人事パーソン要チェック！ 新刊ホンネ書評 - ［276］『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』　

　本書は、長年デンマークに在住しているデンマーク文化研究家の著者が、なぜデンマーク人は、労働時間が日本よりも短いのに、時間当たりの生産性は日本よりはるかに高いのかを、多くのデンマーク人へのインタビューなどを通して探った本です。

　第1章では、デンマークが2022年・2023年に国際競争力ランキングでナンバーワンに選ばれて、世界から注目を浴びたその背景には、時代の変化への対応力があったとし、デンマーク人には、時代をリードする「先見の明」があることを紹介していきます。一方で、デンマークは「ワークライフバランス先進国」でもあり、デンマーク人は「家族と一緒に夕食を食べる」ことを重視しています。

　第2章は、「時間」をテーマにしています。デンマーク人に“人生で大切なのは何か”を問うと、「楽しむこと」「新しい人に出会うこと」「自分自身が健康でいること」といった答えが返ってくるそうです。こうした考え方を実践するために、デンマーク人は、優先順位の低いものはバッサリ切って、時間を意識的に使っていきます。例えば、「仕事は午後4時に終了し、その後はフリータイム」が大前提なのだといいます。
　金曜日は早めに帰宅してOK、上司は部下が先に帰っても気にしない、会議をする際はアジェンダと終了時刻を設定し延長はしない、時間的に「ムリしない、させない」を意識する――デンマーク人の働き方の特徴について、本書ではこのように紹介されます。仕事ばかりしていると、パートナーから別れを切り出されてしまうので、プライベートライフを守る「覚悟」を決めているのです。
　また、職場がユルい（カジュアルである）ことが、クリエイティブなアイデアを生むことにつながり、それが生産性の向上にもつながっていきます。さらに、しっかり休むからこそ情熱をキープすることができます。長期休暇の取得は当たり前で、夏休み中はメールを「自動応答」にしているとのことです。

　第3章は、「人間関係」をテーマにしています。仕事において、マイクロマネジメント（仕事の進め方や行動を上司が細かく管理し、過干渉してしまうこと）はNGとされます。部下を信じて任せるマクロマネジメントにより、上司も部下も楽になって「タイパ」を実現できるのです。また、上下関係のないフラットな職場で、部下がやりやすい方法で仕事をさせるようにしています。
　さらに、部下の意見を聞いて、組織改善に生かす風土があります。部下が働きやすい環境づくりを最優先し、部下との間に「ムリしない、させない」コミュニケーションを保つことで、「最強のチーム」が自然と生まれていきます。

　第4章では、デンマーク人の「仕事観・キャリア観」について見ています。プライベートライフを第一優先とするデンマーク人にとって、“仕事とは何か”をインタビューから探ると、仕事は「自己成長」のためのもの、あるいは自身の「アイデンティティ」であり、さらには「意味」を求めるものであるという答えが返ってくるそうです。仕事に求める「意味」には、「社会的意義」と「自分にとっての意味」があります。
　そのため、デンマーク人は「転職」をポジティブに捉えています。デンマークは、社会のリソースを最大限に活かすための「適材適所のマッチング」が比較的うまくいっている国であるとして、本書を締めくくっています。

　「世界一ゆるい、だけどすごい働き方」と本書のキャッチにありますが、何から何まで日本人や日本の職場と異なるため、「組織風土の違い」で片づけてしまう読者もいるかもしれません。しかしながら、自身のマインドセットや日常の行動を変えるヒントになる部分もかなりあります。そのつもりで読むと、得るものがあるのではないでしょうか。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』（有料版）で2023年12月にご紹介したものです