2024年01月31日掲載

ケース/シチュエーション別 知っておきたいアンコンシャス・バイアス20選 - 第3回 評価・育成・アサインの場面に起こりやすいアンコンシャス・バイアスに対処する

荒金雅子 あらかね まさこ
株式会社クオリア 代表取締役
プロフェッショナルファシリテーター(CPF)

 第3回は、人事評価、そして育成やアサインの場面で特徴的に起こりやすいアンコンシャス・バイアスの類型と、その対処法について紹介する。
 適切な評価には、透明性、公平性、納得性が不可欠である。評価者がアンコンシャス・バイアスにとらわれてしまうと、不公平を感じる部下が増え、納得感が得られず、不平・不満やモチベーションダウンにつながりかねない。一方、評価される側の部下にも自分に対するアンコンシャス・バイアスがあると、評価を適切に受け取れなくなってしまうことがある。なお、人事評価の場面で起こりやすいアンコンシャス・バイアスの類型は、人材育成や業務のアサイン(割り当て、任命)などの場面にも共通するものが多い。
 また、以下では、評価者自身の持つアンコンシャス・バイアスに加え、部下(被評価者)が持つアンコンシャス・バイアスへの対処法も解説する。

評価・育成・アサインの場面でありがちなアンコンシャス・バイアスとは

アンコンシャス・バイアス類型(5):厳格化・寛大化傾向

あなたはどう思う?

部下の評価をする際に、未熟な点、できていない点が気になり、良い点やできている点があっても評価が低くなる

やればもっとできるはずだと考え、実際よりも厳しい評価をしてしまう

部下から良い上司と思われたい気持ちが強く、つい甘くなってしまう

自分の評価に自信がないので無難な評価になる

自分と相性の良い部下に対して、実際の成果や業績以上に高い評価をする

厳格化傾向・寛大化傾向とは
 厳格化傾向・寛大化傾向とは、評価対象者に対する印象や関係性により、事実上の成果よりも低く(高く)評価をしてしまう、あるいは厳しく(甘く)評価をしてしまうことをいう。
 厳格化傾向は、評価者が組織目標への達成意欲が強く、「こうあるべき、こうでなければ」という高い理想を持って完璧を目指しすぎ、「厳しい指導こそが部下を育てる」「甘くすると伸びない」という考えにとらわれたときに起こりやすい。
 一方、寛大化傾向は、評価者が自分の評価に自信がなかったり、厳しい指摘が苦手だったり、部下から良く思われたいという意識が強くあると起こりやすくなる。単なる特別扱いや優遇とは異なり、評価に対する認識の甘さから起こるものである。

起こり得る問題・影響
 厳格化傾向が強くなると、欠点や改善点ばかりに目が行き、褒めることが少なくなる。そのため、部下は常に緊張感を強いられ、ミスや失敗を極端に恐れ消極的になってしまったり、モチベーションの低下やメンタルダウンにつながる可能性もある。
 また、寛大化傾向が強くなると、課題や改善点について適切なフィードバックが行われないため、部下は気づきを得られず、正しく自分の能力を把握することが難しくなる。そのことが部下の成長機会を奪うことになるだけでなく、その後の評価との大きなずれが生じ、結果としてキャリアなどに不利益を生み出すこともある。

基本的な対処法

①部下の仕事ぶりを記録し、具体的事実に基づいて評価する
 厳しすぎる評価は部下のやる気をそぎ、甘すぎる評価は能力開発の妨げになりかねないことを認識し、自分の評価を振り返ってみる。また、普段から部下の仕事の進め方、成果など仕事ぶりを観察し、気になる点、良い点は記録しておき、具体的事実に基づき評価するよう心掛ける。

②評価項目や評価基準を理解し、共有する
 厳格化傾向や寛大化傾向は、評価者が気づかないままに行っているため、評価者本人は“自分は公平にしている”という思い込みにとらわれていることがある。そのため、評価項目や評価基準についてその指標を正確に理解するとともに、評価対象者にもオープンにし、双方で共有しておく必要がある。また、客観的な根拠や評価のルールを説明して、納得性につなげる。

アンコンシャス・バイアス類型(6):対比誤差

あなたはどう思う?

「自分の若い頃はもっとこうだった」と、部下と過去の自分と比べて物足りなさを感じる

スピードや効率を重視しすぎて、じっくりと慎重に事を進める部下を評価しない

自分にできることは部下もできるだろうと考え、できないと厳しく接する

自分の苦手な分野で成果を出している部下には、自分との比較において高い評価をする

対比誤差とは
 対比誤差とは、評価者が自分自身の能力や性格、仕事の進め方などを基準として、それに照らし合わせて無意識に部下を評価してしまうことをいう。例えば、スピード重視で、常に効率的に物事を進めることが好きな上司は、じっくりと考え慎重に事を進める部下を「優柔不断で行動が遅い」と評価してしまうことがある。また、自分にとって当たり前のことができない部下を低く評価したり、逆に自分が苦手な分野を得意とする部下を過剰に高く評価することもある。

起こり得る問題・影響
 上司が自分を基準とする対比誤差によって評価してしまうと、上司の主観によって、業績や成果以上に評価が高くなったり低くなる部下が出てくる。評価が低くなった部下本人はもちろん、周囲にとっても納得がいかずモチベーションが下がり、“頑張ってもどうせ評価は上がらない”と仕事のやる気が失われてしまう。また、一部の人だけをえこひいきしていると思われ、メンバー同士の関係性にも悪影響を与えてしまうことがある。

基本的な対処法

①公平・公正な人事評価制度の構築と浸透
 対比誤差は、明確な評価方法がなく、評価基準が曖昧な場合に発生しやすい。判断の確固たる物差しがないため、独自の視点で評価してしまうのだ。まずは公平・公正な評価基準を作成することが不可欠である。
 評価基準には、実績で評価する「結果評価」や、業務に必要とされる業務遂行力や職務の習熟度など複合的な行動を評価する「能力評価」、仕事に対する基本姿勢や心構え、勤務態度など会社の雰囲気に影響を与える内面的な部分を評価する「意欲評価」などがある。組織として、適切な評価項目を設定し、客観的に評価できるよう周知する。

②寛容さと部下への好奇心を持って関わる
 評価者が自分自身の能力や得意分野を過大に評価すると、自分の評価は正しいと固執し、絶対化してしまうことがある。また、部下の性格や特徴にあった仕事のやり方を認められず、自分の方法や成功体験を押し付けてしまい、逆効果になることもある。自分と異なる部下に対しては、ダメ出しをするのではなく寛容さと好奇心を持って関わり、組織として求める要件や行動を明確にして伝えることが不可欠だ。

アンコンシャス・バイアス類型(7):慈悲的差別

あなたはどう思う?

育児中・介護中の人は無理をしないよう言葉をかける

障害者には負荷の少ない仕事を割り当てる

男性のほうが力があるから、女性には力仕事はさせない

新婚1年目の女性社員に海外転勤は難しい

慈悲的差別とは
 慈悲的差別とは、女性や障害者、高齢者、育児中・介護中の社員など、組織の中の少数派や配慮を必要とする人、自分よりも立場が弱いと思う他者に対する、好意的ではあるが偏った勝手な思い込みをいう。しかし、「育休から復帰した女性に営業の仕事は難しいだろう」と一方的に配置転換を行ったり、「障害者社員を慣れた職場環境から異動させるのはかわいそう」と思い込むなど、相手のために良かれと思ってとった行動が、本人の意に沿わず逆効果になってしまうことがある。

起こり得る問題・影響
 「子どものために早く帰ったほうがいい」「育児中は無理をしなくていい」など、一方的な考えから発言をしてしまうと、時として「子どもがいる人に大事な仕事は任せられない」というネガティブなメッセージとなり、部下のモチベーション低下につながることがある。また、異動や配置転換、アサインなどの場面において「今は難しいだろう」と躊躇(ちゅうちょ)することで、部下が経験やスキルを習得する機会を失ったり、昇格の対象から外れてしまう可能性もある。
 慈悲的差別に気づかない人は、「自分はいいことをしている」「相手を思いやっている」と考えている。そのため、その配慮を断られたり不要な気遣いだと言われると、「では、どう対応すればいいのか」と戸惑ったり、「せっかく配慮したのに無駄にされた」とネガティブな評価をしてしまうこともある。

基本的な対処法

①決めつけずに、都度、相手の話を聴き確認する
 慈悲的差別にとらわれてしまうと、相手の話を聞かずに、勝手に自分の中で思い込みを強化したり、決めつけから相手に自分の考えを押し付けてしまうことになる。実際には、育児中・介護中の社員の中には「残業はしたくない。早く帰りたい」という人もいれば、「必要があれば、家族と協力し合って残業や出張もこなしたい」という人もいるだろう。同じ人でも状況によって事情が異なることもある。だからこそ、「育児中・介護中だからこうしたほうがいい」と勝手に決めつけずに、その都度、相手の話をしっかり聞いて確認することが重要となる。

②お互いを理解するための対話を行う
 働く上で何らかの制約があったり、配慮を必要とする部下に対しては、相手がどのような人か理解し、その状況や考え方を把握するために、普段からコミュニケーションをしっかりとることが不可欠だ。特に、育児や介護、不妊治療、闘病中等の私生活に関する情報については、どこまで共有すればよいか悩む人も多いだろう。そんなときは、二つのキーワードを使い分けて考えよう。誰にも知られたくない、言いたくないことは「プライバシー」と呼ぶ。相手が言いたくないことを根掘り葉掘り聞き、自己開示を強要するのは避けなければならない。一方で、個人的なことだけれど、共有することでサポートができ、仕事をスムーズに進められるであろうことを「プライベート」と呼ぶ。自分の気持ちや個人的事象を開示することで、職場での相互理解が進み、心理的安全性を高めることができるのだ。プライバシーとプライベートの違いをお互いが理解し、対話を深めることが重要だ。

アンコンシャス・バイアス類型(8):ダニング・クルーガー効果

あなたはどう思う?

経験や知識が不十分であるにもかかわらず、「自分はできる」と思い込んでいる

欠点を指摘したりアドバイスをすると、素直に受け入れず反発したり抵抗する

自分の成果をやたらとアピールし、能力をひけらかすような態度をとる

他者に対して高圧的な態度をとり、上から目線の言い方をする

ダニング・クルーガー効果とは
 ダニング・クルーガー効果とは、適切な自己評価ができず、実際の能力以上に自分を過大評価してしまうことをいう。未熟で成長の過程にある人や、自己理解が不足している人ほど陥りやすいといわれている。

起こり得る問題・影響
 自分に対する自信があるため、失敗を恐れずに何事にも挑戦するというポジティブな面がある一方、能力以上の業務を引き受けてしまって問題を起こしたり、他者からのフィードバックを素直に受け入れなかったり、“これ以上学ぶ必要はない”と考えて学習意欲が低下し、成長の機会を失う可能性もある。また、部下がダニング・クルーガー効果にとらわれていると、上司の客観的な評価を受け入れられず、自己評価に対して評価が低すぎると不満を持ち、反抗的な態度をとることもある。

基本的な対処法

①チャレンジと失敗を経験させる
 ダニング・クルーガー効果に陥っている部下は、根拠のない自信を持っていることが多い。そのため、さまざまなチャレンジの場を提供し、あえて失敗する経験を積ませるとよい。ただし、失敗をした際のフィードバックは、自信を砕くような辛辣(しんらつ)な指摘ではなく、良かった点と足りなかった点をしっかり説明し、知識や経験が不足していることへの自覚を促すように関わることが肝要だ。そうすることで、失敗をきっかけに自信過剰な態度を見直し、適切な自己評価ができるようになる。

②多様な人との交流の機会を増やす
 他者と接する機会が少ないと、他者との比較において自分の考えを客観的に評価する機会がないまま、自分の考えに固執し、認知のゆがみを強化してしまうことになる。さまざまな意見や考え、価値観に触れることで、新たな視点を手に入れ自分の能力を正しく認識できるようになる。

アンコンシャス・バイアス類型(9):自己奉仕バイアス

あなたはどう思う?

成功は自分の手柄、失敗は周囲のせいという考えが強くある

頑張っているのに、思った以上に評価が低いと感じる

他の人が成功しても、「たまたま運が良かった」と厳しい評価をする

“自分は誰よりもチームに貢献している”ことを認めてもらえていないと感じる

自己奉仕バイアスとは
 自己奉仕バイアスとは、成果などを自分に都合よく解釈するアンコンシャス・バイアスである。成功したときは自分自身の能力によって成し遂げたと考え、失敗したときはその責任は自分にはなく、自分以外の外的な要因によるものだというような利己的な思い込みをいう。自己奉仕バイアスは、自分のプライドや自分自身を守る自己防衛心や自己正当化などのエゴから生まれるといわれており、誰もが持っているものである。

起こり得る問題・影響
 成功したりうまくいった際には、自分への信頼や自信が高まるというプラス面がある一方、失敗したりうまくいかなかったときには、他責が強くなり“自分のせいではない”という言い訳に終始し、反省をしないため、同じような失敗を繰り返すマイナス面もある。また、自分の失敗を認めずに周囲や環境のせいにするため、責任逃れとみられ、信頼を失い評価を下げてしまうことがある。

基本的な対処法

①指摘するよりも共感的に傾聴する
 自己奉仕バイアスが強い場合、自分は悪くないと考えているので「指摘」や「注意」をしてもあまり良い効果は得られず、むしろますますかたくなになることがある。まずは相手の意見や主張を傾聴し、共感や理解を示そう。ここでは、エンパシー(自己移入)という聴き方が役に立つ。エンパシーとは、“自分と相手は異なる”ということを前提に、異なる価値観や考え方を持つ相手の立場に立って、想像し共感することをいう。「相手が間違っている」ではなく、どうしてそう思うのかを、相手と「向き合って聴く」ことを意識する。しっかり聴いてもらうことで、安心感が生まれ、他者の意見を受け入れやすくなる。

②相手の良いところを認め、期待を伝える
 自己奉仕バイアスの強い人は、他人に認められたいという「承認欲求」も強くあるといわれている。相手の良い点を認めて、それを具体的にフィードバックすることで承認欲求が満たされ、話を聴く姿勢が生まれる。その上で、相手への期待を込めて、さらに良くなるための改善点を提案するとよいだろう。

 管理職にとって、部下に対する評価や育成、アサインは常に悩ましい問題だ。上司・部下では視点も評価の仕方も異なっている。どんなに適切な評価基準や育成プログラムがあったとしても、上司・部下のどちらか(あるいは双方)がアンコンシャス・バイアスにとらわれていると、十分には機能しなくなってしまう。だからこそ、評価や育成、アサインの際に起こりがちなアンコンシャス・バイアスへの理解を深め、正しく対処することが重要となるのだ。アンコンシャス・バイアスへの対処法を身に付け、お互いの納得につながる話し合いを行い、部下の意欲と行動の質を高める評価、育成、アサインにつなげてほしい。

 次回(第4回)は、社内コミュニケーションにおけるアンコンシャス・バイアスについて紹介する。

プロフィール写真 荒金雅子 あらかね まさこ
株式会社クオリア 代表取締役
プロフェッショナルファシリテーター(CPF)

都市計画コンサルタント会社、NPO法人理事、会社経営等を経て、株式会社クオリアを設立。女性の能力開発、キャリア開発、組織活性化などのコンサルティングを長年実践。1996年、米国訪問時にダイバーシティのコンセプトと出会い、以降、組織のダイバーシティ&インクルージョン推進を支援している。意識や行動変容を促進するプログラムには定評があり、アンコンシャス・バイアストレーニングや女性のリーダーシップ開発等において高い評価を得ている。内閣府男女共同参画局「令和3、4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」調査検討委員会委員。