アクタス税理士法人
飯塚和正 いいづか かずまさ
パートナー 税理士
藤田益浩 ふじた ますひろ
ディレクター 税理士
Q1 技術知識習得費用の原則的取り扱い
職務に関係する技術を社員に習得してもらうための費用を会社が負担しました。この費用の負担について税務上の取り扱いを教えてください。
A 職務に直接必要な技術や知識を習得させるための費用を負担した場合、その負担した金額は、適正なものに限り所得税を課さなくてもよい
1.技術知識習得費用の取り扱い
会社が、業務遂行上の必要に基づき役員や社員に職務に直接必要な技術や知識を習得させる等のため、研修会等への出席費用を負担した場合、その負担した金額は、適正なものに限り所得税を課さなくてもよいとされている(所基通36-29の2)。
2.学資金の取り扱い
学校の授業料などの学資金を支給する場合には、原則は、給与として課税が必要になる。ただし、次の要件に該当する場合の学資金については、給与課税しなくてもよいことになる(所法9条1項15号、所令29条、所基通9-14~16)。
(1)通常の給与に加算して支給する費用であること(本来支給すべき給与の額を減らし、その減額分を学資金として支給するものを除く)
(2)次のいずれにも該当しない費用であること
① 役員の学費に充てるため支給する費用
② 役員や社員の親族など特別の関係がある者の学資に充てるため支給する費用
③ 個人事業者の配偶者その他の親族の学費に充てるため支給する費用
④ 個人事業者の使用人の親族など特別の関係がある者の学資に充てるため支給する費用
Q2 資格取得費用の条件付き負担
職務上必要な資格取得のため専門学校に社員を通わせ、授業料を会社が負担しています。ただし、専門学校卒業後2年以内に退職した場合、その費用を返還してもらう条件を付けています。このような場合の課税上の取り扱いはどのようになりますか。
A 負担した授業料が一定の要件を満たしていれば、給与として課税しなくてもよい
1.授業料の取り扱い
Q1の1.の回答と同様(所基通36-29の2)の取り扱いが原則となる。
ご質問のケースでは、社員が職務を遂行する上で直接必要な資格を取得するための費用であるため、通常は、給与として課税する必要はないことになる。しかし、費用負担が無条件で行われるのではなく、専門学校卒業後2年以上勤務することを条件にしているので、取り扱いを確認する必要がある。
一定年数以上勤務することを条件としているような場合には、その費用の負担は、職務を遂行する上で必要な一定の資格を持つ社員の定着を目的とし、職務品質の維持向上のためのものと解されるため、特段課税しなくて差し支えないと考える。
2.このケースの注意点
会社が費用を負担し、返還が不要となる条件を満たすまでの間、会社は貸付金等として処理することになる。同条件を満たしたときに、福利厚生費や研修費などとして損金算入することになる。
Q3 外国語研修費用の補助
海外で勤務する予定の社員に外国語研修を受講させています。受講費用は、職務上必要なものとして会社が負担しています。このような研修費用の課税上の取り扱いはどのようになりますか。
A 外国語の習得が会社の業務遂行上直接的に必要である場合、会社は、給与として課税する必要がなく、研修費等として損金算入できる
Q1、Q2と同様に、所基通36-29の2の取り扱いが原則となる。
役員または社員を海外で勤務させるために外国語をマスターすることが会社の業務遂行上直接的に必要である場合、会社は、給与として課税する必要がなく、その費用の負担については研修費等として損金算入することができる。
なお、本人が研修先を選定する場合もあるが、このような場合、会社は、選定先が知識習得に足る所か否かを確認し、基本的に、受講費用は会社が直接研修先へ支払ったほうがよいだろう。会社ではなく本人が直接支払う場合には、その支出が実際に勉学のための費用に充てられたものかを講座の案内書や領収書などから明らかにしておくことが重要である。
Q4 修学中の社員に支給する奨学金
会社業務のスキル向上を図るため、夜間大学に通学することを推奨しています。通学する社員には、通常の給与とは別に月2万5000円程度の奨学金を支給していますが、この場合の課税上の取り扱いはどのようになりますか。
A 修学のために学資金等として金品を支給する場合、その金品は一定の要件を満たしていなければ、給与に該当し課税される
1.学資金等を受ける者の取り扱い
会社が役員や社員に対してその修学のため、またはこれらの者の子弟の修学のために学資金等として金品を支給する場合、その金品は、次の要件を満たしていなければ、給与に該当し課税される(所法9条1項15号、所令29条、所基通9-14~16)。
(1)通常の給与に加算して支給する費用であること
(2)次のいずれにも該当しない費用であること
① 役員の学費に充てるため支給する費用
② 役員や社員の親族など特別の関係がある者の学資に充てるため支給する費用
ご質問の夜間大学に在籍する社員への奨学金は、(1)の通常の給与に加算して支給されるものであり、(2)の①②にも該当しないことから、所得税は課されない。
2.学資金等を支給する会社の取り扱い
会社が支給する奨学金は、給与に該当する場合は給与として、給与に該当しない場合は福利厚生費や研修費として損金算入される。
Q5 研修講師の交通費を負担した場合の取り扱い
フリーランスである研修講師に支払う車代や宿泊費等の交通費については、課税上どのように取り扱えばよいでしょうか。
A 研修講師に対して支払う交通費等は、報酬料金に含め源泉徴収を行うことが必要。ただし、交通機関等に直接会社が支払う交通費等は源泉徴収不要となる
1.原則的な取り扱い
源泉徴収の対象となる報酬や料金には、講演料などのほか、謝金、調査費、日当、旅費など、どのような名目で支払われるものも源泉徴収の対象となる報酬や料金に含まれる(所法204条1項1号、所基通204-2)。
したがって、研修講師に支払われる交通費等については原則源泉徴収を行う必要がある。
2.例外的な取り扱い
会社が研修講師の交通費を負担する場合でも、直接交通機関やホテル等に支払う交通費、宿泊費等で、その金額が通常必要な範囲内のものであるときは、源泉徴収の対象となる報酬や料金に含めなくてもよいこととされている(所基通204-4)。
また、研修講師がいったん交通費等を立て替え、会社宛ての領収書を取得し、精算する場合には、会社が直接払う場合と同様に源泉徴収は不要となる。
Q6 リスキリングに活用できる「特定支出控除」とは
特定支出控除とは何ですか。また、リスキリングに活用する際の税務上の留意点を教えてください。
A 給与所得者がリスキリングのため研修費用や資格取得費用等の支出をした場合で一定の要件と金額を満たすときは、特定支出控除として給与所得控除後の所得から一定額を控除することができる
1.特定支出控除とは
給与所得者が支出する次の七つの費用のうち、一定の要件を満たすものを支出した場合でその年中の特定支出の額の合計額が「その年中の給与所得控除額×2分の1」を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる。これを特定支出控除という。
なお、これらの特定支出はいずれも会社等が証明したものに限られる。
(1)通勤費:一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出(ただし、通勤手当等のように、会社により補塡される部分があり、かつ、その補塡される部分につき所得税が課されないものは特定支出には含まれない。以下同じ)
(2)職務上の旅費:勤務する場所を離れて職務を遂行するための直接必要な旅行のために通常必要な支出
(3)転居費:転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出
(4)研修費:職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出
(5)資格取得費:職務に直接必要な資格を取得するための支出
(6)帰宅旅費:単身赴任などの場合で、その者の勤務地または居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出
(7)次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限る)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの(勤務必要経費)
① 図書費:書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用
② 衣服費:制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用
③ 交際費等:交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出
2.リスキリングに活用する場合の注意点
リスキリングに特定支出控除を活用する場合、その支出については、主に以下の注意が必要である。
(1)資格取得のための費用などは、年間分等を一括で払うことが多いが、支払った年の12月31日においてまだサービスの提供を受けていない部分の金額は、その年の特定支出控除の合計額に算入しない
(2)授業料等が未払いの場合、その年に支出していないので特定支出に該当しない
(3)特定支出からは、雇用保険法による教育訓練給付金が支給される部分や、母子及び父子並びに寡婦福祉法による母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分がある場合には、その支給される部分を除く必要がある
(4)その支出について、会社から補塡される部分があり、かつ、その補塡される部分につき所得税が課されない場合、その補塡される部分を除く必要がある
(5)適用を受けるためには、所得税の確定申告書に特定支出に関する明細書、会社またはキャリアコンサルタントの証明書、支出した金額を証する領収書等の書類を添付等し、提出する必要がある
執筆者プロフィール
飯塚和正 いいづか かずまさ アクタス税理士法人 パートナー 税理士 中堅・中小法人から上場企業に対する税務コンサルティング業務を中心に、会計や経営、経理に関するコンサルティング業務に従事。「お客様の身になって考える」ことを常に意識し、お客様の成長と発展のために必要となるコンサルティングサービスの提供を心掛けている。 |
|
藤田益浩 ふじた ますひろ アクタス税理士法人 ディレクター 税理士 中堅・中小企業への税務コンサルティングを中心に取り組んでいる。同族企業経営者の身近なアドバイザーとして、法人・個人双方の立場で親身なコンサルティングを提供。税務や会計に関するセミナー講師も多数行っている。 |
法人プロフィール
アクタス 税理士法人 アクタスグループは、税理士など約230名で構成する会計事務所グループで、東京(赤坂、立川)、大阪および長野の計4拠点で活動している。中核の「アクタス税理士法人」では、税務相談・申告、国際税務、組織再編、企業再生、相続申告など専門性の高い税務コンサルティングサービスを提供している。 |