津田恵子 つだ けいこ
Happiness insight合同会社 CEO/ベンチャー採用コンサルタント
前回は、人事部門の仕事である「運用」パートを中心に、活用の仕方を紹介した。
本連載の第1回で触れたとおり、人事業務には運用のほかにも、戦略・企画という、いわゆる「人事企画」の領域がある。この分野で有効活用できれば、ChatGPTをビジネスパートナーとしてより良い人事施策を行うことが可能になるだろう。
[図表]人事業務と生成AIの活用(第1回[図表2]より再掲)
1.人事戦略領域における活用事例
[1]経営戦略と連動した人事戦略の立案
経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」(2022年5月)でも言及されているとおり、人的資本開示の潮流の中、経営戦略と人事戦略の連動は “一丁目一番地” とも言える重要な視点である。経験を積んだ人事企画の担当者であっても、生成AIとの対話を通じて、これまで持っていなかった他の視点を取り入れることが可能だ。
ここでは、海外売上比率の上昇と新規事業開発の2点で、人事戦略立案の方向性を尋ねてみた。
●プロンプト(入力)
あなたは人事企画担当者です。
次の経営戦略の内容を踏まえて、これに連動する人事戦略立案のポイントについて考えて下さい。
経営戦略は次の通りです。
・今後3年間で海外売上比率を国内売上比率より増やす
・1億円規模の新規事業を開発
●出力
人事戦略を検討する上で、採用や育成については考えが及んでも、人事のみでは事業そのものへ寄与するアプローチの視点が欠けてしまうこともある。例えば、ここで出力された「現地市場の理解と適応」というグローバルマーケット理解のための施策というのは、良い示唆であると思われる。
また、新規事業開発についても、ここではプロジェクトマネジメントの視点で「アジャイル開発」のアイデアが出てきている。こうした視点を持って、現場の部長クラスやプロジェクトマネジャーと会話をすることで、論点を創出し、人事戦略をブラッシュアップしていくことができるだろう。
ここで生成された人事戦略のポイントについて、さらに深掘りできる点は、ChatGPTの強みでもある。「現地市場の理解と適応」や「アジャイル開発」に取り組む上で具体的にどういったアクションが考えられるかなど、追加でプロンプトを入力することで、回答内容の精度が向上し、より実務に活用できる視点が得られるはずだ。
[2]最適な組織づくりの提案
大手企業の人事担当者であれば「自身のチームづくり」について、また、スタートアップやベンチャー企業の担当者であれば「会社全体の組織づくり」について悩んでいる方も多いだろう。私は、ベンチャー採用コンサルタントとして、従業員10名規模から30名規模に組織を拡大するフェーズの採用支援を行っている。その分野についても生成AIに質問をしてみた。
●プロンプト(入力)
私の会社は、10名のベンチャー企業です。
これから、30名の規模にしていくための組織づくりについて考えて下さい。
●出力
私自身は2019年に創業し、ここまで数十社の支援を経てこうした組織づくりのナレッジを蓄積してきているが、顧客への提案内容として、以下のような新しい視点も見つけることができた。
① 組織づくりにおける、社内コミュニケーションという視点から、情報共有を推進するための仕組みを考えたり、フィードバックカルチャーを醸成したりするなど、今までにない施策案を考えることができるようになった
① また、ミッション・ビジョン・バリューの浸透についても、30名までの組織拡大フェーズにおいて重要であることが改めて理解できた
上記を参考に、ぜひ自身・自社のチーム・組織の規模に合わせたプロンプトで試してほしい。ChatGPTは、同じチャット内であれば既に入力したプロンプトの内容や出力結果を踏まえた回答を生成してくれるので、ここで提示された個別の内容(例えばオンボーディングの強化の具体策など)について、さらに対話を重ねるとよいだろう。
2.人事企画領域における活用事例
[1]1on1の内容を基にした人材育成方針のアイデア出し
昨今は、マネジャーとメンバーで1on1を実施することが一般的になり、読者の中にも1on1対応をされている方がいるだろう。その際、1on1の内容をメモに残すケースも多いと思われる。そのメモの内容から、個人にフォーカスした育成方針を考えてみることにした。
●プロンプト(入力)
あなたは人材育成の責任者です。
従業員との1on1メモを読んで、最適な人材育成方針を考えて下さい。
1on1メモは以下の通りです。
・入社3年目、仕事にもかなり慣れてきた。一通りのことは自分の判断でできるようになり、後輩もできて業務を教えることもできている。
・大学時代の同期と飲みにいくと、すでに役職についている者がいたり、グローバルな仕事をしていたり、少し焦ってしまう。
・残業も少なく今の環境は悪くないが、もっと成長できる仕事を求めて自分で提案した方がいいのかと思うこともある。
●出力
[2]出力結果の活用
出力結果は、メンバーの育成方針として、次回の1on1を実施する前に、チェックリストのような形で運用することも可能だ。なお、チェックリストの草案を生成AIに作成してもらうと、より効率的である。
3.まとめ
生成AIが出力する内容は、必ずしも正しいとは限らない。それゆえに、さまざまな答えがある人事企画分野について、「論点出し」や「新しい視点の入手」という観点で活用してみるのがよいだろう。
次回は最終回として、生成AIの今後の技術トレンドと、新しく人事領域でできることについて考察する。
津田恵子 つだ けいこ Happiness insight合同会社 CEO/ベンチャー採用コンサルタント 岐阜県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、2002年より株式会社リクルートスタッフィングにて人事採用業務に従事。2004年より伊藤忠人事総務サービス株式会社にて、グループ会社向け採用アウトソーシングや伊藤忠商事向け研修企画・運営に従事。 2019年9月に独立し、「一人ひとりの能力が活きる社会を実現する」をビジョンにHappiness insightを創業。企業における採用活動支援では、2022年の面接実績は350名、ダイレクトリクルーティングに関しては、複業クラウド、LinkedIn(リンクトイン)、LabBase、Wantedly、アサインナビ、キミスカなど対象別にプラットフォームを使い分けて実績を出す。その他リカレント教育普及やRPO(採用代行)を通して、働き方に悩んだ自身の経験を活かし、人々の幸せな働き方を支援している。 2023年3月、早稲田大学大学院経営管理研究科修了・MBA取得。ベンチャー稲門会会員。プライベートは三児(中3・小6・5歳)の母。生成AIプロダクト「Crew」を提供する株式会社クラフターでは、2023年3月より人事を担当している。生成AIに関する資格「生成AIパスポート」取得。 |