2024年07月10日掲載

採用担当者のための最新情報&実務チェックポイント - 2024年7月

ProFuture株式会社/HR総研
代表 寺澤康介

(調査・編集:主席研究員 松岡 仁)

 ProFuture代表の寺澤です。
 テーマパークなどで発行されている「プライオリティ・パス」についてご存じでしょうか。所持しているとアトラクションや施設の利用に際し、一般の来場者とは別のレーンで優先的に案内され、待ち時間を大幅に短縮できるサービスです。最近、就職・採用活動でも「プライオリティ・パス」という言葉を耳にする機会が増えています。これは、新卒採用時に自社の内定を辞退した学生に対して、数年後に転職応募があった場合、特定の期間内であれば(1次面接から始まる通常の選考ステップを省略して)いきなり最終面接からスタートできる特典を付与するものです。かつてワークスアプリケーションズが、自社の課題解決型インターンシップで優秀な成績を収めた参加者に発行していた「入社パス」(入社までに5年間または3年間の猶予期間を付与)がその起源とも言われています。
 上記のとおり、このプライオリティ・パスにおいて、内定を辞退してから再応募するまでの期間は、留学や進学だけでなく、一度他社に就職している場合も含みます。自社の退職者を再び採用する「リターン雇用」「カムバック採用」が広がりを見せる中、入社前の内定者もその予備軍とする考え方です。プライオリティ・パスの有効期間は一般的に3年以内とされており、名称を「内定3年保証制度」とする企業もあります。3年以内とするのは、新卒採用の枠組みではポテンシャル重視のため、おおむね「新卒」として扱える3年が最長と考えられているからです。それ以上の期間が経過すると、経験やスキルを重視するキャリア採用に移行するため、最終面接のみで選考判断することは難しくなるという事情があります。
 これまでよく見られた “圧力” による内定者の囲い込みは、今やすぐに「オワハラ」と呼ばれて非難されますが、この新たな “緩い” 囲い込みの手法は企業だけでなく学生にとってもメリットが大きく、歓迎されるでしょう。優秀な人材との “縁” を少しでも保ちたい企業などは、導入を検討してもよいかもしれません。コストはゼロです。

中小企業の4割以上が「振り返り」を行っていない現状

 さて、今回は、HR総研が人事採用担当者を対象に実施した「2025年&2026年新卒採用動向調査(6月)」(調査期間:2024年6月3~14日)の結果を紹介します。ぜひ参考にしてください。
 今回の調査では、従来とは異なる角度から質問を設計しました。まず、次年度の新卒採用活動を始めるに当たって、これまでの採用活動の振り返りがどの程度実施できているのかを尋ねています。
 2024年卒採用までの振り返りによる課題抽出を実施しているかについて、全体では70%が「実施した」と回答しています[図表1]。しかし、従業員規模別に見ると、「実施した」割合は、1001名以上の大企業では85%と高い一方で、301~1000名の中堅企業では73%、300名以下の中小企業では58%と、規模が小さくなるほど課題抽出を実施している割合が低くなっています。中小企業では4割以上が前回までの振り返りを行わず、前年踏襲で次年度の採用活動に突入している様子がうかがえます。

[図表1]2024年卒採用までの振り返りによる課題抽出の実施状況

図表1

資料出所:HR総研「2025年&2026年新卒採用動向調査(6月)」(2024年6月)([図表2~10]も同じ)

 近年の新卒採用活動では、大学3年時の6月1日にインターンシップ情報を掲載した就職ナビがプレサイトとしてオープンします。この時点で情報が掲載されているためには、それよりも前に自社のインターンシップ内容や担当者、会場等の計画を進めるとともに、就職ナビの発注手続きを済ませておく必要があります。つまり、入社の2年前には採用活動がスタートしているわけです。このタイミングだと前年度の採用活動は終了しているどころか、多くの企業では面接選考の真っ最中です。就活ルールを遵守していたり、あえて遅めに選考活動を設定したりしている企業においては、前年度の採用面接すら始まっていないタイミングであり、「振り返りを実施したくても、その前に次の採用活動がスタートしている」のが実情でしょう。中小企業の4割以上が振り返りを実施できていないとしても、致し方ない部分はありそうです。ただ、せめて翌々年度には生かせるよう、ぜひ振り返り自体は実施してほしいところです。

 では、振り返りにはどの程度の時間をかけているのでしょうか。振り返りを「実施した」と回答した企業を対象に、振り返りに要した時間を聞いたところ、全体で最も多かったのは「4~10時間未満」で32%、次いで「2~4時間未満」が26%でした[図表2]。「10~15時間未満」と「15時間以上」を合わせた “10時間以上” は19%と2割以下にとどまっています。

[図表2]振り返りに要した時間

図表2

 規模別に見ると、大企業では「2~4時間未満」が30%で最多となっているものの、「2時間未満」は12%しかなく、逆に “10時間以上” は36%となるなど、他の規模よりも時間をかけて振り返りをしている割合が高くなっています。中堅企業では「4~10時間未満」が46%と半数近くを占めるものの、“10時間以上” は8%と1割に達しません。中小企業では “10時間以上” はさらに低く7%にとどまり、最多は「2時間未満」と「4~10時間未満」がともに33%で並ぶ結果となっています。規模が小さいほど、振り返りにかけられる時間が少ないのが実情のようです。

大企業では「採用数の根拠・キャリア採用との配分」がテーマに

 振り返り内容について複数回答で尋ねたところ、大企業では「採用数の根拠・キャリア採用との配分」が52%で最多であり、半数以上を占めています[図表3]。次いで「母集団形成」(45%)と「採用媒体・手法」(42%)の2項目が4割以上を占め、比較的高い割合となっています。一方、中堅企業と中小企業では、「採用数の根拠・キャリア採用との配分」はそれぞれ25%、20%と大企業の半分以下にとどまっています。労働施策総合推進法等の一部改正に伴い、常時雇用する労働者が301人以上の企業に対して、2021年4月から中途採用比率の公表が義務化されたものの、公表しなかった場合の罰則規定は定められておらず、大企業と比べて中堅企業では公表が進んでいるとは言い難い状況です。大企業においては、当初は公表しないことが社会や求職者にネガティブに受け止められるのではないかとの懸念から公表に踏み切ったところもあります。しかし、折からのDX化推進の波や事業構造変革の動きの中で、既存社員でカバーできないスキル・知識を持った人材を外部から獲得することが求められ、中途採用比率の公表義務化の時期とちょうどタイミングが合致しました。採用について、かつてはほぼ新卒に限定していた企業でも、年間の採用計画で新卒採用と中途採用の割合を同程度にするケースが増えています。

[図表3]振り返りの内容(複数回答)

図表3

 中堅企業で最も多かった振り返り内容は、「母集団形成」で71%、「採用媒体・手法」も67%と高い割合を占めています。その他、「各選考フローの遷移率」(50%)、「内定者フォロー」(42%)も4割以上となっています。
 中小企業では、「採用媒体・手法」(53%)が半数以上で最も多く、次いで「ターゲット層の見直し」(43%)、「母集団形成」(40%)が4割以上となっています。「母集団形成」と「採用媒体・手法」は、規模に関係なく振り返りの内容として重要視されていることが分かります。

中小ではKPIの定量評価を行わない企業が多い

 振り返りの方法についても見てみましょう。複数回答で尋ねたところ、大企業では「KPIの定量評価を基に、新卒採用の担当者間で意見交換」が42%で最も多く、次いで「事前に設定したKPIの数値で現状把握・定量評価」が33%となっています[図表4]。一方、中堅企業と中小企業では、「KPIの定量評価を基に、新卒採用の担当者間で意見交換」はそれぞれ29%、27%であり、それに代わって中堅企業では「振り返り報告資料の作成」(46%)が最も多くなっています。KPIの定量評価に基づいて振り返りを行う企業は規模が小さいほど少なくなり、中小企業では「KPIの定量評価は使わず(実施せず)、新卒採用の担当者間で意見交換」(40%)が最多で、他の規模を十数ポイント上回っています。また、中小企業では「外部パートナー(営業等)との意見交換」が23%と、大企業の9%、中堅企業の8%に比べて比較的高い割合となっています。これは、新卒採用担当者が1人しかおらず社内での意見交換が難しいケースなど、外部パートナーから知見等を得ることが必要になるためでしょう。

[図表4]振り返りの方法(複数回答)

図表4

 次に、定量評価したKPIはどのようなものかを聞きました(複数回答)。最も多かったのは「選考辞退率」と「内定数・内定率」で60%、次いで「セミナー・会社説明会参加者数・参加率」(55%)、「内定承諾数・内定承諾率(内定辞退率)」(53%)、「エントリー数・エントリー率」(50%)も半数以上となっています[図表5]。気になるのは、「前年または数年前までの新入社員の定着率」が13%しかないことです。新入社員の定着率には、配属先の上司や仕事内容との相性も関係しますが、採用時のミスマッチがなかったのかの検証が求められます。新卒採用は入社をゴールとするのではなく、入社後の少なくとも3年間程度はフォローすべきです。仮に、求める人材につき計画どおりの人数を採用できたとしても、入社後3年以内に辞めてしまう、または期待したパフォーマンスを発揮できない場合、企業の持続的成長は厳しく、採用が成功したとはいえません。採用後に期待どおりの活躍をしてもらうためには、採用と育成をより連携させる必要があります。経営計画に合わせて、採用計画の段階から入社後の人材育成プランまで考え、一貫性のある取り組みを目指したいものです。

[図表5]定量評価したKPI(複数回答)

図表5

振り返りにKPIの定量評価は不可欠

 2024年卒採用の振り返りを実施した企業を対象に、2025年卒採用において振り返りの効果があったかを確認しておきます。大企業で「十分に効果が出ている」と回答した割合は6%にとどまりますが、61%が「ある程度効果が出ている」と感じており、両者を合わせた “効果が出ている” 企業は7割近くとなっています[図表6]。これに対して、中堅企業と中小企業で “効果が出ている” と回答した割合はそれぞれ25%、33%と、大企業を大きく下回っています。上記[図表4]で、「KPIの定量評価を基に、新卒採用の担当者間で意見交換」または「事前に設定したKPIの数値で現状把握・定量評価」と回答した企業では、“効果が出ている” と回答した割合が67%と3分の2に及ぶのに対して、“効果が出ていない” (「あまり効果が出ていない」と「全く効果が出ていない」の合計)はわずか7%です(図表なし)。振り返りには、KPIの定量評価は欠かせないといえるでしょう。

[図表6]2025年卒採用における振り返りの効果

図表6

 振り返りの中で出てきた新卒採用の課題について寄せられたフリーコメントを、以下に抜粋して紹介します。

従業員規模 業  種 課題等
大企業
(1001名以上)
サービス 離職率が高い
サービス 自社の魅力の発揮
中堅企業
(301~1000名)
メーカー 一昔前と比べて、学生が早い段階で挑戦する企業を絞り込んでいることを実感したため、「自社としてあるべき」業界研究会セミナーを構築しなければならない
メーカー 地方エリア職の内定承諾が得られない。会社説明会から書類選考への動員率が低い
商社・流通 就職戦線は超売り手市場で、ますます競争が激化している。人材確保のために全社一丸となってこの課題に取り組まなければ採用が難しい
運輸・倉庫 振り返りを行っても実際の施策につなげられていない
サービス 従来の公募掲載型の採用の限界を感じており、オファー型にシフトしたが実績が伴わなかった
中小企業
(300名以下)
メーカー 2024年卒クローズと2025年卒キックオフの間隔がなく、振り返りの時間が取れない
メーカー 予算がない中で活動しており、思うような活動ができていない
メーカー 社内の知見が不足しており、振り返りの観点が不十分と感じる
建設 採用担当者の能力だけで解決できない難しさがあることが判明した。採用候補者とのコミュニケーションの在り方を見直し、ブランディングを強化したい
建設 設備設計業界そのものの認知度が低い
建設 秋以降の学生との接触の難しさと母集団形成
商社・流通 学生が複数内定を得ているため、着地が読みにくい
通信・ソフトウエア 過去10年にわたり同一の適性テストを実施し、基準を変えていないにもかかわらず通過率が下がっている

ターゲット層の確保、中小企業の4分の1が “目標の1割未満” にとどまる

 2025年卒採用から新しく始めた施策をフリーコメントで回答してもらったところ、「早期選考」「対面型」「動画」などのワードが散見されました。こちらも抜粋して紹介します。

従業員規模 業  種 施策内容
中堅企業
(301~1000名)
メーカー 対面形式のオープン・カンパニー
メーカー ダイレクトリクルーティング、面接官説明会、本社見学ツアー、選考前の電話連絡
メーカー Instagramの活用
商社・流通 早期選考の実施
サービス 自社で職場の雰囲気が分かる動画を作成
サービス 基本は対面型を目指していくが、遠隔地の学生等についてはオンラインを継続
中小企業
(300名以下)
メーカー 採用ピッチ資料(応募者に向けた会社説明資料)の制作
メーカー 留学生採用イベントへの参加
建設 早期選考の実施
建設 Zoomの活用と社長紹介動画の活用
建設 社長紹介の動画を撮影・配信
通信・ソフトウエア 大学との関係強化

 続いて、具体的な採用活動の状況について確認します。
 まず、6月初旬現在におけるターゲット層の応募者充足率(目標人数に対する割合)を尋ねたところ、「100%以上」と回答したのは全体で10%にとどまり、最多は「50~80%未満」の29%でした[図表7]。僅差で「80~100%未満」が28%で続き、これら3項目を合計した “50%以上” が67%と3分の2程度となっています。

[図表7]6月初旬現在のターゲット層の応募者充足率(目標人数に対する割合)

図表7

 規模別に見ると、大企業では「100%以上」と回答したのは全体と同じ10%にとどまりますが、最多は「80~100%未満」で46%と半数近くに上り、“50%以上” は84%で8割以上となっています。中堅企業では “50%以上” は63%と全体とおおむね同割合ですが、そのうち「50~80%未満」が36%となっています。中小企業になると、“50%以上” はさらに低い56%で、「0~10%未満」が25%と4社に1社となるなど、母集団形成(応募者の獲得)に苦戦している様子がうかがえます。

リクルーターや内定者を活用する大企業

 さて、ターゲット層を採用するために、企業はどんな施策に注力しているのでしょうか。複数回答で尋ねたところ、大企業では「インターンシップの活用」が59%で最も多く、次いで「先輩・リクルーターの活用」も41%と4割以上となっています[図表8]。中堅企業と中小企業でも最多は「インターンシップの活用」ですが、それぞれ39%、31%と大企業とは大きな開きがあります。また、大企業で2番目に注力している「先輩・リクルーターの活用」は、中堅企業15%、中小企業17%と2割にも満たない状況で、大企業とは異なる傾向が見られます。その代わり、「キャリアセンター・就職部訪問」は中堅企業36%、中小企業31%となっており、ともに大企業の28%を上回る結果となっています。中堅企業では「大学主催の学内セミナー」が33%と3割台となっており、中小企業でも23%と、大企業の10%を大きく上回っています。その他、「逆求人サイト」と回答した割合も、大企業の5%に対して中堅企業18%、中小企業13%と高い割合を示しています。

[図表8]ターゲット層採用のために実施した施策(複数回答)

図表8

 逆に、「内定者の活用」は大企業の28%に対して、中堅企業は12%、中小企業に至ってはわずか2%にとどまります。「先輩・リクルーター」や「内定者」の活用は、大企業において相対的に重要な施策となっているものの、中堅・中小企業ではうまく活用できていないことがうかがえます。

 では、[図表8]で見てきた施策の中で、ターゲット層採用のために最も効果があったものは何だったのでしょうか。同様に複数回答で尋ねたところ、最も多いのは規模を問わず「インターンシップの活用」で、大企業の33%、中堅企業の23%、中小企業の18%が評価しています[図表9]。ただし、規模が小さくなるほど、評価の割合は低くなっています。

[図表9]ターゲット層採用のために最も効果的だった施策(複数回答)

図表9

 その他、比較的効果があったと認められた施策は、大企業では「先輩・リクルーターの活用」(19%)、「内定者の活用」(11%)、中堅企業では「逆求人サイト」(15%)、「キャリアセンター・就職部訪問」「大学主催の学内セミナー」(ともに12%)です。中小企業においても「キャリアセンター・就職部訪問」は16%と評価されており、最も多い「インターンシップの活用」とわずか2ポイント差となっています。中堅企業で評価の高い「逆求人サイト」「大学主催の学内セミナー」については、中小企業では1割に満たないものの、ともに9%と比較的評価を得ているといえます。また、「研究室訪問」も同じく9%で、中小企業では大学を活用した施策がある程度効果を上げていることがうかがえます。

「福利厚生」「初任給」の説明が少ない大企業

 各企業が個別に開催するセミナー・会社説明会の内容を尋ねたところ(複数回答)、大企業と中小企業では「経営方針やビジョン、パーパス」が最多で、それぞれ59%、58%が取り上げています[図表10]。中堅企業でも54%と半数以上が取り上げているものの、「業界・事業の現状」が75%で最も多くなっているほか、「福利厚生」「採用情報の説明(募集要項の関連事項)」(ともに64%)、「社風や社内の雰囲気」(57%)など、「経営方針やビジョン、パーパス」を上回る項目が目立ちます。また、「初任給・給与体系・評価制度」も「経営方針やビジョン、パーパス」と同じ54%となっています。

[図表10]自社セミナー・説明会の内容(複数回答)

図表10

 大企業では、「経営方針やビジョン、パーパス」に次いで、「入社後のキャリアパス」と「人材育成の体系」(ともに46%)、「人事制度」(44%)が多くなっています。一方、「福利厚生」は31%、「社風や社内の雰囲気」は28%、「初任給・給与体系・評価制度」は23%と、いずれも中堅企業の半分程度の割合にとどまっています。
 中小企業は、「福利厚生」(53%)、「社風や社内の雰囲気」「初任給・給与体系・評価制度」(ともに49%)など、おおむね中堅企業と似た傾向を示しています。

最終面接の実施は大企業で “オンライン派” が減少

 次に、面接の実施形式について、前年同時期の「2024年&2025年新卒採用動向調査(6月)」(以下、前回調査)との比較で見てみましょう。コロナ禍で大企業を中心に多くの企業が対面形式からオンライン形式へと大きくシフト(一次面接の場合、大企業・中堅企業ではオンライン形式がメイン)しましたが、人材の見極めや入社動機醸成の難しさから、最近では対面形式へ回帰する企業が増えてきています。2025年卒採用ではどうだったのでしょうか。
 まず、一次面接の実施形式からです。大企業では、「オンライン形式のみ」が2024年卒の29%から15%へとほぼ半減しました[図表11]。「オンライン形式のみ」と「オンライン形式を主軸に対面形式でも実施」を合わせた “オンライン派” は2024年卒の64%から54%に減少し、「対面形式のみ」と「対面形式を主軸にオンライン形式でも実施」の “対面派” との差は大きく縮まっています(2024年卒:29ポイント、2025年卒:8ポイント)。この調子でいくと、2026年卒採用では “対面派” が “オンライン派” を逆転するかもしれません。中堅企業でも同様の傾向が見られ、“オンライン派” は2024年卒の66%から58%に減少しています。

[図表11]一次面接の実施形式の前年比較

図表11

資料出所:HR総研「2024年&2025年新卒採用動向調査(6月)」(2023年6月)および「2025年&2026年新卒採用動向調査(6月)」(2024年6月)([図表12~13]も同じ)

 一方、中小企業は異なる動きを見せています。もともと “オンライン派” は2024年卒でも33%と少数派でしたが、2025年卒では46%へと13ポイント増加しました。母集団形成に苦戦する中、一次面接の実施形式では参加ハードルの低いオンライン形式を選択することで、一次面接での離脱を防ごうとした企業が増えたと考えられます。世の中の動きと逆行する興味深い状況となっています。

 次に、最終面接の実施形式を見てみましょう。こちらも大企業では “オンライン派” は2024年卒の29%から26%へと減少しています[図表12]。一方の “対面派” は内訳に変化が見られます。「対面形式のみ」は2024年卒の57%から44%に減少する半面、「対面形式を主軸にオンライン形式でも実施」が14%から26%に大きく増加しています。何が何でも全員について対面形式で実施するのではなく、遠方の学生や理系学生(特に辞退率の低い推薦応募学生)など一部については利便性も考慮の上、オンライン形式を併用する企業が増えたものと推測されます。

[図表12]最終面接の実施形式の前年比較

図表12

 一次面接では大企業とほぼ同様の傾向を示した中堅企業ですが、最終面接については少し様子が異なります。「オンライン形式のみ」が2024年卒の13%から一気に0%となるなど、“オンライン派” は22%から6%へと大きく減少しました。代わりに「対面形式のみ」が2024年卒の49%から70%へと20ポイント以上増加しています。「対面形式を主軸にオンライン形式でも実施」ですら8ポイント減少していますので、完全に「対面形式のみ」に(かじ)を切った企業が多いことが分かります。内定後の辞退を抑制するために、最終面接は例外なく「対面形式」にこだわる企業が増えたということでしょう。
 中小企業では、2024年卒でも “対面派” が90%と大半を占めており、それは2025年卒でも同様です。ただし、「対面形式のみ」は2024年卒の82%から75%に減少し、その代わりに「対面形式を主軸にオンライン形式でも実施」が増えています。大企業と同様に、「対面形式」を基本としながらもケース・バイ・ケースで対応する企業が増えたと考えられます。

2024年卒採用より好転している内定者充足率

 最後に、6月初旬時点における採用計画に対する内定者充足率を前回調査(2024年卒)との比較で確認しましょう。大企業では、「100%以上」が2024年卒の5%から8%に、「80~100%未満」が24%から28%にそれぞれ増加しました[図表13]。これらを合わせた “80%以上” は2024年卒の29%から36%に増加しました。中堅企業でも “80%以上” の割合が2024年卒の21%から33%へと10ポイント以上の増加となっています。

[図表13]採用計画に対する内定者充足率の前年比較

図表13

 これまで他の規模と異なる傾向を示すことが多かった中小企業を見ると、“80%以上” の割合は2024年卒と同じ20%ですが、「40~60%未満」が2024年卒の12%から22%へと10ポイント増加する一方、「0%(内定者ゼロ)」が39%から28%へと10ポイント以上減少しています。これにより、充足率の低い割合が減少傾向にあることが分かります。規模にかかわらず、内定者の確保は2024年卒採用より進んでいる様子がうかがえます。ただし、採用活動の早期化に伴い、学生への内定出しも早期化し、複数社から内定を得る学生は前年にも増して多くなっていることから、内定辞退も増える可能性が高いです。今後、内定辞退をいかに抑制できるかが重要であり、学生が入社後の自分をイメージできるさまざまな “従業員体験” を提供するなどして、学生の不安を払拭(ふっしょく)することが求められます。仮に内定者充足率が100%であっても、気を緩めず内定者フォローを継続・拡充していくことが必要です。

寺澤 康介 てらざわ こうすけ
ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長
1986年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。2007年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。
著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。
https://www.hrpro.co.jp/