2024年05月31日掲載

Point of view - 第253回 卜部小夜子―「キャリアブレイク」について人事担当者に知ってもらいたいいくつかのこと

卜部小夜子 うらべさよこ
一般社団法人キャリアブレイク研究所 理事

2020年合同会社うみのなか商店設立。障害の有無にかかわらず、 “誰もが健康的にはたらく暮らしができる社会” を目指し、おしゃべりできる図書室「あかり図書室」、就労事業所とともに世界に通用するブランドをつくる「北浜縫製」を運営。2022年より一般社団法人キャリアブレイク研究所に設立時理事として関わり、離職・休職をポジティブに捉える「キャリアブレイク」を文化にする活動を行う。毎月6日に発刊する『月刊無職』、 “まだの時間” を楽しむ書店「mada books」の企画運営を担当。精神保健福祉士、就労福祉ワークデザイナー、産業カウンセラー。

1.「キャリアブレイク」とは

 「キャリアブレイク」とは、一時的に雇用から離れる離職や休職など、キャリアの中にあるブレイク(小休止)期間のことである。ただし、キャリアブレイクといっても、意味は多岐にわたる。
 そもそも、本来はキャリア=職歴ではなく、キャリア=経歴である。そして、経歴とは人生そのものであり、職業人生だけではない。キャリアブレイクは、離職や休職のタイミングでそれまで働いていた場を離れ、感性を回復し、人生そのものを立て直す(=自分復興)時間をつくることである[注]

[注]北野貴大『仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢』(2024年、KADOKAWA)参照。

 キャリアブレイクは、入り口別に大きく4タイプに分かれる。ライフ(LIFE)型、グッド(GOOD)型、センス(SENSE)型、パワー(POWER)型である。キャリアブレイクの途中にタイプが変わる人もいるが、この4タイプはそれぞれキャリアブレイク後に描く絵が異なっているのが特徴である。

[図表]キャリアブレイクの4タイプ

図表

 日本は欧米と比較し、キャリアブレイクがまだ一般的ではなく、ポジティブにも捉えられていない。欧州やアメリカでは一般的な文化であるが、今の日本での認知はまだ低く、言い換えて “無職” と呼ばれることが多い。しかし、少しずつキャリアブレイク経験者は増加している。

2.人材の採用に当たって、企業はキャリアブレイクをどのように捉えてきたか

 昔、終身雇用が一般的だった日本では、休職や離職をキャリアの “ブランク” (空白期間)と捉え、ネガティブなものと認識する傾向にあった。ブランクはキャリア形成において、また、再就職や昇進に不利に作用する場合が多いとされていた。
 しかし、一つの場所で長く働くことに重きを置く日本的価値観は、多様な働き方を目指すこれからの社会の壁になると考える。そんな中、「人生100年時代」といわれる現在において、キャリアブレイクをした人は企業からどう見えるのだろうか。無職や休職の期間は、転職面接でどのように聞かれ、どう評価されるのか。
 求人応募者の履歴書に空白期間があった場合、多くの人事担当者は、あまりポジティブに捉えない。空白期間が原因で採用を見送る場合もあるだろう。雇用に関わるさまざまな方面があり、その社会的立場を考慮した上でのアドバイスや提案、関わり方がなされている。一方で忘れてほしくないのは、キャリアブレイクをした人は、今まで社内になかった価値観を持ち込んでくれたり、これまでとは違ったアプローチで事業を広げてくれたりする可能性があることだ。
 ここで重要なのは、採用時のミスマッチを防ぐためのコミュニケーションである。 “キャリアブレイク中に何をしていたか” ではなく、その結果今どのように考えているのか、本人の主体的な感性を受け止め、理解し合う場面が必要だと考える。

3.人事担当者に知ってもらいたいいくつかのこと

 キャリアブレイクを意識している企業はまだ少数派だが、それまでの仕事の場から “離れる” ことに対しての効果を感じ始めている企業は、増えてきている印象を持つ。キャリアブレイクという表現ではなくとも、離職、休職、休暇などのもたらすパフォーマンスの向上という、長期的視点から見た会社への効用への注目が高まり始めている。
 近年、会社を離職、休暇、長期休職できる制度が少しずつ増えている。特別休暇や特別休職は、法律で義務化されている法定休暇とは異なり、各企業が従業員に与えることのできる任意の法定外休暇である。福利厚生の一つとして自由に設定することが可能であり、有給にするか無給にするか、期間も半日単位から数年に至るものまでさまざまである。オリジナルでユニークな制度を設けることができるため、企業の独自性を表すものと言える。特別休暇や特別休職の目的も多岐にわたり、社員が自分自身を育てるため、しっかりとまとめて休むため、遠出をするため、インプットできる機会を得るためなど幅広い。
 また、離職後も社員と会社との間のネットワークを維持して、新しいつながりを生み出したり、再雇用や復職への道を構築する、アルムナイ・ネットワークのような試みもある。さらに、ボランティア休暇やサバティカル休暇などの特定の目的のための短期間の休暇、家族との時間や学びの時間など時間の使い方に制約を設けない長期休職など制度は多彩だが、総じて今の仕事の場から “離れる” ことに対してのポジティブな動きが広がり始めていると思える。こうした取り組みを行う企業の寛容さは、結果としてその企業で働く個人の人的資本の向上につながる。 “離れる” ことで個人が自身のやりたいことや価値観を再認識し、結果生まれたエネルギーや感性が、ビジネスシーンにおいて生かされていくと考える。正解がないこれからの社会で、必要とされるだろう感性や分別といった能力は、 “離れる” ことと密接な関係があるのではないか。
 離職や休職は、ネガティブな側面もあるが、 “離れる” ことを決断して人生の転機をつくる主体的な行為とも言える。人事担当者は、キャリアブレイク後の求人応募者や復職者が、 “今” はどういう気持ちでいるのか、何ができるのかに耳を傾けほしい。

4.終わりに

 キャリアブレイクという出来事をどのように捉えるか、自社のみならず現在の社会においてどのような捉え方をして位置づけるべきか、ぜひ一度考えてみてほしい。なにか明確な正解があるわけではない。キャリアブレイクは、それを選びたい人が自分で決めて選択することだ。人事担当者の皆さんには、彼らが企業とつながる場面に立ち会う際には、 “今” に目を向け、彼らの人生の “キャリア” に交わることでどんな可能性が生まれるのか、探ってほしいと考える。