2024年06月28日掲載

Point of view - 第255回 羽田啓一郎―令和の学生像を踏まえて考える、新卒採用が苦戦する理由

羽田啓一郎 はた けいいちろう
株式会社Strobolights 代表取締役

立命館大学文学部卒業後、株式会社毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)に就職。大手企業の新卒採用営業や「マイナビキャリア甲子園」などの学生向けキャリア教育サービスの新規立ち上げを担当。2020年に独立起業し、学生向けコミュニティーや学生ビジコンなどの運営を通して学生のインサイトを吸収し、企業の新卒採用支援に活かしている。立命館大学産業社会学部客員教授、武蔵野大学非常勤講師、一般社団法人プロティアン・キャリア協会認定ファシリテーター。

 コロナ禍以降、企業の新卒採用の難易度が増している。母集団形成や選考における歩留まり、内定辞退など、頭を悩ませる採用担当者も多いようだ。
 この問題は非常に多様かつ複雑だが、令和の学生像に対する企業の理解不足が一因であり、現在の学生に即していない施策に労力をかけていることも多い。企業の新卒採用支援と学生のキャリア支援を行っている私の立場から、「学生認知度の低い企業はどうするべきか」について、定量的なデータでは分からない学生の本音を交えて考えたい。

学生はナビサイトだけではエントリーしない

 学生認知度が最初から高い企業はさておき、そうではない企業ではナビサイトからのエントリーが減少しているようだ。インターンシップの実施状況やナビサイトのオプションにも左右されるが、学生の行動パターンから言えるのは「一つの情報源で判断しなくなっている」ことである。
 われわれ大人も旅行先や高額な買い物を検討する際に、複数のサイトを参照するなどして総合的に判断する。デジタルネイティブ世代である現代の学生も、ナビサイトで見つけた企業にすぐにエントリーすることは少ない。まずは企業の採用ホームページにアクセスする一方、フリーワードでその企業名を検索してヒットする記事をチェックする。その上で良さそうだと感じるとブックマークやエントリーをするのである。
 これを踏まえると、学生認知度の低い企業は、まず自社の新卒採用サイトの改善を図るべきである。何かしら学生の目を引く点がないと、ナビサイトからアクセスしてもらえたとしてもエントリーにはつながらない。現状、制作会社や人事担当者の感覚だけで作られた採用サイトは本当に多い。学生の視点を取り入れることで、より効果的なサイト作りが可能である。私が支援している企業では、学生に自社の採用サイトや会社説明会をレビューしてもらい、改善点を洗い出してブラッシュアップにつなげている。

意欲的な学生は福利厚生をそこまで重視していない

 福利厚生やワーク・ライフ・バランスを気にする学生は多いという考察もあるが、私の経験では必ずしもそうではない。意欲的な学生はまず「どのようなビジネスをしている企業なのか」「その中で自分はどのような仕事で、どのようなキャリアを歩むのか」を知りたがる。
 言われてみれば当たり前のことだが、これを明示できていない企業は意外と多い。事業内容の説明があっさりしていたり、仕事紹介も抽象的な内容にとどまっていたりする。極端な例では、採用サイトを開くといきなり福利厚生の充実ぶりが押し出されていることもあった。
 2024年卒の学生に話を聞くと、こんな声が寄せられた。
 「学生は働く場所を探すために就活をしているのに、何の仕事をするのかを説明してくれない企業は意外と多いです」
 「確かに福利厚生面はチェックしますが、それは最終面接が近づき入社が現実的になってきたらです。そのほかは確認するにしても残業代の支払われ方や有給取得率くらいで、そもそも福利厚生制度の中身は実はそんなに知らない。だから制度名だけ並べられてもあまり分からないです」
 福利厚生は大切だ。ただ、条件が良くても入社後に何をするのかイメージできない企業にエントリーしようと思わないのは、われわれ大人も同じはずだ。

SDGsへの関心は本当に高いのか?

 学生が関心を持っていると思ってSDGsへの取り組みを強調する企業も多いが、SDGsについて、就職先選びに影響するほど高い関心を持つ学生はそれほど多くない。授業でSDGsを学んでいるので知識は持っているが、それが必ずしも関心の高さにつながるわけではないのだ。
 この点、「学生は面接のとき、SDGsについて関心が高そうに見えるが?」と思われる方もいるかもしれない。ところが実際、学生に聞いてみると「企業がSDGsについてアピールしているので、それに合わせたほうがいいのかと思って……」などと返ってくる。
 お互いが “相手は関心があるのでは” と思い込んで起こるコミュニケーション不和。新卒採用マーケットではこういうことがよくある。

社風や社員の魅力を具体的に伝える

 多くの企業が「社風が良い」「入社の決め手は人」と強調するが、具体的な説明が不足している。自社の社風を分かりやすく、学生がイメージできるように伝えるためには、社員のエピソードや事例を交えて話すことが重要である。
 学生は何十社も企業の説明を聞くわけで、その都度「社風が良い」「入社の決め手は人」とアピールされる。こうなると学生側からすれば違いが分からない。参考までに、学生が認知する “社風” を六つのカテゴリで示したものが、[図表]である。これは、私が20人の学生にヒアリングした結果を分類したものだ。

[図表]学生が識別できる “社風” のカテゴリ

図表

 大枠として、学生はこのようなカテゴリで認知して自分との合致度を感覚的に判断している。
 したがって「自社にはどのような社員が多いか」くらいは言語化しておきたい。

資料出所:20人の学生へのヒアリング結果を基に筆者作成

 貴社はどうだろうか。自社の社風を学生が認識しやすい言葉に落とし込み、それを具体的に表現できる社員のエピソードを語ってほしい。ナビサイトや採用サイトでの社員インタビューがあっさりし過ぎていて、何も伝わってこないものが多いと感じる。具体的なエピソードがないと伝わらないのは、学生も企業も同じなのだ。
 令和の学生は以前の学生とは全く異なる感覚や行動規範を持っている。学生の目線に立ってその声に耳を傾ければ、予算をかけずとも改善できることはあるはずだ。ぜひ参考にしていただきたい。