2024年02月14日掲載

人事労務関係の税務相談 - 第4回 現物給与関係(2)~テレワークのために事務用品を支給する場合、給与課税は必要?

アクタス税理士法人

飯塚和正 いいづか かずまさ
パートナー 税理士

藤田益浩 ふじた ますひろ
ディレクター 税理士

Q1 自社商品等の値引き販売

 自社で取り扱う商品を、役員や社員に対し、通常の販売代金よりも割安で販売する場合、税務上、気を付けなければならない点があれば教えてください。

A 値引きされた分は、原則として給与として課税されるが、例外として、一定の場合には給与として取り扱わなくてもよい

1.原則的な取り扱い
 役員や社員が商品を割安で購入できる場合、その値引きされた分は、原則的にその役員や社員への給与として課税される。ただし、一定の場合には、給与として取り扱わなくてもよいことになっている。

2.給与課税されない値引き販売

[1]値引きを受けた者の取り扱い
 商品の値引き分は、原則、給与の支給を受けたものとして課税される。しかし、次の三つすべての要件を満たす場合には、その取り扱いをしなくても構わないことになる(所基通36-23)。

(1)値引き後の価額がその商品の原価以上で、かつ、一般の販売価額の70%以上である

(2)値引き率が全員一律、または、地位・勤続年数等に応じて全体として合理的なバランスが保たれる範囲内の格差を設けて定められている

(3)値引き販売の数量が、個人消費として通常要する範囲内である

[2]会社の取り扱い
 上記三つの要件を満たす場合、税務上、会社は値引き後の価額で売り上げを計上することになる。条件を満たさない場合は、一般の販売価額で売り上げを計上し、値引き後価額との差額を給与として取り扱う。役員の場合、その差額は役員給与となり、定期同額給与や事前確定届出給与の要件を満たさない場合は、損金不算入となる。

Q2 自社商品等を無償で提供した場合

 自社で取り扱う商品を社員に対して無償で提供した場合、社員に対する給与になりますか。また、給与となる場合には、どのように金額を決めればよいでしょうか。

A 商品等を無償提供した場合には、提供される資産に応じて計算した金額を給与として支給したものとして課税する

1.無償提供を受けた者の取り扱い
 役員や社員が自社で取り扱う商品や製品の無償提供を受けた場合、その者に対する給与となり課税される。給与とされる金額の評価は、提供される資産に応じて異なる(所基通36-39)。

(1)商品や製品が通常他に販売するものである場合
 その商品や製品の通常の販売価額

(2)商品や製品が通常他に販売するものでない場合
 その物の通常売買される価額。ただし、役員や社員に支給するため会社が購入したものであり、かつ、その購入時から支給時までの間に価額にさして変動がないものであるときは、購入価額とすることができる。

2.無償提供した会社の取り扱い
 商品等を社員に無償提供した場合には、上記 1.で評価された金額の給与を支給したものとして取り扱う。役員については役員給与となり、定期同額給与や事前確定届出給与の要件を満たさない場合は、損金不算入となる。

Q3 防災グッズの支給

 災害対策の一環としてヘルメットや非常食など1人当たり1500円程度の防災グッズを全社員に支給することにしました。この防災グッズの支給はどのように取り扱われますか。

A 一定の要件を満たす場合は、給与課税されず、会社の福利厚生費等として取り扱う

1.現物給与と福利厚生費
 社員に物品等を支給した場合には、原則、給与の支給をしたものとして取り扱うことになる。しかし、次のいずれにも該当する支出は、給与ではなく、会社の福利厚生費等として取り扱う。

(1)すべての社員に平等に支給されていること

(2)社員の福利厚生等のために支出されたものであること

(3)社会通念上、妥当な金額であること

2.防災グッズを支給した場合の取り扱い
 ご質問の防災グッズは、全社員を対象に支給しているもので、災害時の社員の安全を助けるためのものである。また、防災グッズの購入に要する費用についても妥当な金額であるため、給与とは取り扱わず、福利厚生費等として損金算入される。
 ただし、防災グッズを特定の社員にのみ支給した場合や防災グッズを購入するための費用を金銭で支給した場合には、給与として課税されることになる。

Q4 スーツを制服として支給する場合

 当社は社員に業務中に着用するための制服を支給しています。社員から要望があり、私服としても着用できるスーツを制服として支給することを検討していますが、この場合どのように取り扱われますか。

A 私服としても着用できるスーツは、一定の要件を満たさないため、非課税とされる制服等には当たらない

1.制服等を支給した場合の取り扱い
 会社が社員に制服等を支給する場合、業務上必要なものとして次のようなものは給与として課税する必要はない。

(1)勤務する場所のみで着用するもので、私用には着用しない、または着用できないものであること

(2)その職場の全員、またはその制服を必要とする業務に従事する者全員に対して支給されるものであること
ただし、制服等の支給に代えて金銭を支給する場合には、給与として課税される。

2.制服等の具体例
 1.の制服等の具体例としては、警察職員や消防職員、鉄道職員などのように職務上、当然に制服の着用を義務づけられているもののほか、それほど着用義務が厳格でない事務服、作業服なども含まれる(所基通9―8)。

3.私用でも着用可能なスーツを支給した場合の取り扱い
 ご質問のスーツは私服としても着用できるものであるから、たとえ業務中にのみ着用したとしても、上記 1.のとおり非課税とされる制服等には該当しない。したがって、給与として課税をする必要がある。

Q5 賞与の代わりに支給する商品券

 年2回、夏と冬に賞与を支給しています。成績の優秀な社員には、賞与支給額を上乗せする代わりに商品券を支給することにしています。この場合の商品券の支給はどのように取り扱われますか。

A 商品券の場合は券面額が給与として課税される

1.賞与として取り扱われる金品
 賞与は通常金銭で支給されるものだが、金銭のほか、物品で支給される場合や社員が支払うべき費用を会社が負担する場合なども賞与として取り扱うことになる。

2.商品券を支給した場合
 商品券は、金銭を支払うことに代えてこれを使用することにより、自由に商品等を購入することができるものである。また、所定の手数料を支払えば換金することも可能である。
 そのため、商品券の支給については、券面金額と同等の金銭を支給したものとして取り扱うことになる。今回のケースでは、商品券の支給について、券面額を通常の賞与の上乗せ支給分とする。

3.商品引換券を支給した場合
 社員に支給した商品券が券面金額の記載がないもので、その発行者である百貨店や製造業者において一定の品物とのみ交換できる商品引換券(お米券、ビール券など)である場合には、その引き換えることができる品物の通常の販売価額相当額が賞与として支給した金額となる。

Q6 テレワークに係る事務用品の支給

 テレワークを始めるためには、ノートパソコンやモニターなどの事務用品等の手配や通信環境の整備といった準備が必要となりますが、このような事務用品等を社員へ支給した場合、どのように取り扱えばよいでしょうか。

A 会社の事務用品等を社員へ返還が不要な形で「支給」する場合は、給与として課税される

1.原則的な取り扱い
 テレワークに必要となるノートパソコンなどの会社が所有する事務用品等を、社員に所有権が移転する形で「支給」した場合には、給与として課税する必要がある。
 一方、会社所有の事務用品等を社員に「貸与」する場合には、給与として課税する必要はない。

区分 会社が直接購入等する場合 社員が立て替え後、精算する場合
事務用品の貸し付け 非課税 非課税
事務用品の支給 給与課税 給与課税

2.貸与とは
 給与課税とならない「貸与」とは、例えば会社がもっぱら業務に使用する目的で事務用品等を社員に配付し、その配付を受けた事務用品等を社員が自由に処分できず、業務に使用しなくなったときは必ず返却を要する場合、「貸与」と考えることができる。
 また、貸与していることを明確にするために、会社で管理用台帳などを作成して管理することが望ましい。

執筆者プロフィール

飯塚和正 いいづか かずまさ
アクタス税理士法人
パートナー 税理士

中堅・中小法人から上場企業に対する税務コンサルティング業務を中心に、会計や経営、経理に関するコンサルティング業務に従事。「お客様の身になって考える」ことを常に意識し、お客様の成長と発展のために必要となるコンサルティングサービスの提供を心掛けている。
藤田益浩 ふじた ますひろ
アクタス税理士法人
ディレクター 税理士

中堅・中小企業への税務コンサルティングを中心に取り組んでいる。同族企業経営者の身近なアドバイザーとして、法人・個人双方の立場で親身なコンサルティングを提供。税務や会計に関するセミナー講師も多数行っている。

法人プロフィール

アクタス税理士法人
アクタスグループは、税理士など約230名で構成する会計事務所グループで、東京(赤坂、立川)、大阪および長野の計4拠点で活動している。中核の「アクタス税理士法人」では、税務相談・申告、国際税務、組織再編、企業再生、相続申告など専門性の高い税務コンサルティングサービスを提供している。