいたら謙虚にそれを受け入れ、柔軟にアップデートしていくことが必要だ。

アンコンシャス・バイアス類型(4):類似性バイアス

あなたはどう思う?

大学が同じ、出身が同じなど類似点が多いと親近感が湧き、良い評価をしてしまう

話すテンポやスピードが似ている相手には好感を持ち、他の人よりも話す時間が長くなる

自分と同じような苦労をした応募者を見ると、きっと頑張ってくれるだろうと期待する

類似性バイアスとは
 類似性バイアスとは、出身地、学歴、部活、趣味、容姿、得意分野、性格、経験、思考回路など、自分と似ている要素に影響を受け、相手に好意を感じて高く評価することをいう。

起こり得る問題・影響
 類似性バイアスに気づかないと、自分と似たようなタイプばかりを採用することになったり、自分と異なるタイプの応募者・求職者は敬遠したり、低い評価をしてしまう可能性がある。結果として、組織に必要な人材を見落としたり、優秀な人を採用する機会を失うことになりかねない。

基本的な対処法

①面接のプロセスに多様性を入れる
 面接官の同質性が高かったり、特定の人ばかりで面接を行うと、類似性バイアスが特に起こりやすくなる。面接のプロセスでは、できるだけ多様な属性の人を面接官として招き入れ、多面的な視点を取り入れるとよい。

②面接官同士の相互フィードバックを行う
 複数の面接官で面接を行った上で、終了後に面接官同士が評価について相互フィードバックし合うことで、評価ポイントの違いや類似性バイアスなどに気づきやすくなる。類似性バイアスは、自己理解・自己認知の不足から起こるため、他者からのフィードバックは最も有効な手段の一つである。

企業事例紹介

 採用・面接・選考に潜むアンコンシャス・バイアスは、一担当者だけで完全に排除するのは難しい。そのため、制度や仕組みを変えることで、アンコンシャス・バイアスに対処しようと取り組んでいる企業もある。

採用選考から顔写真や性別を排除したユニリーバ・ジャパン
 ユニリーバ・ジャパン株式会社は2020年度より、個人の適性や能力のみを公平に評価するため、あらゆる採用選考から性別に関する項目や顔写真の提出を排除している。応募者は、ウェブサイトから顔写真欄や性別記入欄のない独自の履歴書を入手できる。氏名については、性別を推定できる下の名前を記載しなくてもよい。人材紹介会社からの仲介の場合も、顔写真や性別に関する情報を伏せて採用担当者に渡すシステムとなっている。このように近年では、エントリーシートや選考書類にフルネームや性別の記入、顔写真の添付を不要とする企業も少しずつ増えている。

イベント登壇者などのジェンダーバランスを重視する朝日新聞社
 株式会社朝日新聞社は、2020年に「朝日新聞社ジェンダー平等宣言」を発表。その中で、取材対象や識者を選ぶ際には、性別などの偏りが出ないように、男女比がどちらの性も40%を下回らないことを目指している。また、主催する各種シンポジウムにおいても、登壇者の男女比がどちらの性も40%を下回らないようにしている。
 企業経営者や著名人の中には、男性ばかりのイベントには登壇しないと宣言する人や、委員会の構成比などでジェンダーバランスに配慮するよう求める人も増えている。

 圧倒的な人材不足に悩む企業は多い。優秀な人材どころか、必要数の人材さえ採れない、そんな企業も多いだろう。採用・面接・選考は、企業に不可欠な人材を獲得し、望む成果につながる人材を選考する重要な場面だ。面接者や選考委員の持つアンコンシャス・バイアスによって間違った結果につながらないよう、起こり得るアンコンシャス・バイアスへの理解を深めしっかりと対処してほしい。

 次回(第3回)は、評価・育成・アサインにおけるアンコンシャス・バイアスについて紹介する。

プロフィール写真 荒金雅子 あらかね まさこ
株式会社クオリア 代表取締役
プロフェッショナルファシリテーター(CPF)

都市計画コンサルタント会社、NPO法人理事、会社経営等を経て、株式会社クオリアを設立。女性の能力開発、キャリア開発、組織活性化などのコンサルティングを長年実践。1996年、米国訪問時にダイバーシティのコンセプトと出会い、以降、組織のダイバーシティ&インクルージョン推進を支援している。意識や行動変容を促進するプログラムには定評があり、アンコンシャス・バイアストレーニングや女性のリーダーシップ開発等において高い評価を得ている。内閣府男女共同参画局「令和3、4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」調査検討委員会委員。