2024年06月14日掲載

Point of view - 第254回 加守田枝里―改正育児・介護休業法等の施行に備えて

加守田枝里 かもだ えり
野口&パートナーズ法律事務所 弁護士

弁護士(大阪弁護士会所属)。京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。経営法曹会議会員。相手の目線に立った親身なコミュニケーションと、確かなリサーチ・分析に基づく的確かつ丁寧なアドバイスにより、顧客から厚い信頼を寄せられている。

 男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするための改正育児・介護休業法等が、令和6年5月31日に公布された。
 改正法では、①子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、②育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化、③介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置が盛り込まれている。
 概要は、[図表]のとおり。これに伴い、企業は体制の整備が必要になる。

[図表]育児・介護休業法の改正内容

図表

資料出所:厚生労働省WEBサイト https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000788616.pdf

1.子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充

 厚生労働省が公表した企業に対するアンケート結果では、仕事と育児の両立支援を推進する上での障壁・課題として、「代替要員の確保が難しく、管理職や周囲の従業員の業務量が増えた」が46.7%で最も回答割合が高く、次いで「子育て中の従業員とそうでない従業員との間で不公平感がある」が26.9%と続く(「仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査報告書〈企業調査〉」〔令和5年3月〕)。
 今回の法改正により、企業はさらなる対応を求められるため、このような障壁・課題をなくす工夫が必要になる。
 ここで、同省「女性の活躍推進・両立支援総合サイト」の「女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の好事例」が参考になる。
 例えば、新潟県長岡市のサカタ製作所は、各部署の業務内容と所要時間を15分ごとに記録して、業務の棚卸し・属人化業務の洗い出しを行った。事務系の業務はマニュアル作成や引き継ぎ、トレーニング等によって属人化を解消し、工場における作業は、年間計画を立てて計画的に多能工化を推進している。また、社外から社内のデータにアクセスできるようにして、どこからでも自分のフォルダにアクセスして仕事ができる環境を整備した。こうした業務の属人化の解消や多能工化によって、急な欠員にも対応しやすくなった。そして、制度の恩恵を受けない従業員にも不公平感がないよう、人事評価でその人の働きを評価するなど、対策を検討しているという。
 宮崎県日向市のグローバル・クリーンでは、従来、“大型の機械を操作する清掃業務は男性の仕事、ホームクリーニングは女性の仕事” というように、性別による分業が行われていた。新たな取り組みでは、女性も大型の機械を操作できるようにOJTで学ぶなど、1人の従業員ができる業務の幅を広げ、誰かが急に休んでも、他の人がカバーできる体制を整えている。これによって、提供するサービスの質を担保するとともに、従業員の急な欠員時にも代替スタッフの確保を容易にした。
 これらの取り組みは、仕事と育児の両立に限られない効果を得られると考える。特に、サカタ製作所は、業務の効率化により残業時間を大幅に減らすこともできたという。休みやすい体制づくりは、仕事と疾病の治療や不妊治療等との両立にも役立つ。

2.育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化

 法改正により、公表義務の対象の範囲が広がるため、常時雇用する労働者数が300人超の事業主は注意が必要である。
 なお、自社に公表義務があるか、公表義務の対象となっている事項かにかかわらず、企業として積極的に推進しているという情報(例えば、男性の育児休業取得の数値だけでなく、育児休業取得者やその上司の経験談など)を発信すると、若手人材の獲得にも資する。

3.介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等

 介護は、突然の事故や病気の判明によって必要になる場合もあり、いつ直面するのか予想できない。従業員が予期せず介護に直面した場合、どのような制度を利用できるのか十分に認識しておらず、周りにも打ち明けられずに抱え込み、退職してしまうというケースもある。そのため、企業としては、早期に、両立支援制度等に関する情報提供をすることが重要である。
 そして、介護はいつまで続くか分からないものであり、自ら介護を背負い込んで休業を長く続けると職場復帰が難しくなる。従業員は、介護休業を、仕事と介護の両立の準備(社内の両立支援制度の確認、介護認定の申請、介護施設の見学など)をするために活用すべきである。そして、介護サービスを利用したり、フレックスタイム勤務や在宅勤務など休業以外の方法を取り入れたりして、仕事と両立できるかを、従業員・企業ともに積極的に検討する必要がある。これは、自宅での子の養育を想定する育児休業とは異なる。ぜひこのようなことも含めて情報提供をしてほしい。

4.最後に

 改正法施行に備えて、制度を変更するだけでなく利用しやすくすることも必要となる。上記に挙げたような障壁をなくす工夫をしたり、丁寧に情報提供をしたりすることで、制度を利用する者・周囲の者が互いに気持ちよく過ごせる環境を整えるべきである。育児・介護との両立を含めた多様な働き方を推進するトップメッセージを発信して、従業員の意識を一新することも一つの方法だろう。この機会に、今一度社内を振り返ってみていただきたい。