2024年08月06日掲載

採用担当者のための最新情報&実務チェックポイント - 2024年8月

ProFuture株式会社/HR総研
代表 寺澤康介

(調査・編集:主席研究員 松岡 仁)

 ProFuture代表の寺澤です。
 HR総研では、今年も就活会議株式会社が運営する就活生向けクチコミサイト「就活会議」と共催で、2025年卒採用を実施した企業の新卒採用担当者と2025年卒の就活生を対象として、これまでの採用活動や就職活動を振り返って、それぞれの目線からの印象深いエピソードをテーマにした「2025年卒 採用川柳・短歌」と「2025年卒 就活川柳・短歌」を6~7月に募集しました。
 2020年の新型コロナウイルス感染拡大で一気に採用活動におけるオンライン化が進みましたが、その利便性は認識されつつも、昨年以降は直接触れ合える対面形式でのイベントや面接が増えてきました。その影響もあり、一昨年までは多かった「オンライン面接」を題材にした作品は大きく減少し、コロナ禍以前からあった「お祈りメール」のほか、「早期化」や「AI」「内定辞退」「売り手市場」などを扱った作品が多く寄せられました。
 今回は、その中からユニークな着眼点によるもの、ユーモラスに表現されたものを入選作品として紹介します。ぜひご一読ください。

学生が思う以上に企業は苦戦している

 まずは、採用担当者による「2025年卒 採用川柳・短歌」の入選作品を紹介します。【最優秀賞】からです。

ITの 広い世界に 羽ばたきたい 志望動機は 在宅勤務(神奈川県 賽の河原の採用担当さん)

 応募者からの「広い世界に羽ばたきたい」という言葉の一方で、「在宅勤務ができること」が志望動機だと言われてしまうと、活動的な飛躍タイプなのか、インドアタイプなのか、どちらなのか判別が難しくなります。
 就業する場所や時間などの働き方の多様性は十分に理解し、歓迎はしているつもりでも、志望動機として「在宅勤務」というのは果たしてどうなのか。志望動機は「挑戦」や「意欲」であるべきだという前時代的な価値観にとらわれていると自認する作者からは、「在宅勤務」をどうしても消極性の表れだとしか受け取れないもどかしさがうかがえます。新しい働き方を受け入れる柔軟性が求められている昨今の採用市場を反映した、秀逸な作品だと言えるでしょう。

 続いて【優秀賞】です。本来は2作品を予定していましたが、甲乙つけ難く、今回は3作品を選出しています。

耳につく 志望動機は みな同じ AI聞いても また同じ(熊本県 ひろしですさん)

 「ChatGPT」などの生成AIは、就職活動の場面にも登場してくるようになりました。自ら「ChatGPT」サイトでプロンプト(生成AIに送る指示文や命令のこと)を入力しなくても、希望や経験などの項目について用意された選択肢を指定するだけで志望動機や自己PRを自動生成してくれるサービスも登場しています。その結果、学生が提出するエントリーシートや面接の質疑応答では、AIが作成したと思われる模範回答がずらりと並ぶことになります。
 同じような文章をただひたすら読んだり、聞いたりしなくてはならない採用担当者のやるせなさがうかがえます。「志望動機」を模範回答に頼る学生たちを象徴し、個性や真の意欲を見極める難しさをうまく表現した作品です。

まだ採れぬ ハードル下げて また下げて いっそ自身の 転職よぎり(東京都 総務部長さん)

 学生の「売り手市場」が続く中で、自社の選考基準に沿う学生の採用に大苦戦し、合格のハードルを徐々に下げ続けるも、一向に芳しい成果が出ない様子が描かれています。挙げ句の果てには、今の会社で採用担当者として苦労を続けるよりは、いっそのこと、自分自身が別の会社に転職してしまったほうが幸せなのではないかとさえ考えてしまう作者の心情を詠んだ作品です。
 「売り手市場」下での採用活動の厳しさと、採用担当者の疲弊をリアルに描いており、共感を誘います。選考基準を下げても思うように学生を集め切れない会社の将来性にも展望を見いだせない不安が自分の疲弊をさらに増幅させ、転職したほうが楽になれるかもしれないと思ってしまう姿が切実です。

キャリアプラン 質問しつつ 本当は 自分自身も 悩んでいます(大阪府 ナーポリさん)

 最近の面接では、応募学生に希望する職種や部署を聞くだけでなく、入社後のキャリアプランや将来やりたいことなどを問うケースも少なくありません。作者も面接官として学生に同様の質問をしたものの、ふと “自分自身が今聞かれたら何と答えようか” と思った瞬間を描いた作品です。
 自分自身の就職活動や、当時の志望動機は結構いい加減なものだったにもかかわらず、学生の志望動機に厳しい面接官は少なくありません。ただし、それは過去の自分を棚上げしているのに対して、今回の作品は過去ではなく、まさに今の自分はどうなのかを自問自答しているところがポイントです。人事としての、あるいは管理職としてのキャリアプランなど、明確なものがない自分が面接官をしていていいのか、葛藤と人間味が感じられます。

こんなところにも大谷さん

 次に、【佳作】の中から6作品を抜粋して紹介します。

辞退率 6月に入り 急上昇 もうすぐ超える 大谷の打率(大阪府 ナーポリさん)

 【優秀賞】を受賞した作者が別の作品で【佳作】にも入選しました。
 就活ルール上での面接選考解禁である6月を迎え、これまで面接選考を控えていた一部の大手企業も面接選考を開始し、一気に内定者(重複内定者)が増えていきます。一足早く面接選考を行い、内定出しも実施していた企業からすると、大手企業で内定をもらった学生たちからの辞退が急に増え始める時期でもあります。それを「急上昇」で表現するとともに、辞退率の具体的な数字を出すことなく、「大谷の打率」とすることで「3割強」であることを読者にスムーズにイメージさせています。
 内定辞退率の上昇という、採用担当者にとっては困惑と焦りが入り混じったテーマであるにもかかわらず、スポーツを交えた表現が新鮮で、現実の厳しさを和らげていると言えます。ロサンゼルス・ドジャース移籍1年目から、右ひじ手術のリハビリ期間中とは思えない大谷翔平選手の活躍が連日のように報道され、バッターとしての成績が共通言語となっているところもまたすごいことだと思います。

交渉は 自分でせずに エージェント 任せていいの オオタニさ~ん(東京都 わっちさん)

 こちらも大谷選手を引き合いに出してユーモラスに表現した作品となっています。
 近年は、学生が自ら企業探しやエントリー、説明会申し込みなどの就職活動をするのではなく、社会人の転職と同様に応募や面接日程調整を新卒紹介エージェントに任せるケースが増えています。エージェントを使う風潮に対し、大谷選手の通訳騒動を引き合いに疑問を投げ掛けています。就職の重要な場面でのエージェント任せに対する不安をユーモラスに表現しています。
 就職活動でエージェントを活用した学生は、就職した会社でいざ退職するとなったら、今度は今年春に話題となった “退職エージェント”(退職代行サービス)を活用するんだろうな……と思わずにはいられません。会社(人事担当者)と個人(学生・社員)が紡ぎ出す信頼関係の重要性を改めて考えさせられる作品です。
 「オオタニさ~ん」は、大谷選手が昨年まで所属していたロサンゼルス・エンゼルス時代に、アメリカのFOXスポーツ・ウエストのエンゼルス担当実況者であったビクター・ロハス氏が、大谷選手がホームランを打った際のおなじみのフレーズをもじったものと思われます。

AI、早期化に翻弄される人事

 【佳作】の紹介を続けます。

適性じゃ 相思相愛 だったのに フラれて恨む AI判定(東京都 総務部長さん)

 こちらも【優秀賞】を受賞した作者が別の作品で【佳作】にも入選したものです。
 AIを搭載した適性検査で、自社の組織風土とのマッチ度(相性)が最適と判定された候補者に辞退されるという皮肉を描いた作品です。AI判定を信じた結果の失望感と、それに対する恨み節がユーモラスに表現されています。
 近年、従来からの検査(学力や適性)とは異なる判定方法を導入する企業が増えています。自社の既存社員にも応募者と同一の適性検査を受けてもらい、組織全体や受け入れ部署のカルチャー、組織風土を可視化し、応募者の検査結果とのマッチ度をAIで診断するというものです。応募者個人のキャリア志向や価値観、パーソナリティーなどを総合的に分析し、組織側の診断結果と照らし合わせてマッチ度を算出するようです。
 AIの万能性に対する疑念と、人間の予測不能な一面が感じられます。AIには相性だけでなく、ぜひ辞退確率も機械学習してもらいたいところです。

手強いぞ 手書き作文 クセつよ字 手こずる判読 AI読める?(神奈川県 賽の河原の採用担当さん)

 こちらは【最優秀賞】を受賞した作者が別の作品で【佳作】にも入選したケースです。
 最近はパソコンやスマートフォンの利用が多くなり、普段の生活で文字を書き慣れていない学生が増えて、エントリーシートや課題の作文などの読みづらい手書き文字の判読をAIに助けてほしい――という採用担当者の苦悩を詠んだ作品です。文字の癖が強く、「内容が良くても読めない」という現実に対する皮肉がユーモラスに描かれています。
 どんなに癖の強い文字も読み込ませたら(スキャンしたら)、すぐにテキストデータ化してくれる優れた画像認識技術を持ったAIの登場を期待するしかない切実な気持ちが込められています。ただし、それほど手こずるのであれば、そもそも手書きでの提出を諦めたほうが早いのではと思ってしまうのは私だけでしょうか。

早々に 内定もらって これからは 第一志望の 企業を選ぶ(滋賀県 クリスタルKさん)

 年々就職活動(採用活動)の早期化が進んでいますが、これは決して早期決着に結びつくものではなく、単に早期化した分だけ活動全体は長期化しているのが現状です。早期に内定を獲得しても、そこで就活を終える学生は極めて少数派です。
 残りの多くの学生は、「内定をゲットしてからが本番!」とでも言わんばかりに、その内定を保険と考え、そこから第一志望の企業の内定獲得に向けた就職活動を本格化させます。新卒採用の早期化が進む中、内定獲得後もより良い企業を探し続ける学生の熱意と採用担当者のやるせない悩みが入り混じった作品と言えます。

お祈りは するもされるも 心晴れず(東京都 とるネコXさん)

 学生に不合格を伝える「お祈りメール」という就活のつらさを採用担当者の視点で描いた一句です。お祈りメールは学生から極めて不評であり、就職活動における企業を悪者扱いにする象徴的なものの一つです。しかし、それを送る企業側もせっかく応募してくれたのに申し訳ないという思いでいっぱいであり、受け取る学生側はもちろんのこと、決して心が晴れるものではないということを学生に知ってほしいとのメッセージが込められています。
 採用担当者と学生双方の心情を考えさせられる作品です。誰か、少しでも双方がポジティブになれるようなお祈りメールを開発してくれないものでしょうか。

[図表1]「2025年卒 採用川柳・短歌」入選作品

入選 作品(地区・雅号)
最優秀賞 ITの 広い世界に 羽ばたきたい 志望動機は 在宅勤務(神奈川県・賽の河原の採用担当)
優秀賞 耳につく 志望動機は みな同じ AI聞いても また同じ(熊本県・ひろしです)
まだ採れぬ ハードル下げて また下げて いっそ自身の 転職よぎり(東京都・総務部長)
キャリアプラン 質問しつつ 本当は 自分自身も 悩んでいます(大阪府・ナーポリ)
佳作 辞退率 6月に入り 急上昇 もうすぐ超える 大谷の打率(大阪府・ナーポリ)
交渉は 自分でせずに エージェント 任せていいの オオタニさ~ん(東京都・わっち)
適性じゃ 相思相愛 だったのに フラれて恨む AI判定(東京都・総務部長)
手強いぞ 手書き作文 クセつよ字 手こずる判読 AI読める?(神奈川県・賽の河原の採用担当)
新人は 半分なのに 経費倍(東京都・つくし)
新卒に こだわらなくて いいのです(滋賀県・ロベルト)
早々に 内定もらって これからは 第一志望の 企業を選ぶ(滋賀県・クリスタルK)
お祈りは するもされるも 心晴れず(東京都・とるネコX)
金じゃない 言ってる傍から 給料は?(大阪府・J)

出典:HR総研、就活会議「就活会議」([図表2]も同じ)

「お祈りメール」にこんな対抗策が

 ここからは、就活生からの投稿による「2025年卒 就活川柳・短歌」の入選作品を取り上げます。まずは、【最優秀賞】です。

緊張は しておりません 2回噛む(鹿児島県 からしーさん)

 面接官からアイスブレイク的な質問として「緊張してる?」と聞かれ、緊張のあまり「緊張はしておりません」という短いフレーズの回答にもかかわらず、思わず2回も()んでしまったという実際のエピソードがユーモラスに描かれた作品です。緊張している自分を隠すどころか、かえってアピールしてしまった姿に親近感を覚えます。
 きっと面接はオンラインではなく、対面だったのでしょう。それも初めての対面形式での面接だったのかもしれません。リアルな体験が詠まれ、笑いを誘う秀逸な一句です。就活生なら誰しも経験しそうな緊張感が微笑ましく表現されています。この面接の結果がどうだったのかも気になりますが、次の面接から少しは緊張がほぐれた状態で臨めたことを願うばかりです。

 次に、【優秀賞】の2作品を紹介します。

Excelで まとめる落ちた 企業名 ファイルの名前は 「信者リスト」(大阪府 サラダ食べたいさん)

 「お祈りメール」が届くと落ち込む学生がほとんどだと思いますが、落ち込みながらも気分を紛らわすユニークな対抗策を考え出したものだと感心せざるを得ません。お祈りメールを「お祈りを捧げる人」からのメールと捉え、それを「信者」とする発想が非常に面白い。就職活動の厳しさをユーモアで乗り越える工夫が伝わり、共感を呼びます。企業からの不採用通知を逆手に取り、心のバランスを保つための独自の方法がユーモラスに描かれています。つらい現実を笑いに変える力強さが感じられます。
 ところで、「信者」は最終的に何人集まったのでしょうか。少人数で終わっているといいですね。

面接で 直接言われた 内々定 お辞儀で隠す 綻ぶ口元(千葉県 みやびーむさん)

 対面形式の最終面接が終わった後、第一志望の企業から内々定をその場で直接伝えられ、喜びを隠し切れずに(ほころ)ぶ口元をお辞儀で隠したという瞬間が描かれています。3年生の夏季インターンシップから始まった、1年近い就職活動の終わりを迎えた達成感と、喜びがひしひしと伝わる作品で、読者も場面がイメージできてきっと笑顔になることでしょう。
 感動的な場面が見事に表現されており、思わずガッツポーズをしてしまいそうな、作者の言葉に表し切れない喜びが伝わってきます。内々定の瞬間の幸福感があふれた作品です。ところで、口元が綻んでいる間は頭を上げることができないとすると、どれだけの間、お辞儀を続けていたのでしょうか。内々定を伝えてくれたのが最終面接の面接官だったのか、人事の採用担当者だったのかは分かりませんが、せっかくなら喜びを隠すことなく、満面の笑みで喜びを分かち合ってもよかったかもしれませんね。とにかくおめでとうございます!

早期化に焦る学生たち

 以降では【佳作】の中から6作品を抜粋して紹介します。

就活は 早めにやらんで 大丈夫 言ってた友が 早期内定(大阪府 サラダ食べたいさん)

 【優秀賞】を受賞した作者が別の作品で【佳作】にも入選。「就活川柳・短歌」で同一の作者が複数の入選をするのは、今回が初めてのことです。
 就職活動なんて「早めにやらんで大丈夫」と言っていた友人が、実は早くから就活を始めていて、なおかつ早期内定を得ていたという驚きと焦りが伝わる作品です。友人の言葉に安心し切っていた自分への反省と、友人の意外な行動への驚きが表現されています。
 これを読んで、学生時代の定期テスト前になると「全く勉強していない」と言いながら、後日、返却された答案用紙ではかなりの高得点をマークしている友人がいたことを思い出しました。実は、勉強していないどころか、何日も前から睡眠時間を惜しんで勉強していたようです。この手の話を信じると、ばかを見るのは自分だということかもしれません。友人の言葉を真に受けた自分への戒めとも取れる、就活の計画性の大切さを感じさせます。

世の中に どんだけおんねん サークル長(愛知県 まろたんさん)

 グループ面接で頻繁に見掛けるのが、「サークル長」や「バイトリーダー」をアピールする就活生です。まるで「サークル長の大安売り」のような状況に、本来は一つの企業の応募者にこんなにサークル長がいるはずはなく、何割かの学生は就活用に “話を盛っている” はずだといぶかる作者の心情が、「どんだけおんねん」というワードでユーモラスに表現されています。「どんだけおんねん」というフレーズから関西の学生の作品かと思いきや、愛知県の学生なんですね。なおのこと、ワードの選択が秀逸だと思います。
 グループ面接の同じ組に何人もサークル長がいて、華々しい実績をアピールし始められると気後れしてしまうかもしれませんが、そんなことは気にする必要はありません。数多くの学生を面接してきた採用担当者であれば、“話を盛っている” 人はすぐに見分けられるものです。

早期化で 後輩たちも 迫りくる(大阪府 みかんさん)

 近年の就職活動は、大学3年時のインターンシップから始まることが多いですが、その開催時期が早まっていることもあり、早い学生であれば3年の6月以前から企業との接触が始まっています。一方、政府主導の就活ルールでは大学4年の6月から面接選考が解禁となっており、大半の企業はルールなど無視してそれ以前から選考を開始しているものの、一部の大手企業は就活ルールどおり6月から面接選考を開始しています。つまり、4年生がまだ面接選考を受けている時期に、既に次の3年生の就職活動は始まっているわけです。思うように就職活動が進まない場合には、後輩である3年生のほうが先に内定を獲得することだってあり得ます。
 就活の早期化に伴い、自分の就活が終わる前に後輩たちも動き出すことで焦りを感じた作者の心情が、「迫りくる」という言葉からひしひしと伝わってくる作品です。早期化の影響が学生間の競争をさらに激化させる様子と、先輩としてのプライドと焦燥感が交錯する心情が巧みに表現されています。

教授の顔色うかがう理系学生

 【佳作】の残り3作品です。

祈るのよ お祈りメール 来ないでと(兵庫県 お猿のジョージさん)

 選考の不合格を伝える「お祈りメール」は、誰にとっても受け取りたくないもの。お祈りメールが来ない限りは、まだ選考に残っているという証しであり、お祈りメールが来ないように、自分自身が祈っているというユーモアを交えた作品です。「来ないで」の中には、まだ来ていないメールに対する祈りと、今の受信がお祈りメールでないことを祈るという思いの両方がありそうですね。お祈りメールの多さに悩む学生たちのリアルな心情がユーモラスに表現されていて、採用通知を祈りながら待つ学生の心情が切実に描かれています。
 本当は、「お祈りメールが来ないこと」よりも、「合格メールが早く来ること」のほうがストレートで正直な気持ちなのでしょうが、あえて「祈る・祈り」を掛け合わせた点が見事です。

念願の 第一志望の インターン 何度もうかがう 教授の顔色(京都府 てんてんさん)

 エントリーシートや面接などの事前選考を何とかくぐり抜け、ようやく念願の第一志望の企業のインターンシップに参加できることが決まったものの、その期間は研究室を休む必要が出てきます。そのことを研究室の教授になかなか言い出せない緊張感が詠まれています。教授の顔色を何度もうかがう姿に、理系大学院生ならではの共感を呼びます。
 インターンシップなどの就職活動のために、授業や研究の邪魔をされることをよく思わないタイプの教授だったりすると、なおさら休むことを言い出しにくいでしょうね。学業(教授?)とインターンシップ(就活)の両立に悩む理系学生のリアルな心情が伝わる面白い作品です。

結果来ない 人事は仕事 しているの 苦痛の期間 落ちる志望度(岡山県 ぴこさん)

 選考結果は、面接日に即日連絡があることもあれば、1カ月以上も音沙汰がないこともあります。あらかじめ伝えられていた期限を過ぎても何の連絡もないと、いら立ちと不安が入り混じった気持ちになります。「人事は本当にちゃんと仕事をしているのか、サボっているんじゃないのか、就活生の気持ちも知らずにのんびり作業しているんじゃないのか」といら立つとともに、「もしかしたら、忘れられているんじゃないのか」との不安もよぎり始めます。
 長い待ち時間に対する学生の心情が痛切に伝わり、待たされる分だけ志望度が下がる様子が巧みに表現されています。企業の人事担当者には、学生の立場に立って、できるだけ早く結果を連絡してあげてほしいところです。そのほうが志望度、ひいては自社の風評にも悪く影響しませんから。

[図表2]「2025年卒 就活川柳・短歌」入選作品

入選 作品(地区・雅号)
最優秀賞 緊張は しておりません 2回噛む(鹿児島県・からしー)
優秀賞 Excelで まとめる落ちた 企業名 ファイルの名前は 「信者リスト」(大阪府・サラダ食べたい )
面接で 直接言われた 内々定 お辞儀で隠す 綻ぶ 口元(千葉県・みやびーむ)
佳作 就活は 早めにやらんで 大丈夫  言ってた友が 早期内定(大阪府・サラダ食べたい )
祈るなら せめて助言 添えとくれ(愛知県・片想い就活生)
世の中に どんだけおんねん サークル長(愛知県・まろたん)
早期化よ 蓋を開ければ 長期化よ(京都府・てんてん)
早期化で 後輩たちも 迫りくる(大阪府・みかん)
祈るのよ お祈りメール 来ないでと(兵庫県・お猿のジョージ)
念願の 第一志望の インターン 何度もうかがう 教授の顔色(京都府・てんてん)
承諾後 音沙汰がなく 不安だな(東京都・きょうかい)
面接で 話す自分に 驚いて 成長感じる 就活の日々(熊本県・そういち)
結果来ない 人事は仕事 しているの 苦痛の期間 落ちる志望度(岡山県・ぴこ)
早期化の 波に乗れずも 研究を 続けて得たのは 無敵のガクチカ(東京都・tsuki)

 HR総研のオフィシャルページでは、「2025年卒 採用川柳・短歌/就活川柳・短歌」の全入選作品について、作者の思いを踏まえての寸評・解説とともに掲載しています。それぞれの作者がどんな気持ちでこの川柳や短歌を詠んだのか、ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひご覧ください。

■ HR総研 「2025年卒 採用川柳・短歌/就活川柳・短歌」オフィシャルページ
 こちらからご覧ください ⇒ https://hr-souken.jp/senryu2025/
寺澤 康介 てらざわ こうすけ
ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長
1986年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。2007年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。
著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。
https://www.hrpro.co.jp/