本書の著者マーシャル・ゴールドスミスは、エグゼクティブ・コーチングの第一人者であり、世界的大企業の経営者80人以上をコーチしたことで知られる人です。本書は2007年に刊行された世界的ベストセラーを、17年を経て文庫化した1冊になります。
本書は四つのパートから構成され、PART1「成功の落とし穴」では、“過去の成功がさらなる成功を妨げること”に注意を向けます。第1章で、エグゼクティブ・コーチという仕事の役割は、エグゼクティブの悪い癖を直すことであるとした上で、第2章では、成功者が陥りがちな四つの思い込みを示します。成功した人ほど変化を嫌う傾向にあり、それは“自分にはスキルがある”“自信がある”“モチベーションが高い”“みずから成功を選んでいる”といった思い込み的な信念(=迷信)のためであるとしています。
PART2「あなたをさらなる成長から遠ざける20の悪癖」では、エグゼクティブが持ちがちな悪い癖をセルフチェックすることができます。まず第3章で、何か行動する以上に、何かの行動を「やめる」ことが重要であると説き、第4章では「20の悪い癖」を挙げて、誤った行動を直す方法を具体的に解説しています。
ちなみに、著者が指摘する、経営者やリーダーの多くが持っていて、それが職場に悪い影響を与えているという「悪癖」として、①極度の負けず嫌い、②何か一言よけいなことを言う、③善し悪しの判断を下す、④人を傷つけるコメントをする、⑤「いや」「しかし」「でも」から始める、⑥自分の賢さを誇示する、⑦怒っているときに話す、⑧ネガティブなコメントをする、⑨情報を教えない、⑩きちんと他人を認めない、⑪他人の手柄を横どりする、⑫言い訳をする、⑬過去にしがみつく、⑭えこひいきする、⑮謝らない、⑯人の話を聞かない、⑰お礼を言わない、⑱八つ当たりする、⑲責任回避をする、⑳「わたしはこうなんだ」と言いすぎる――の20個が挙げられています。他人についてだけでなく自身についても、思い当たるフシがある人もいるのではないでしょうか。さらに、第5章で21番目の癖として、「目標に執着しすぎる」こともよくないとしています。
PART3「どうすればもっとよくなれるのか」では、対人関係を変え、よいつながりを長続きさせる方法として、第6章から第12章にかけて、「〈ステップ1〉フィードバックのスキルを磨く」から「〈ステップ7〉フィードフォワードを練習する」までの七つのステップをそれぞれ解説しています。
PART4「『自分を変える』ときの注意すべきポイント」では、「変化のためのコーチングをいかに使うか、何をやめるべきかを学ぶ」ことがテーマとなっており、第13章では「自分を変える」八つのルールを挙げています。さらに、第14章で、部下やスタッフの扱い方についても述べています。
さらに、最後の「コーチングすべきでない人をコーチするのはやめよう」では、コーチングすべきでない人の例として「変化を望まない人」などを挙げています。自分自身がそちら側にならないように意識することも大切だと思わされました。
著者自身の経験に基づいた事例が豊富で、語り口も非常に分かりやすいものとなっています。読んでいて、自分自身がコーチングを受けているような気持ちになる本です。読むたびに改めて啓発される箇所が少なからずあり、未読の人はもちろんのこと、既に読まれている人も、文庫化を機に読み直してみるのもいいのではないかと思います。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2024年3月にご紹介したものです
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー