2024年03月08日掲載

Point of view - 第248回 酒井利昌―【永久保存版】「知名度がなくても結果を出す会社」がやっている採用の基本

酒井利昌 さかい としまさ
株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ
取締役

学習塾業界、人材サービス業界を経て、アタックスに入社。採用と教育支援の両軸で、年間200日以上、現場指導に従事。採用コンサルティングにおいては、営業・マーケティングノウハウを転用した独自メソッドを用い、携わった企業すべてを短期間で目標達成に導いている。著書に『増補改訂版 いい人財が集まる会社の採用の思考法』(フォレスト出版)などがある。

「新卒採用が思うようにできていない」――ある社長からの連絡

 「採用が思うようにできていない。中途採用もそうだが、特に新卒採用は今年大失敗に終わった」
 その声には、今まで聞いたことのない歯がゆさが(にじ)み出ていた。

 S社(従業員200人)の社長からその連絡を受けたのは、2022年7月のこと。
 技術力の高さが評価され、業界内では知る人ぞ知る同社。近年では独自の技術を持つ製品を幅広く展開して、業況は好調である。
 一方、採用が思うようにはうまくいっていない。
 独自の技術を承継していくのはもちろん、顧客に新たな価値を提供し続けるには社員の成長と底上げが重要と社長は常に考えている。
 社長にとって、真っ先に手を打たねばならない経営課題、それが「採用力強化」だった。

「うちが採用できないのは仕方ない」は勘違い

 採用コンサルタントの私の元には、このような切実な相談が日々やって来る。
 ちなみに、新卒採用環境の厳しさを象徴する調査結果がある。株式会社ディスコが全国の有力企業を対象に行った調査結果だ。

・ディスコ「新卒採用に関する企業調査(2023年10月調査)」
https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/10/2024_kigyouchousa_kakuho.pdf

 この調査によると、以下のことが明らかになっている。

内定者充足率
平均は67.9%で、前年同期調査(71.3%)を下回った
大手企業でも7割台(78.1%)、中小企業では約6割にとどまっている(59.9%)

内定辞退率
前年度よりも内定辞退者が「増えた」36.5%、「減った」19.7%

 これだけ多くの企業にとって、採用が難しくなっているのだ。
 こういった情報から「うちが採用できないのは仕方ない」と思うのも自然だろう。

 でも、それは勘違いだ。
 実際にうまくいっている会社は、企業規模、業種や職種、エリア、条件の良しあしに無関係で存在するからだ。
 とはいえ、採用市場は売り手市場。簡単に採用できるわけではないのも事実。これまでの延長で採用活動をしている限り、うまくいかない。

 S社には私が採用力強化支援に入ることになった。これまでのやり方をいったんリセットし、ゼロからリスタートする決意をした。
 そのプロセスは、洋服のボタンをすべて外して、第一ボタンから一つずつはめ直すようなもの。地道な改善をスタートすることになった。定期的なミーティングに加え、都度、不定期で相談を受け、適宜フィードバックする日々が続いた。

 支援を開始してから、地道な改善は実を結び始める。
 ついには、10人の採用を実現(2024年卒)。2023年卒が4人の採用だったので、2倍超の採用数になった。
 目標採用人数を達成したのはもちろん、10人の顔ぶれから、質にも十分満足できる結果となった。

「候補者視点」で考え抜く

 では、なぜS社はうまくいったのか。
 その根底にある取り組みは「候補者視点で考え抜く」ということだ。候補者視点で考え抜くとは、例えば以下のようなことを指す。

そもそも候補者となり得る人物はどんな人だろう?

候補者はどんな会社に入りたいと思っているだろう?

候補者が入りたいと思っている会社がまさに当社であると言えるのはどんな点だろう?

候補者が当社に入社することで得られるベネフィットはどんなことだろう?

候補者が当社を認知し、興味を持つには、求人票はどんなタイトルが良いだろう?

候補者が当社にエントリーしようと思うには、求人票にどんなことを記載しておくべきだろう?

候補者がエントリーしてきたら、いつまでにどんな対応をすべきだろう?

候補者が入社意欲を持つには、面接や面談で誰がどんな情報提供をすべきだろう?

候補者がスムーズに入社する意思決定をするには、どんなフォローが必要だろう?

 S社はこれらをあらかじめ定め、採用活動に取り組んでいった。

 採用活動では、候補者が自社を知り、関心を持って応募を検討する段階から選考を終了するまでに、候補者との接点が発生する場面がさまざまある。それぞれの場面において、候補者視点で考え抜き、設計しておくことが重要だ。
 S社がうまくいったのは、愚直に候補者視点で考え抜き、実行したからだ。

採用活動中も「候補者を主語にして考え抜く」

 この文章を読み進めているあなたは、2025年卒採用活動はもちろん、既に2026年卒採用活動に取り組んでいるかもしれない。
 いずれにしても、現時点でどこまで候補者視点で考え抜けているか、今一度チェックしていただきたい。強くお勧めする。

 例えば、あなたの会社では既に2025年卒採用に取り組んでいるとしよう。初めから狙ったとおりの成果が出ないのは普通だ。うまくいっていないときは、一度冷静になって、次の3ステップで考えてみよう。

1.問題がどこにあるか(問題特定)

2.その問題の原因は何か(原因追究)

3.ではどうすればよいか(対策立案)

 これは、問題解決に当たっての基本となる3ステップだ。私は採用活動かどうかにかかわらず、あらゆる問題解決において、このステップで考えるようにしている。
 その上で、自社の採用の問題点に対処するために、以下の2点を心掛けてほしい。

[1]「採用パイプライン」で問題を特定する
 3ステップで考えるに当たって、まずは、問題を特定することから始める。問題とは、「あるべき姿」と「現状」とのギャップだ。
 となると、問題を特定するためには、「あるべき姿」があらかじめ設定されている必要がある。そして、その上で「現状」を正しく把握する必要がある。
 ここで活用するのが、「採用パイプライン」だ。採用パイプラインを設計していれば、採用ステップごとにあるべき姿が可視化されているということになる[図表]

[図表]採用パイプライン(あるべき姿)の例

図表

 このように、まず採用パイプラインであるべき姿を設定する。その上で採用活動を行いながら、リアルタイムに現状を反映させていく。
 そうすると、“あるべき姿-現状=ギャップ(問題)”として、問題を特定させることができる。

 「もともと、4月15日までに500人の応募を集める予定だったけど、4月1日時点で400人しか集まっていない。このペースだと応募数は450人に着地しそう」ということならば、不足している“50人”があるべき姿と現状とのギャップであり、問題だということだ。
 このように、問題は定量化(数値化)して設定するのが肝だ。定性表現(例:少ない、低い)だと、主観が混じるため、頭を整理することが困難になる。

 他にも例えば、説明会参加人数は450人だったものの、集合面接の参加人数が300人となり、あるべき姿の360人とギャップが生じている場合は、歩留まりに問題がある。
 あるべき姿を80%(360/450人)としていたのに対し、現状は66.6%(300/450人)であるのだから、13.4ポイントのギャップがあり、このギャップを埋めることが課題ということになる。

[2]「原因追究」と「対策立案」は候補者を主語にして考える
 このように、採用パイプラインを用いて採用活動の進捗(しんちょく)管理をしている会社は多い。
 この次に気を付けたいのは、「どうしたら応募数が増えるか?」「どうしたら歩留まりが改善するのか?」といったように、「候補者を数字でしか捉えない」という状態だ。

 確かに、採用パイプラインを使って、問題を特定するのは数字がよりどころになる。
 しかし、原因を深掘りし、根本原因を突き止めるに当たって、一番意識してほしいことがある。それは「候補者視点で考え抜く」ということだ。

あるべき姿「そのとき候補者にどう思っていただきたかった?」
現状「実際にどう思われた?」
原因「どうして?」
対策「ではこうしよう!」

 ……といったイメージだ。

 数字だけの議論をしている限り、表面的な話し合いに終始し、解決に導くことはできない。本質的な議論をするには、実際の候補者を取り上げて吟味することが大切だ。
 「●●さんには、どう思ってもらえれば、次のステップに進んでもらえるだろうか?」
 ――このように、主語を候補者にして議論することで解決策が見えてくる。
 採用活動中は、とにかく「どれだけ候補者視点で考え続けたか」で結果が左右する。

 応募数に問題があるならば、「うちの会社はどんな人にとって、どんな価値があるんだろう」
 歩留まりに問題があるならば、「●●さんが、最適な選択をするにはどんな体験をしてもらえばいいだろう」
  ――といったように、候補者視点を意識し続けてほしい。

 最後に。
 あなたの会社に「価値がある」と感じてくれる人は必ずいる。
 もし、採用活動がうまくいっていないとしたら、「候補者視点で考え抜く」ことが不十分なだけだ。
 そのことを謙虚に捉え、改善し続けていただきたい。