2024年10月11日掲載

Point of view - 第262回 濱田久雄 ― 人手不足に待ったなし。加速する外国人雇用

濱田久雄 はまだ ひさお
株式会社ONODERA USER RUN 専務執行役員 東日本営業本部 本部長

1996年、ONODERA GROUPの中核で、コントラクトフードサービス事業を展開する株式会社LEOCに入社。営業部門、事業部門、採用部門および海外外食事業の立ち上げ等に従事。2022年、特定技能人材の教育・紹介・登録支援を行う株式会社ONODERA USER RUNへ転籍。外国人材の就労後の支援を行う登録支援部門を経て、現在は外国人材紹介を担う営業部門に在籍し、東日本営業部を統括。

労働力人口減少による危機

 少子高齢化に伴う人口減少によって引き起こされる「2030年問題」。企業においても、労働力不足や人件費上昇などの影響が強く及ぶと懸念されている。日本では、2007年に65歳以上の割合が人口の21%を超える「超高齢社会」に突入し、中長期的には労働力人口の減少が避けられない見通しだ。2030年を待たずして、業界・職種によっては人手不足問題が本格化してきている。
 労働力人口の減少は、製造業であれば物が作れない、小売業であれば店が開けられないといった、事業継続を脅かす深刻な事態を引き起こし、経済成長に悪影響を及ぼす。加えて、社会保障制度においても労働者1人当たりの負担が増加することで、現役世代の経済事情にも大きな影響を与えるだろう。労働力不足を補うために、さまざまな作業のオートメーション化やAI導入の動きもあるが、例えば、介護・医療分野や外食業、宿泊業等の、人と人とのコミュニケーションによって成り立っている業界においては、そもそもこうした対応を取ることが難しい。
 子育て支援政策やワーク・ライフ・バランスの改善により出生率を向上させる取り組みや、定年を延長して高齢者の労働参加を促進する動きも見られる。しかし、労働力確保の観点からこれらを考察すると、効果が得られるまでに一定の時間を要し、人口構造の変化にはあらがえないことなどから、喫緊の課題解決につながるのか、不安が残る。
 そんな状況下だからこそ、足りない労働力(労働人口数)を外国人で補って確保する、外国人労働者の受け入れが注目され始めているのである。

外国人労働者受け入れのための在留資格

 日本には、就労できる在留資格は19種類あるが、その多くは活動できる職種が限定的(例:「教育」であれば中学校・高等学校等の語学教師等、「医療」であれば医師や看護師等)であり、幅広い業態・業種には対応できない。そこで人材確保を目的とした在留資格「特定技能」制度が2019年に創設され、人手不足が顕著な介護、ビルクリーニング、建設等12の特定分野においては、即戦力となる外国人材の受け入れが可能となった。さらに2024年3月の閣議決定を受けて、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野が追加され、今後は16の分野が対象となることが決まっている。

※介護/ビルクリーニング/工業製品製造業/建設/造船・舶用工業/自動車整備/航空/宿泊/農業/漁業/飲食料品製造業/外食業

 私は日頃、人手不足を課題として抱える企業へ、特定技能制度を活用した採用提案を行っているが、「特定技能」と「技能実習」の二つの在留資格を混同している採用担当者とお会いするケースが少なくない。
 特定技能は “人手不足の解決を目的としている” ことに対して、技能実習は “日本で技術を学び、母国へ技能を移転する” という国際貢献が目的のはずだが、労働力の確保を目的に技能実習制度が利用されているケースが多く、目的と実態の乖離(かいり)がこれまで問題視されてきた。一部では、技能実習生への賃金不払い、パワーハラスメントなどの人権問題が発生し、これらを引き金に失踪などが頻発し、特に失踪者数の増加は近年深刻化している。
 これを受け、技能実習制度を抜本的に見直した新制度「育成就労制度」が創設されることが閣議決定され、関連法案が第213回通常国会において成立(2024年6月14日)している。育成就労は、認められた在留期間の3年で、労働者を特定技能の水準まで育成することを目的としており、人権保護やキャリアアップなどにも重点が置かれている点も注目される。

外国人労働者を受け入れるために

 外国人労働者を受け入れるためには、労働者本人だけでなく、雇用側である企業やコミュニティーによる適切な対応が求められる。主には労働環境と生活環境への対応が必要で、第一に、労働条件、雇用契約内容を明確に提示し、丁寧に説明して理解を得ることが重要である。後に給与、福利厚生、勤務時間等についての認識の齟齬(そご)が発覚し問題となるケースも多い。
 また、外国人労働者が業務を円滑に進められるよう、職場において言語の壁を取り払う努力が求められる。例えば、出入国在留管理庁と文化庁は、「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」を発表している。これは、日本語が不慣れな在留外国人を対象に、簡易な表現を用い、文の構造を簡単にして、漢字にふりがなを振るなどして分かりやすくした日本語を使うことで、一方通行の情報発信になってしまうことを防ぐ目的で作成されたものだ。多くの受け入れ企業が同ガイドラインを職場に取り入れ、適切な情報伝達に向け活用している。
 そして、生活環境への対応としては、外国人労働者が安心して暮らせる住居の準備、また、生活拠点となる地域社会に溶け込めるよう、地域コミュニティー活動への参加を促すことも重要である。
 その他、日本の文化・習慣を理解してもらうとともに、受け入れ企業が外国人労働者の母国の文化を理解し、彼ら・彼女らが日本の文化や職場習慣に適応しやすくなるようサポートすることも必要である。

最後に

 国の推計によると、日本の人口は2020年の1億2615万人から、2070年には8700万人まで減少すると同時に、高齢化も進み、65歳以上の人口割合は2020年の28.6%から2070年には38.7%に増加すると見込まれている。日本の労働力人口減少の打開策として外国人雇用が加速度的に進んでいくことは間違いないが、企業規模での労働力確保や多様性だけに目を向けるのではなく、就労先として日本を選び、来日してくれた外国人労働者が安心して生活し、働くことができる環境を整えて迎え入れることこそが、わが国の多文化共生社会の実現に向けた重要なファクターの一つといえるだろう。