2024年07月17日掲載

人事労務関係の税務相談 - 第9回 結婚、出産、育児、介護関係 ~会社が育児用品を現物支給する場合、給与課税は必要?

アクタス税理士法人

飯塚和正 いいづか かずまさ
パートナー 税理士

藤田益浩 ふじた ますひろ
ディレクター 税理士

Q1 会社からの結婚祝金の取り扱い

 このたび結婚する社員に対し、慶弔見舞金規程に従って会社から結婚祝金を贈りました。この結婚祝金は、税務上どのように取り扱われるのでしょうか。

A 役員や社員に支給する結婚祝金は、一定の要件を満たせば、給与として課税されず、会社は福利厚生費等として損金算入できる

1.結婚祝金の取り扱い
 役員や社員に支給する結婚祝金などは、原則的には給与とされる。ただし、広く一般社会の習慣として行われているものでもあり、次のようなものであれば、給与として課税されず、会社は福利厚生費等として損金算入することができる(所基通28-5、措通61の4(1)-10)。

(1)社内規定等、一定の基準に従って支給されるものであること

(2)社会通念上相当な金額と認められるものであること

2.支給する場合のポイント
 「社会通念上相当な金額」というのは、法律上、金額が明文化されているわけではないが、明らかに高額な支給を行った場合には、その支給した全額が給与として課税されることになる。結婚祝金のほかに、役員や社員に支給する出産祝金、見舞金や香典などの慶弔金についても同様の取り扱いとなる。なお、取引先の社員など社外の者に対するものは交際費となるので注意が必要である。

Q2 結婚資金の無利息貸付

 社員が結婚式を挙げるに際し、会社から10万円の金銭の貸付を行いました。貸付期間は2カ月ほどであり、利息は徴収しません。この無利息貸付について税務上の取り扱いはどのようになりますか。

A ご質問の結婚資金の貸付は無利息だが、2カ月の間に発生する経済的利益の額は5000円以下となるため、課税されない

 社員に金銭を貸し付け、その利率が年0.9%以上となっている場合には、給与として課税されない。

※各年の前々年の9月から前年の8月までの各月における短期貸付の平均利率の合計を12で除して計算した割合として各年の前年の11月30日までに財務大臣が告示する割合に、年0.5%の割合を加算した割合をいう。2024(令和6)年は0.9%となる。ただし、会社が貸付の資金を銀行などから借り入れている場合には、その借入金の利率を基準として計算する(所基通36-49)。

 しかし、ご質問のケースのように、無利息の場合や年0.9%に満たない利率で貸し付けた場合には、次の①~③に該当する場合を除いて、年0.9%の利率と実際の貸付利率との差額が、給与として課税されることになる(所基通36-28、36-49)。

(1)災害などにより、臨時的に多額な生活資金が必要となった役員や社員に、合理的な返済期間で金銭を貸し付ける場合

(2)会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、その利率により金銭を貸し付ける場合

(3)0.9%の利率と実際の貸付利率との差額分の利息が1年間で5000円以下である場合(その事業年度が1年に満たない場合には、5000円にその事業年度の月数[1カ月未満の端数切り上げ]を乗じ、12で除して計算した額)

 ご質問の結婚資金の貸付は無利息だが、2カ月の間に発生する経済的利益の額は5000円以下となるため、課税されない。

Q3 得意先や部下の結婚式への出席費用の負担

 当社は部長職以上が得意先などの結婚式に出席する場合には、そのご祝儀代として5万円を、社員の結婚式に出席する場合には3万円を、それぞれ会社で負担しています。このようなご祝儀代は給与課税されますか。

A 得意先など社外に慶弔金を支出した場合は交際費となる。部長職以上が社員の結婚式へ出席するために支給する場合は、本来個人が負担すべき費用を会社が補助したことになり、給与として課税される

1.得意先などに対する場合の取り扱い
 会社が、得意先など社外の人への慶弔金を支出した場合は、原則として交際費となる(措通61の4(1)-15)。

2.社員に対する場合の取り扱い
 結婚する社員に対して会社から支給される結婚祝金は、Q1のとおり、一定の基準に従い、社会通念上相当と認められる金額を直接本人に支出した場合、給与として課税されず、会社も福利厚生費等として損金算入することができる。
 しかし、ご質問のように部長職以上の者が社員の結婚式へ出席するために支給されるものについては、本来、個人が負担すべき費用であり、これを会社が補助した場合には、その部長職以上の者への給与として取り扱われることになる。

Q4 出産育児一時金と出産手当金を受給した場合

 社員が出産に当たり出産育児一時金と出産手当金の支給を受けました。この場合の課税関係を教えてください。

A 出産育児一時金および出産手当金は、健康保険法62条の規定により課税されない

1.受給した者の課税上の取り扱い
 健康保険法の規定により支給される出産育児一時金および出産手当金については、同法の規定により課税されないこととされている(62条)。

2.その他の課税上の取り扱い

(1)医療費控除における取り扱い
 出産育児一時金は、出産費用を補助するために支給される制度であるから、医療費控除の額を計算する場合の支払い医療費から差し引く。一方、出産手当金は、出産に際し会社を休んだ場合に、所得を補償するために支給される制度であるから、医療費の補助には当たらない。したがって、支払い医療費から差し引く必要はない(所基通73-8、73-9)。

(2)控除対象配偶者の判定における取り扱い
 配偶者控除の適用を受けるためには、配偶者の合計所得金額が48万円以下である必要があるが、出産育児一時金および出産手当金は、控除対象配偶者に該当するかどうかを判定するときの合計所得金額には含まれない(所基通2-41)。

Q5 育児休業給付金を受け取った場合

 社員が育児休業の取得に伴い育児休業給付金の支給を受けた場合、課税上の取り扱いはどのようになりますか。

A 育児休業給付金は、雇用保険法12条の規定により課税されない

1.育児休業給付金制度とは
 1歳(一定の場合は1歳2カ月。さらに保育所等における保育の実施が行われないなどの場合は1歳6カ月または2歳)に満たない子を養育するために育児休業を取得する雇用保険の被保険者が、一定の要件を満たす場合に、育児休業給付金の支給を受けることができる。

2.受給した者の課税上の取り扱い
 雇用保険法の規定により支給される育児休業給付金は、同法の規定により課税されないこととされている(12条)。

3.その他の課税上の取り扱い
 配偶者控除の適用を受けるためには、配偶者の合計所得金額が48万円以下で、納税者本人の合計所得金額が1000万円以下である必要があるが、育児休業給付金は、控除対象配偶者に該当するかどうかを判定するときの合計所得金額には含まれない(所基通2-41)。

Q6 介護休業給付金を受け取った場合

 社員が介護休業の取得に伴い介護休業給付金の支給を受けた場合、課税上の取り扱いはどのようになるでしょうか。

A 介護休業給付金は、雇用保険法12条の規定により課税されない

1.介護休業給付金制度とは
 負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態にある家族を、介護するために介護休業を取得する雇用保険の被保険者が、介護休業期間中の賃金が休業開始時の賃金と比べて80%未満に低下した等、一定の要件を満たす場合に、休業開始時賃金月額の67%の介護休業給付金の支給を受けることができる。

2.受給した者の課税上の取り扱い
 雇用保険法の規定により支給される介護休業給付金は、同法の規定により課税されないこととされている(12条)。

3.その他の課税上の取り扱い
 配偶者控除の適用を受けるためには、配偶者の合計所得金額が48万円以下で、納税者本人の合計所得金額が1000万円以下である必要があるが、介護休業給付金は、控除対象配偶者に該当するかどうかを判定するときの合計所得金額には含まれない(所基通2-41)。

Q7 会社が支給する出産祝金

 社員の出産に伴い出産祝金を支給しています。第1子および第2子の支給額は2万円ですが、第3子以降は育児支援制度の一環として100万円の支給を検討しています。この場合の課税関係を教えてください。

A 出産に伴う祝金品は、原則として給与課税されるが、一定の基準を満たせば課税しなくてよい。ただし、第3子以降の支給額(100万円)は、一般に贈答されている金額とはいえず、給与課税する必要がある

1.出産に伴う祝金品の取り扱い
 会社が社員に対して支給する出産に伴う祝金品は、原則として給与として課税する必要がある。ただし、出産等の慶事に際して行われる祝金品等の贈答は一般的に行われているものであり、その金額が支給を受ける者の地位等に照らし、社会通念上相当と認められる金額については課税しなくて差し支えない(所基通28-5)。

2.ご質問のケースの取り扱い
 第1子および第2子の支給額は、一般に贈答されている程度の金額なので課税しなくて差し支えないが、検討されている第3子以降の支給額(100万円)は、一般に贈答されている金額とはいえず、給与として課税する必要がある。

Q8 会社が育児用品を現物支給する場合

 当社は子どもが生まれた社員に対し、紙おむつなどの商品を支給することにしていますが、この場合の課税関係を教えてください。

A 出産に伴うお祝いを物品で支給した場合は、課税しなくて差し支えないが、明らかに高額な物品の場合や育児用品等を一定期間ごとに継続して支給する場合は、給与課税の必要がある

 子どもが生まれた社員に対して、粉ミルクなどの食品や紙おむつなどの日用品などを現物支給し、育児支援を行う場合は、一般に行われている出産に伴うお祝いを物品で支給したものと考えられるので、課税しなくて差し支えない。
 ただし、明らかに高額な物品の場合や育児用品等を一定期間ごとに継続して支給する場合は、物品により給与の支給を行っていると考えられるので、給与として課税する必要がある(所基通28-5)。

Q9 訪問介護(ホームヘルプサービス)の補助

 当社では、社員やその同居家族が傷病等により訪問介護(ホームヘルプサービス)を利用することになった場合、一定条件の下に補助金を支給しています。この補助金の課税について教えてください。

A 原則として、補助金の額が社会通念上相当と認められる場合は、見舞金に該当するので課税しなくて差し支えない

1.支給する補助金の取り扱い
 社員およびその家族が傷病等により医療費を負担したときに、会社が支給する補助金については、その額が社会通念上相当と認められるものである場合は、いわゆる見舞金に該当するので課税しなくて差し支えない(所基通9-23)。
 ただし、この補助が一定期間以上継続して行われる場合、または傷病に直接基因することが明らかでないものについては、給与として課税されることになる。

2.医療費控除における取り扱い
 社員が負担する訪問介護(ホームヘルプサービス)は医療費ではないが、傷病等により介助を必要とし、介護保険法に定める「居宅サービス計画」に基づいて、医療系サービスと併せて利用する場合、ホームヘルプサービス費用の自己負担額は、医療費控除の対象となる。
 会社からの補助金が見舞金に該当する場合は、支払い医療費から差し引く必要はない(所令30条1項3号、所基通73-9)。

執筆者プロフィール

飯塚和正 いいづか かずまさ
アクタス税理士法人
パートナー 税理士

中堅・中小法人から上場企業に対する税務コンサルティング業務を中心に、会計や経営、経理に関するコンサルティング業務に従事。「お客様の身になって考える」ことを常に意識し、お客様の成長と発展のために必要となるコンサルティングサービスの提供を心掛けている。
藤田益浩 ふじた ますひろ
アクタス税理士法人
ディレクター 税理士

中堅・中小企業への税務コンサルティングを中心に取り組んでいる。同族企業経営者の身近なアドバイザーとして、法人・個人双方の立場で親身なコンサルティングを提供。税務や会計に関するセミナー講師も多数行っている。

法人プロフィール

アクタス 税理士法人
アクタスグループは、税理士など約230名で構成する会計事務所グループで、東京(赤坂、立川)、大阪および長野の計4拠点で活動している。中核の「アクタス税理士法人」では、税務相談・申告、国際税務、組織再編、企業再生、相続申告など専門性の高い税務コンサルティングサービスを提供している。