2024年05月20日掲載

人事が取り組む生成AI活用 - 第3回 シーン別に見たChatGPT活用のポイント ~繰り返しがある人事実務と採用業務の例

津田恵子 つだ けいこ
Happiness insight合同会社 CEO/ベンチャー採用コンサルタント

1.プロンプティングの基礎※1

 プロンプトとは、AIとの対話など、対話形式のシステムにおいて、ユーザーが入力する指示や質問のことである。初めて生成AIに触れたとき、質問の仕方が難しいと感じられた方もいるのではないだろうか。生成AIへの指示出しは、以下の四つの要素から構成されている。

①Instruction(命令)
AIに何を行ってほしいかの指示を示す。
例)「案内文章を作成して下さい。」
「文章を要約して下さい。」

②Context(文脈)
プロンプトの背景情報を示す。
例)「あなたは●●●●(企業名)の採用担当者です。」

③Input Data(入力データ)
AIが処理すべき具体的なデータや情報を示す。
例)企業の情報/要約元の長い文章 など

④Output Indicator(出力指示)
AIの出力がどのような形式であるべきかを示す。
例)500文字以内で/箇条書きで/表組みで/要約する など

 これらの要素を組み合わせることで、生成AIに対して具体的で明確な指示を与え、思いどおりの回答を得ることが可能となる(プロンプトを使用してAIに回答を促す一連のプロセスを「プロンプティング」という)。ただし、生成AI出力の質には限界があり、以下の注意点もある。

プロンプトを繰り返し微調整することで出力の質が変わる

使用しているモデルの能力と限界を理解しておく

具体性や一貫性を持たせる場合、限定的な言葉を入力する

出力における倫理性は担保されていない

 聞きたい質問をそのまま入力して回答を得ることを「Zero-Shotプロンプティング」といい、最初はこのやり方から始めるのがいいだろう。慣れてくると例文を2~3個入力して質問することができるようになる。これを「Few-Shotプロンプティング」という。

※1 一般社団法人生成AI活用普及協会『生成AIパスポート試験公式テキスト』117~119ページより、筆者要約。

2.繰り返しがある人事実務における活用例

[1]従業員向け案内文の作成
 人事業務では、年次、月次などで従業員へ定期的に案内すべき項目(イベント等)がある。ここでは、①e-learning研修の案内と、②健康診断の案内を例に、ChatGPT※2を活用した案内文の作成例を紹介する。今まで定型ひな型で案内していたイベントの場合は、説明に関して新しい視点が得られることも多い。もちろん、今年から新しく案内するイベントについても、同様に作成可能だ。生成された内容は、最後に人間が校正する必要があるが、ゼロから作る場合に比べて、負担がかなり軽減されるのではないだろうか。

※2 以下、特記のない限り、ChatGPT3.5を使用。

①e-learning研修の案内

入力

リスキリングのカルチャー醸成を目的に、社員向けe-learning研修を実施します。
社員向けに案内を600文字程度で箇条書きに作って下さい。

出力

画像1

もう少し、受講促進の意図を出したいと思ったので、プロンプトを追加した。

入力

この結果に、受講促進メッセージを追加して下さい。

出力(上記出力内容に下記の受講促進メッセージが追加された)

画像2

②健康診断の案内

 健康診断は年齢によって対象プログラムが異なるため、これを踏まえた案内文章も、表組みで作成することができる。

入力

対象者を表組みにして、案内文を作成して下さい。
~39歳までの方:定期健康診断(標準項目)
40歳~の方:人間ドック
対象者は社内向けで、落ち着いた文章にして下さい。

出力

画像3

 語句や表現面での推敲が必要となる部分もあると思われるが、下書きとしては十分な情報がある。

[2]エクセルやスプレッドシートの関数作成

 人事は、従業員データベースを扱っているため、給与・等級・評価・採用時の情報、研修情報など大量の人事データに対して迅速で正確な処理が求められる。エクセルやスプレッドシートの関数をインターネットで調べる場合、具体的な事例に対して回答されていることが多いため、自身の状況と完全に一致するケースを見つけられないこともある。生成AIであれば、自分の行っている具体的な作業ベースで回答をもらうことができる。

 ここでは、入社年月日から勤続年数を算出するための数式を調べることにする。

(スプレッドシート上のデータイメージ)
画像4

入力

スプレッドシートで、A列に社員番号、B列に氏名、C列に入社年月日を入れています。
D列に勤続年数を出すための数式を教えて下さい。
※スプレッドシートをエクセルに代えてもOKです。

出力

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 右上にあるCopy codeをクリックして、D2セルに入れると、下記のように勤続年数を算出できるようになった。職場であれば、「ちょっといいですか」と先輩などに聞くようなことかもしれないが、こうした具体的な作業ベースで、生成AIに尋ねることができる。

(関数の入力イメージ)
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[3]従業員からの問い合わせ

 従業員から日々、さまざまな問い合わせを受けて、正しく迅速に回答することも、人事の大切な役割である。問い合わせをする従業員は、急いでいることも多い。生成AIプロダクトを提供しているサービスの中には、アップロードした書類から回答を生成する機能を持っているものもある。この機能を活用することで、従業員自身が必要なタイミングで生成AIに問い合わせ内容を入力して回答を得ることが可能となる。なお、2024年5月時点で、ChatGPTにこの機能はないため、ここでは、株式会社クラフターが提供する、社内書類から参照できる生成AIサービス「Crew(クルー)」を活用し、アップロードした自社の就業規則から回答を生成した。

入力

有給休暇はいつから発生しますか。

出力

画像7

 人事は多くの社内規定を管理しており、これらを正しく参照して回答する力が求められるが、該当箇所を探すには時間も手間もかかる。生成AIでは瞬時に回答を作成するとともに、規定の該当部分も示してくれる。

[4]初めて担当する分野の手順確認
 異動や人事内での担当替え等により、これまで経験したことのない領域の業務を担当することもあるだろう。ここでは、年末調整を初めて担当するケースを考える。具体的な引き継ぎを受ける前に、生成AIで概要を調べて頭に入れておくことも可能だ。例えば、年末調整で気を付けるべきことを確認したところ、「1月末までに提出しなくてはならない」ことが分かった。

入力

今年から初めて担当する人に向けて、年末調整の手順を教えて下さい。

出力

画像8

入力

気を付けるべきことは何ですか。

出力

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3.採用活動における活用例

 類似業務が反復されるのは、採用活動も同様だ。ここでは代表的な業務について、生成AIを活用したケースを紹介する。

[1]求人票の作成
 例えば、初めてエンジニア採用を任されたときのことを考えてみてほしい。自分は開発に関する知識がなく、これから現場に人材要件のヒアリングをしなければならない。そのようなとき、「どんなことをヒアリングすればよいか」について、生成AIで事前準備をすることができる。

入力

フロントエンドエンジニアの人材要件を教えて下さい。

出力

画像10

 現場のヒアリングでは、出力結果の1~6の視点で質問をすると、スムーズに進めることができるだろう。これに加えて、他社の求人例などにも目を通すなどし、具体的なイメージを持って擦り合わせができるとよい。

[2]スカウトメールの作成
 スカウトメールには、①企業説明部分と②候補者の経歴を引用する部分がある。メールの文案を生成AIで作成する場合は、個人情報や機密情報が学習されることを防ぐため、①については公開されている情報で作成し、②については情報が学習されない環境で行うようにすることが重要だ。当然ながら、候補者の経歴等をそのままChatGPTに入れるのはNGである。

入力

あなたはHappiness insightで中途採用を担当しています。
営業職の中途採用で使うスカウトメールの文面案を500字程度で作成して下さい。
#仕事内容の詳細

  • 仕事内容:ベンチャー企業向け採用コンサルティング、採用代行
  • 住所:東京都港区
  • 雇用形態:正社員
  • 募集の背景:事業拡大による増員
  • 仕事の概要:お問い合わせやアウトバウンドのテレアポによるアポイント設定から、お客様の組織課題のヒアリング、課題に合わせたサービスの提案
  • 対象となる方:人材ビジネス業界のご経験(3年以上)
  • 仕事の魅力:①成長期のベンチャー企業とダイナミックな仕事ができる
    ②代表直下で、裁量のある仕事ができる

出力

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[3]面接における質問項目の作成

 カスタマーサクセス担当者の採用面接をする際の質問項目を聞いてみた。併せて、自社にふさわしいかどうかの判断基準の作成も依頼してみる。

入力

カスタマーサクセスの面接をするときの質問項目を教えて下さい。
Happiness insightにふさわしいかどうかの基準も作って下さい。

出力

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 特に、知識のない領域の職種で採用要件を作るときには、視点を網羅することができるため、参考になるだろう。

 次回は、人材育成、人事企画領域での活用例について紹介する。

プロフィール写真 津田恵子 つだ けいこ
Happiness insight合同会社 CEO/ベンチャー採用コンサルタント
岐阜県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、2002年より株式会社リクルートスタッフィングにて人事採用業務に従事。2004年より伊藤忠人事総務サービス株式会社にて、グループ会社向け採用アウトソーシングや伊藤忠商事向け研修企画・運営に従事。
2019年9月に独立し、「一人ひとりの能力が活きる社会を実現する」をビジョンにHappiness insightを創業。企業における採用活動支援では、2022年の面接実績は350名、ダイレクトリクルーティングに関しては、複業クラウド、LinkedIn(リンクトイン)、LabBase、Wantedly、アサインナビ、キミスカなど対象別にプラットフォームを使い分けて実績を出す。その他リカレント教育普及やRPO(採用代行)を通して、働き方に悩んだ自身の経験を活かし、人々の幸せな働き方を支援している。
2023年3月、早稲田大学大学院経営管理研究科修了・MBA取得。ベンチャー稲門会会員。プライベートは三児(中3・小6・5歳)の母。生成AIプロダクト「Crew」を提供する株式会社クラフターでは、2023年3月より人事を担当している。生成AIに関する資格「生成AIパスポート」取得。