2024年02月22日掲載

Point of view - 第247回 新田 龍―人手不足時代を乗り越える、若手社員とのコミュニケーションの要諦

新田 龍 にった りょう
働き方改革総合研究所株式会社
代表取締役

労働環境改善による企業価値向上および人材採用定着支援、ビジネスと労務関連のこじれたトラブル解決支援、炎上予防とレピュテーション改善支援を手がける。主に労働集約型産業、不人気業種、地方、中小企業の改革に関わり、多くの成功事例を持つ。厚生労働省ハラスメント対策企画委員、福島県楢葉町働き方改革推進特命アドバイザー。『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)ほか著書多数。

人手不足の到来。時代は大きく変化した

 人手不足が深刻さを増している。コロナ禍で一時的に混乱していた企業各社における人材の過不足状況も、現在はコロナ以前の水準まで回復してきた。帝国データバンクの2023年10月時点における調査によると、正社員が「不足」と感じている企業は52.1%を記録[図表1]。さらに日本商工会議所の調査によれば、中小企業の人手不足感は68.0%に達しており、しかもすべての業種で5割を超えている。実際に2023年の人手不足倒産は累計で260件と、年間ベースで過去最多を更新した。今後、このような人手不足感は高まることこそあれど、解消されることはないであろう。

[図表1]正社員・非正社員の人手不足割合 月次推移

図表1

資料出所:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)」

 本稿を読んでいる読者諸氏の中には、就職氷河期を経験された世代もいよう。わが国において1990年代初頭のバブル経済崩壊の影響を受けた不景気により、多くの企業が新卒採用を抑制した。ちょうど新卒時に就職難に直面したおおむね「1995~2005年ごろ」に社会に出た就職氷河期世代(現在50代前半~30代後半)は、その余波を受けて正社員雇用を得ることも厳しかったが、その後の社内競争も激しく、おそらく「お前の代わりなんて、いくらでもいるんだ!」と罵倒された最後の世代といえるだろう。その頃と比して時代は大きく変化した。

若手とのコミュニケーション。上司世代は要注意!

 就職氷河期世代は、すなわち人口ボリュームゾーンであった団塊ジュニア(第2次ベビーブーム)世代とほぼイコールである。人口ピラミッドで見ても、この後の世代は減り続ける一方であり、これからは貴重な若い労働力を各社で奪い合う時代へと突入していくことになる。彼ら若手を首尾よく採用でき、かつ長きにわたって組織に定着してくれるかどうかは職場環境次第であり、そのためにも上司世代の読者諸氏が部下世代を深く理解し、日々のコミュニケーションでは柔軟に対応することが重要になる。
 一般論として、現在20代の若手社員と、40代後半~50代の上司世代の間には社会環境と価値観の変化が大きく横たわっている。当然のことながら「俺たちが若手の頃はこれが当たり前だった!」という指摘は、理由にならないどころか、そんな理由で叱咤(しった)したら最後、部下からの信頼を失うことになるだろう。

若手社会人の就労意識、これだけの変化

 少なくとも直近10年だけでも、若手社員の就労意識は大きく変化している[図表2]。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表している「新入社員意識調査アンケート結果」によると、若手全体の趨勢(すうせい)として以下のような特徴が垣間見える。

会社が私生活に干渉することを拒む

プライベートな時間を確保し、会社以外の居場所を大切にしたい

したがって、会社の人と業務後に飲みに行くのは気が進まない

会社という枠組みにとらわれず、自分自身の価値観に従って仕事をしたい

新卒で入った会社で働き続けることは当たり前ではなく、転職も含め将来の多様な可能性を求めたい

兼業・副業にも前向き

協調性には自信がある

一方で、創造力や積極性に欠けると自認している

たとえミスをしても広い心で受け入れ、温かく成長を見守ってくれる「寛容型」の上司を求める

[図表2]新入社員が会社に望むことの推移

図表2

資料出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「2019(平成31/令和元)年度 新入社員意識調査アンケート結果」

 われわれ上司世代が考える「報酬」といえば、すなわち「出世」と「給料アップ」であり、逆にそれ以外に何があるんだ? といった意見がほとんどかもしれない。しかし、現代の若手社員の価値観は異なる。彼らが会社に求めるのは「給料よりも『ノー残業&休日確保』」であり、先述のとおり「私生活に干渉されない」ことの割合も、この10年で明らかに高まっている。すなわち、昨今の若手社員にとっては「ワーク・ライフ・バランスを確保すること」も「働く時間と場所を自由に選べること」も、「周囲に気兼ねなく定時に帰り、休みも取れる環境」も、そのすべてが「報酬」なのである。したがって、それらを含めた「多様な価値観」を許容できる上司、および組織こそが、彼らにとっての大いなる魅力であり、選社基準であることを上司世代は強く認識しておくべきであろう。
 特筆すべきは、「寛容な上司」を求める傾向は、他の調査でも回答上位に来ているという点だ。一般社団法人日本能率協会「2022年度新入社員意識調査」によると、同年度の新入社員にとって理想の上司・先輩は「仕事について丁寧に指導する人」(71.7%)が1位で、同項目は2012年以降の調査で過去最高を記録した。ちなみに、2012年当時数値の高かった「場合によっては叱ってくれる上司・先輩」や「仕事の結果に対する情熱を持っている上司・先輩」は大幅にダウンしている[図表3]

[図表3]理想の上司・先輩(上位3項目を選択)

図表3

資料出所:一般社団法人日本能率協会「2022年度 新入社員意識調査」

 全体的な傾向として「丁寧な指導」「成長や力量に対する定期的なフィードバック」へのニーズが高く、若手社員は上司や先輩に対して手厚い対応を求める傾向にあるようだ。また、「指示が曖昧なまま作業を進めること」に若手社員は抵抗を感じており、「質問のしやすい風土や対応」もまた求められているようだ。
 そして、くしくも同様の結果が、同時期に実施された株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2022」でも出ている。それによると、「上司に期待すること」として「相手の意見や考え方に耳を傾けること」「職場の人間関係に気を配ること」が過去最高の選択率となっていた[図表4]。価値観の多様化がうたわれる社会において、個性や違いに受容的で耳を傾けるコミュニケーションを望む傾向を生み出していると推測できよう。

[図表4]上司に期待すること(最大3項目を選択)

図表4

資料出所:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2022」

[注]1.「2022-2021」「5年間の比較」「10年間の比較」のポイント数は四捨五入して表示。

2.10年間の比較で大きくポイントが上昇したものを赤枠、大きくポイントが下降したものを青枠で示している。

 なお、筆者が新入社員であった1999年当時、公益財団法人日本生産性本部が毎年度発表していた「新入社員の特徴とタイプ」は「形態安定シャツ型」であった。その心は「防縮性、耐摩耗性の生地(新人)多く、ソフト仕上げで、丸洗い(厳しい研修・指導)OK。但し型崩れ防止アイロン(注意・指示)必要」とのことだったが、「厳しい指導OK」と公言されるに至っては、今となっては隔世の感がある。
 同本部による「新入社員の特徴とタイプ」発表は2017年度で終了してしまったが、現在は、産労総合研究所が引き継いで実施しており、2023年度の新入社員のタイプは「可能性は∞(無限大)AIチャットボットタイプ」だそうだ。「知らないことがあればその場でごく自然に検索を始めるデジタルネイティブ世代である彼らは、さまざまなツールを扱い答えを導き出すことにかけては、すでに高いスキルをもっている」「先輩社員は、彼らの未熟な面や不安をこれまで以上にくみ取りながらコミュニケーションを取ってほしい。AIチャットボットが適切なデータを取得することで進化していくように、彼らは適切なアドバイスを受けることで、想定を超える成果を発揮する可能性に満ちている」とのことで、ここでもまたコミュニケーションの配慮が促されている点は印象深い。

若手世代とのコミュニケーションの要諦とは

 これらの調査結果から導き出せる若手世代とのコミュニケーションの要諦は、彼らの「多様な価値観への理解」をベースにした「寛容なコミュニケーション」であり、彼らのちょっとしたプラスの変化や長所に対する「承認とフォローの姿勢」といえるだろう。それによって職場の心理的安全性を高め、彼らの一歩踏み出すアクションを促せれば、上司のあなたへの信頼は増していくに違いない。まずは、次の3点を意識するところから始めることをお勧めしたい。

①「多様な価値観への寛容さ」が有効
⇒転職を前提としたキャリア形成志向、副業や兼業への興味、プライベート重視姿勢など

②「承認のコミュニケーション」が有効
⇒相手の成長や小さな変化に気づき、こまめに承認することで心理的安全性を高める

③「丁寧なフォロー」が有効
⇒相手の意欲を捉え、行動を促したり、試行錯誤に伴走したりするなど、フォローを意識的に実施

 また、あなた自身も部下時代に経験したことがあるだろうが、そもそも部下と上司ではアクセスできる社内の情報に大きな格差が存在するし、部下の数が増えれば増えるほど、1人当たりの部下に割ける時間もコミュニケーション量も少なくなりがちだ。部下の知見や視座が、上司からしたらレベルが低いと感じることもあるだろうし、そもそも部下がさまざまな疑問や不満を抱いていたとしても、組織的なヒエラルキーや発言力の差により、すべてを上司に伝えることがかなわないケースもある。いずれも、あなた自身が部下時代に「なぜ上司は分かってくれないんだ!?」とやるせない思いを抱き、「自分はもっと部下に理解のある上司になるんだ!」と心に決めたはずである。今こそ、その考えを実行へと移すべきときである。
 「日々多忙な中で、いちいち部下をケアして、配慮したコミュニケーションなどしていられない」といった状況に置かれている方がほとんどかと思われるが、だからこそ、ちょっとした配慮が大きな差となり、部下や若手があなたを信頼するようになることで、あなたも仕事を進めやすくなるはずだ。それが成功体験となり、横展開していけば、組織も良い方向に大きく変わっていく契機にもなるだろう。ぜひとも、あなたから新たな一歩を踏み出してもらえれば幸いである。