2024年06月27日掲載

キャリアコンサルティング―押さえておきたい関連情報 - 第19回 就業場所・業務の変更の範囲の明示とキャリア ~改正労働基準法施行規則、改正職業安定法施行規則~

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学
事業創造研究科教授

1.はじめに

 2024(令和6)年4月1日から、労働契約を締結したり、更新したりするときや、労働者を募集したり、職業紹介事業者に求人申し込みをするときに明示しなければならない労働条件が追加された。就業場所の変更の範囲、新たに従事すべき業務の変更の範囲、さらに有期契約労働者には、有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間または更新回数の上限を含む)について明示しなければならなくなったのである。
 法制度が変わったとなると、企業としては、まず、どうすれば問題なく対応できるかが気になるが、新たに明示することとなった項目は、近年、注目されるようになった「ジョブ(職務)」や働きやすさと関わりが深い。労働者のキャリアや働く場としての企業の魅力とも大いに関わるものである。
 今回は、労働条件明示ルールの変更の経緯や、具体的な内容などを紹介した上で、新たなルールは、企業の人事パーソンやキャリアコンサルタントから見て、どのようなものであるか、また、これを活かしていくことができるのかなどについて考えてみたい。

2.労働条件明示ルールの変更の背景

 労働条件明示ルールの変更は、2022(令和4)年12月27日に厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会労働条件分科会(分科会長:荒木尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授)が取りまとめた「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を受けたものである。
 同報告は、無期転換ルールに関する見直しと多様な正社員の雇用ルールの明確化や、今後の労働時間法制の在り方に関して議論した結果を取りまとめたものである。このため、無期転換ルールや裁量労働制についての記載が多いが、労働契約関係の明確化についても記載されている。
 この報告を踏まえ、検討がなされ、労働基準法施行規則、職業安定法施行規則などが改正され、2024年4月1日から施行されている

※2023(令和5)年3月30日に「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令」が、2023年6月28日に「職業安定法施行規則の一部を改正する省令」が公布され、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)、職業安定法施行規則(昭和22年労働省令第12号)、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号)が改正され、それぞれ2024年4月1日から施行されている。

3.新たな労働条件明示ルールの具体的内容

 新たな労働条件明示ルールについて見ていこう。
 まず、労働基準法施行規則の改正により、2024年4月1日から、次の明示事項が追加された。

①すべての労働者について、すべての労働契約の締結時と有期労働契約の更新のタイミングごとに、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲についても明示することが必要となった

②有期契約労働者について、有期労働契約の締結時と更新時に、更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容が、また、無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約更新時に、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)と無期転換後の労働条件について明示することが必要となった

 同じように、職業安定法施行規則の改正によって、2024年4月1日から、企業が労働者の募集を行う場合や職業紹介事業者が職業紹介を行う場合に、求職者等に対して、①就業場所および従事すべき業務の変更の範囲、②有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項を明示しなければならなくなった。
 雇い入れ時はもちろん、募集の段階から、新たに将来の配置転換などによって変わる可能性のある就業場所・業務の範囲について明示することが必要となったのである。

[図表]求人企業が募集時などに最低限明示しなければならない労働条件

図表

資料出所:厚生労働省「2024(令和6)年4月1日施行 改正職業安定法施行規則 募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!」

4.就業場所・業務の変更の範囲をどこまで明示すればよいのか

 就業場所や従事すべき業務の変更の範囲については、今後の見込みも含め、その労働契約の期間中における就業場所や従事する業務の範囲について記載されていればよいとされている。明示する時点で想定され得る事業の方針変更などを踏まえたものであればよく、具体的に想定されていないものまで考える必要はない。
 これに関しては、限定的に書くとトラブルを招く可能性があるため、広めに書いておくほうが安全だといった考え方もある。厚生労働省が示す例を見てみると、「当社業務全般」「本社および全国の支社、営業所」などと記載されている。かなり広めの書き方といってよいだろう。
 例として挙げられているものでもあり、この書き方でよいわけだが、将来の就業場所や業務の変更に関して、新たに記載されるようになったことにより、改めて将来どうなるのか考えるようになる可能性もありそうだ。就業場所や業務の範囲は、働き方や仕事の内容そのものに関わるものであり、これらを重視する労働者、求職者は増えている。

 いずれにしても、示す側の企業、示される側の労働者とも、従前に比べ、雇い入れの段階や募集の段階から、将来のキャリアについて意識することは増えるだろう。
 新たな明示ルールは、2024年4月1日以降に締結される労働契約について適用される。既に雇用されている労働者に対して、改めて労働条件を明示する必要はない。しかし、募集段階や雇い入れ段階から明示されるようになれば、既に雇用されている労働者の中にも、就業場所や業務の変更の範囲をより意識するようになる者が出てくる可能性もある。

5.おわりに

 変更の範囲についてどう書くか、どこまで書くべきか、企業にとって悩ましいところだが、労働者や求職者の側から見ると、変更の範囲の明示は、将来のキャリアについて考えることにつながる。
 社会の変化が激しくなる中で、働く側は、キャリアについて主体的に考えることが求められるようになってきている。将来のキャリアは、そもそも労働者や求職者にとって関心の高い事項であり、「ジョブ(職務)」や働きやすさへの関心も高まっている。どんな仕事ができるか、その企業で自分は成長できるのかといった観点で、求人情報を見る求職者も増えている。働く側が具体的なキャリアパスをイメージできるものを示すチャンスだという言い方もできる。
 労働力供給が制約されるようになる中、企業には人材確保のために求職者が求める情報を適切に提供していくことが求められるようになっている。また、上場企業等に人的資本情報開示が義務づけられるようになったこともあり、情報提供に力を入れるようになった企業も多い。
 企業の人事パーソン、キャリアコンサルタントの方に、労働者、求職者とキャリアについての考えを問い、確認し、擦り合わせる機会につながるものと捉えていただけたらと思う。

【参考文献】

・厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」

・厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」

・厚生労働省(2022)「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学 事業創造研究科教授
厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。
社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリアデザイン学会専務理事、人材育成学会常務理事、国際戦略経営研究学会理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。
筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科兼任講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師、成蹊大学非常勤講師など。
専門は、人的資源管理論、キャリア論

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