臼井隆志 うすい たかし 慶應義塾大学総合政策学部卒業。経営コンサルファーム MIMIGURIコンサル事業部+組織開発室。アートNPO法人経営、赤ちゃんと親の教育事業開発を経て現職。著書に『意外と知らない赤ちゃんのきもち』(スマート新書)がある。 |
初めまして。株式会社MIMIGURIの臼井隆志と申します。
MIMIGURIは、人と組織の可能性を生かす新しい経営モデルを掲げるコンサルティングファームです。私はここでコンサルティング事業部のマネジメントと、自社の組織開発施策の担当をしています。
私は、どんな人にも仕事に対して発揮する創造性や遊び心、すなわち「作家性」があり、一人ひとりがその作家性を生かせる職場をつくっていきたいと考えています。
しかし今、職場づくりを担うマネージャーには過剰に負荷がかかっています。そうした現代マネジメントの問題を解き明かしながら、「マネジメントをみんなで行い、一人ひとりの作家性を生かし合う仕組み」として「ピア・マネジメント」という考え方を提案します。
「三つのケア」への負担から、マネージャー自身が疲弊している
昨今、マネージャーの仕事に対して、“罰ゲーム” “無理ゲー” といった表現がされることが多いです。私はこうした現代のマネージャーの負担には、「ケア」の役割の増幅があると考えています。
以下では、「目標達成と業務管理」「キャリアと機会づくり」「メンタルヘルスと職場復帰」という三つのケアの役割について説明します。
①目標達成と業務管理のケア
メンバーに適切に仕事を割り振り、業務支援をしながらチーム目標・個人目標の達成をケアしていきます。しかも、変化が大きい現代においては、目標の見直しが日々行われています。その中で、なぜ目標が変わったのか、どのような仕事が求められるのか、メンバーが納得できるように支援していく必要があるのです。
②キャリアと機会づくりのケア
メンバー一人ひとりの中長期的なキャリア形成に伴走することも、マネージャーの重要な仕事です。どのようなテーマをもって仕事をしていきたいのか、本人の内省を促しながら、そのテーマを実践する機会としてプロジェクトへのアサインをし、評価していきます。
③メンタルヘルスと職場復帰のケア
職場の人間関係や業務の中で、自身が大切にしていることが尊重されていないと感じ、将来の不安やストレスから心身の不調が顕在化したメンバーについて、業務調整や休職などの対応が必要になっていきます。
こうした状態をケアすることも、マネージャーの仕事になっているといえます。
目標の変更が次々と上から降りてくる。それに対してメンバーの納得感をつくりながら、目先の目標達成に向けて業務の管理をしていく。と同時に、メンバーのキャリアとメンタルをケアしていく――。事業と人、それぞれのマネジメントの難易度が上がっている中で、マネージャー自身が疲弊しているのです。
マネジメントを「する側」と「される側」の無意識の壁を取り払う
私自身も、こうした事業と人のケアに疲弊し、ストレスを感じることが増えてきました。
そんな時に、私をケアしてくれたのが、ほかならぬ職場の仲間でした。マネジメントの悩みをメンバーにこぼしてしまったとき、「なんで言ってくれなかったんですか。私も一緒に職場づくりをしますよ」と言われたことがあります。
ここで私は、マネジメントを「する側」と「される側」を無意識に区別していたことに気づかされました。職場とは人の集まりです。一人ひとりが職場づくりの担い手なのです。
そこで最初に、チームメンバーのキャリアテーマを分かち合う対話の場を定期的に設けることにしました。この機会によって、メンバーが自身のテーマを確かめると同時に、お互いがどんなテーマで仕事をしたいのかを把握し合うことができ、業務でのコラボレーションの質が変わっていきました。
そこからさらに、メンバー同士の1on1ミーティングを定期的に設定し、現在の業務状況やお互いのテーマをシェアしてもらったり、10人のメンバーを二つのチームに分け、サブマネージャーという肩書を実験的につくってみたりして、試行錯誤しています。
「ピア・マネジメント」実践のための、チームビルディング
このように、「一人ひとりの作家性を生かし合う職場づくり」が、今回提案したい「ピア・マネジメント」のコンセプトです。
「ピア(peer)」には、「対等」「日が昇る」「じっと見つめる」という意味があります。「ピア・マネジメント」とは、互いのことを対等なまなざしでよく見て、作家性が育まれていくようにケアをし合っていく職場づくりのアプローチです。
日々のストレスと業務、キャリア開発をケアする “ピープルマネジメント” と、事業ビジョンに照らした目標設定と達成推進をケアする “事業マネジメント” 。この二つのマネジメントをつなぎ合わせる手段が「チームビルディング」であると、私は考えています。
ピープルマネジメントも事業マネジメントも、いずれも個人に意識が向きがちです。個人の目標達成やキャリア、ストレスケアを、マネージャーが一人ひとり対応していくのは相当に難しいといえるでしょう。
その状態に対して、「集団/チーム」を主語にして考える時間が増えるよう、目標と対話の在り方を調整していきます。上述のように、チームメンバーでキャリアを分かち合いながら、「私たちチームにどんな機会があるとよいか」をチームを主語にして話し合うことができます。加えて、個人目標からもう一段目線を上げて、チーム全体でどのような目標を追いかけているのかを事業の観点から確かめ、チーム目標の意味について対話する過程でも、チームビルディングが図られていくはずです。
そもそも「ケア」とは、私たちが赤ちゃんとして生まれたときに他者に頼らざるを得なかったように、人間は他者に依存して生きているという前提の概念です。チームの関係性に依存しながら、その中で目標達成がなされ、個々人のキャリアも、個々人のストレスとそのケアも生まれていくものです。
そのために、個人だけでなく、「集団/チーム」を主語にして私たちはどうあるべきかを問い直し、対話し、調整し直していくことが、ピア・マネジメントにおいて重要となるでしょう。
本稿では、コンセプトの提示にとどめますが、事業形態や組織図、組織文化によってこの「ピア・マネジメント」の在り方は変わっていきます。
本稿を一つの問題提起とし、さまざまな方とアイデアを交換していきたいと考えています。