金間大介 かなま だいすけ 北海道生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻〔博士(工学)〕、バージニア工科大学大学院、文部科学省科学技術・学術政策研究所、東京農業大学准教授などを経て、2021年より現職。博士号取得までは応用物理学を研究していたが、博士後期課程中に渡米して出会ったイノベーション・マネジメントに魅了される。それ以来、イノベーション論、マーケティング論、モチベーション論等を研究。主な著書に『先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)、『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)など。 |
「団塊ジュニア世代不幸説」は本当か
「人生における運の総量は決まっている」と言う人がいる。
うまくいかないことが続くと、今は「運を貯めているときなんだ」と言う人も。
僕は、それはうそだと思う。なぜなら、同じ時代を生きつつも、どう考えても恵まれた世代とそうでない世代があるからだ。
もちろん「何でも世代差で片付けようとするのはよくない」という批判は多いし、その考えはよく分かる。ただ、世代差を一つの「入り口」としていろんな議論を深めることができるのなら、それはとても意義のあることだと思う。
本稿も、そんな世代論を過分に含む。あと、ホラー的要素も少しだけ(背筋が寒くなる人がいるかも)。
世代差自体には、良いも悪いもない。また、世代差についての論説にはポジティブなもの、ネガティブなものの両方が存在する。
ただ、よく目を引くという意味では、やはりネガティブ寄りのネタのほうが多いだろう。そして、その最たるものの一つに「団塊ジュニア世代(1971~1974年生まれ)不幸説」がある。
そのうちのいくつかをピックアップすると、こんな感じだ。
①「団塊ジュニアの終焉…もうすぐ『悲劇の連続』が日本を襲う」
GGO編集部(幻冬舎ゴールドオンライン)2022.4.24付
「自分たちも社会人になったら……」
そう胸を高鳴らせていたのもつかの間、団塊ジュニア世代が大卒で新入社員となるころにはバブルは崩壊し、就職難の時代に突入。
その間の世相を反映する当時の流行語をみていくと、「貸し渋り」や「日本列島総不況」がトップテンに入るなど、転がり落ちる日本を予感させ、いよいよ日本経済はどん底に。
②「データが示す『団塊ジュニア』悲劇の世代の4苦難 これから訪れる『過去最大の試練』に備えよう」
原尻淳一・千葉智之/東洋経済オンライン 2023.01.12付
過去の悲劇1:大学志願者のほぼ半数が不合格
大学志願者は団塊ジュニア世代の1990年と2021年でほとんど変わっていないにもかかわらず、不合格率は1990年が48.3%に対して、2021年はわずか8.7%。
過去の悲劇2:就職氷河期
(団塊ジュニア世代の)新卒就職率は60%にまで低下。新卒生の20~40%が就職難民になったと考えられる。ニートや引きこもりを大量発生させ、現在にも尾を引く社会問題に。
過去の悲劇3:平均給与が上がらない
平均給与は1992年をピークに下がり続けている。「給料が上がらない」から始まり、「会社に居場所がない」、「転職できない」、「年金、老後の資金がやばい」、そして極め付きは「そもそも仕事のやる気が出ない」。
③「団塊ジュニアの苦難」
内田由紀子/サイエンスポータル(国立研究開発法人科学技術振興機構) 2012.07.17付
(団塊ジュニアの親である)団塊の世代は同世代人口が多かったので、子供のころから競争が激しく、もまれて育っています。成功した人も、逆に失敗した人も、自分の子供にも競争を強いる傾向があります。高度経済成長期の経験者ですから、経済は上り調子で、こうした努力が報われる可能性が少なくとも現在よりは高かった。
ところが団塊ジュニア世代はちょうど大学を卒業するぐらいのタイミングで経済の低迷を経験してしまいます。期待を背負って努力してきたのに、最後にはしごを外されてしまった。それでも親にしたら、そのときの経済状況うんぬんではなく、子供の能力や努力が十分ではなかったために失敗したのではないかと考えるでしょう。
いかがだろう。確かに不幸ではないか。背筋が寒くなるのを感じているのは僕だけではないはず。
だが、しかし、だ。僕が考える最も不幸な世代は、団塊ジュニア世代の1年後輩である1975年生まれじゃないかと思う。ピンポイントで大変恐縮だが、1975年に生まれた1,901,440人のことだ。その理由は以下のとおり。
<社会経済編>
- 女子大生ブームに乗ることなく終焉を迎え、高校を卒業したころに女子高生ブーム到来。
- バブルを感じることなく、いつの間にか崩壊。
- 就職をするときは就職氷河期真っただ中。かつ、上の世代が大量に就職浪人中。
- 就職してもサービス残業は当たり前、パワハラなんて日常。セクハラも日常。
- その後、空白の20年と言われ、後輩が入らない時代が続いたため、ずっと下っ端。
- そこから先、日本は一度も大幅な出生率の向上に成功せず。
<勉強・受験編>
- 土曜日に授業がある最後の世代(彼らの義務教育期間の終了後、第2・第4土曜日を休みとする試行的処置が進行)。
- 人口が多く、激しい受験戦争の波に飲み込まれる。
- さらに、直上の“最多人口世代”が大量浪人することで、もはや現役では太刀打ちできず。
[図表]団塊ジュニア世代と、その直後の1975年生まれ世代の合計特殊出生率
生年 | 出生数(千人) | 合計特殊出生率 |
1971 | 2,001 | 2.16 |
1972 | 2,039 | 2.14 |
1973 | 2,092 | 2.14 |
1974 | 2,030 | 2.05 |
1975 | 1,901 | 1.91 |
資料出所:厚生労働省「人口動態統計」
「いい子症候群化」する若者世代の背後にいる、親としての団塊ジュニア世代
話を団塊ジュニア世代全体に戻そう。
僕は、2022年に拙著『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』(東洋経済新報社)という本で、若者の「いい子症候群化」を主張している。今の若者の多くは、自己主張が弱く、真面目で控えめ、横並び主義の傾向が強く見られる、というのが僕の主張だ。その心理的背景として、競争を好まず、回避動機が強く、自己肯定感が低い、という点が挙げられる。
一方で、厚生労働省の統計によると、初産の平均年齢は30~31歳だ。これは女性の年齢を基にしているが、夫婦の平均年齢差は夫が約2歳上なので、妻の初産時の夫の年齢に大きな差はない(もちろんいずれの数値も分散は大きい)。
何が言いたいのか。
今の大学1年生(18歳)の親は、平均すると50歳前後となる。つまり、2024年現在、ちょうど団塊ジュニア世代の子供が大学に入学し、僕の目の前で講義を受けているということになる。
そして先に述べたとおり、今の大学生は、素直で真面目、目立つ行為が嫌いで、安定第一の行動選択が目に付く。例えば、公務員(特に市役所や県庁)を就職先として志望する割合は、ここ数年、他の選択肢を寄せ付けず上昇の一途だ。
こういった今の若者たちの気質について、どうしても彼らの親、団塊ジュニア世代との関係を考えずにはいられない。「悲劇の世代」団塊ジュニアと、その子供たちの徹底した安定志向とリスク回避志向。「地方公務員がいい」というその思考には、少なからず親の意向も反映されているだろう。
このまま今の若者世代が、リスクを取らず、チャレンジも経験しないままでいいのだろうか。日本は、既に失われた30年を超過した。その原因の一つに、他国と比較したイノベーションの低迷がある。リスクテイクやチャレンジ精神の発揮と、イノベーションの創出は不可分の関係にある。
仮に今の若者の安定志向が、不遇の経験から来る親の保守的志向に起因するとしたら、それこそ悲劇だ。
ただし、親世代はまだまだ現役だ。子の未来のためにも、できることはきっとまだたくさんある。世代を超えて、この国を前へ進める姿を見てみたいと思う。もちろん僕もがんばりたい。
なお、筆者である僕が何年生まれかは、どうか気になさらぬように。