株式会社ベルシステム24ホールディングス
人材開発部 人事企画局 局長 君島晴美
キャリアマンスとは、すべてのキャリア支援職が所属団体・領域を越え、「自律的なキャリア形成が当たり前となる社会」の実現を目指して社会の課題に立ち向かい、【チェンジエージェント】として一丸となって輪を広げる特別な月間です。
キャリアマンス2024では、テーマを “働くと生きるを考える” とし、キャリアコンサルタントのみならず社会全体で「働くと生きる」を考えていきます。そこで、皆さまと一緒に考えていきたい “組織と社会に関する寄稿” を全2回でお届けします。
第2回となる今回は、株式会社ベルシステム24ホールディングスの君島晴美氏に、「社員自身が今後のキャリアについて思考し、一つの選択肢として所属する企業以外の活躍の場を持つ」機会として、同社で2021年より実施している副業制度について紹介いただきます。
1.はじめに
ベルシステム24には、副業制度として社内副業と社外副業を認める仕組みがあり、利用する社員の数も年々増えてきている。副業制度の導入は社員からの提案で検討を始めたものだが、当初は経営層の理解を得ることが難しかった。現在は、社員の中長期的なキャリア形成の一助となる制度であるとの理解が進んできたと感じている。
私自身、キャリアコンサルタントとして社員との面談を経験する中で、社員自身が今後のキャリアについて思考し、一つの選択肢として所属する企業以外の活躍の場を持つことも、精神的な安定や充実感を得ることにつながると実感した。一見、本業との連関性がなくとも、社員の人生においては非常に重要な機会提供であると考えている。
当社の取り組みが、副業制度について興味・関心をお持ちの方の参考になればと思う。
2.副業制度検討のきっかけ
副業制度の検討・導入は、当社独自の社内活動「MMMC(スリーエムシー)」[図表1]がきっかけとなった。
「MMMC」とは2017年に開始した社員による自主活動(みんなでみらいをMakeするCommunity)のことで、例年約100人が参加している。主管部門である人事部門が提示する、ダイバーシティ推進に関する6~8のテーマごとに集まり、コミュニティとして約1年自由に活動し、最終的には社長ほか経営層に報告や提案を行うというもの。2018年、当時話題になり始めていた副業について「2枚目の名刺を持ってみよう」というテーマで参加者を募ったところ、22人が手を挙げた。そして、このコミュニティ参加者からの提案により、まず社外副業に関する検討が始まった。
[図表1]MMMC(みんなでみらいをMakeするCommunity)の活動イメージ
※テーマ(コミュニティ)は2018年度募集の内容
3.経営層による懸念を払拭、社内副業・社外副業のトライアル運用
当初、経営層からは「過重労働を助長するのではないか」「社員の健康管理はどうなるのか」という点が懸念事項として挙げられていた。そこで、MMMC「2枚目の名刺を持ってみよう」コミュニティの活動メンバー自らが副業をトライアルで経験し、また既に副業制度を導入している企業にインタビューすることで、副業で得られるメリットや懸念事項への対応方法を検討。その過程で経営層に説明を重ねていき、徐々に副業に対する理解を得ることができた。そして、経営層からも「社員が持っている能力・スキルを社内で活かす社内副業の制度も考えてみてはどうか」との前向きなアドバイスが出てくるようになった。その結果、2020年に「ダブルジョブ(社内副業)制度」「ダブルワーク(社外副業)制度」のトライアル運用が人事部門主導で開始され、2021年に正式な導入に至っている。
4.制度の運用状況
ダブルジョブ制度の活用例としては、社内外の広報活動の一環としてのライター業務や、社内キャリアコンサルタント業務が中心となっている。特に、キャリアコンサルタント資格保有者による社内キャリア面談は毎年100人程度に対し実施されており、その結果、社員のキャリア自律・キャリア形成に対する意識が徐々に高まるなど、人材育成面を中心に良い効果をもたらしている。また、副業における実績と評価により報酬が得られる仕組みとしているため、会社と社員の双方にメリットがある制度といえる。
ダブルワーク制度については、[図表2]のとおり利用者が増加しており、1人で複数の副業をこなす社員もいる。業務としては、保有資格や技能を活かした活動のほか、サービス業に従事するケースもある。
[図表2]ダブルワーク(社外副業)制度の利用実績
5.副業の理想と現状
人事の立場からすると、副業の理想形は「キャリア形成に直接つながる業務に従事すること」と考えがちである。例えば、副業を経験することで新たな学びにつながり、定年後のキャリア形成に役立つ、あるいは視野や人脈が広がることで本業にも貢献できる――といったものだ。
しかし、[図表2]から分かるように、現実的には社外副業の申請理由(複数回答)のトップは「収入アップのため」となっており、社員にとってはまずは収入を増やす手段と捉えられている。一方で「社内では得られない知識・スキルアップのため」「自律的なキャリア形成のため」を理由に挙げる社員も多く、収入を得ることとキャリア形成の両軸から副業を実施していると考えてよいだろう。
前述のとおり、一見して当社の業務との直接的な連関性がない副業の場合、会社としてはついネガティブな反応になりがちだが、そうしたものも含めて広く副業を認めることは社員の働くことへの満足度を高め、結果として優秀な人材のリテンションにも役立っているのではないだろうか。
6.制度利用者の声
副業制度については、社内から多くの反響が寄せられている。ここでは、ダブルジョブ・ダブルワークの両制度を利用している社員の声を紹介しておく。
2019年にキャリアコンサルタント国家資格を取得後、社内で資格を活かし、社員の個別面談やキャリア研修等の活動を継続していた。その後、もっと多くの方にキャリアコンサルティングを知ってほしいという気持ちと、自分の活躍の場を広げていきたいという思いからダブルジョブ・ダブルワークの両制度を利用して活動を始めた。
副業制度があることで、安心して自分のやりたいことにチャレンジでき、とてもうれしくありがたいと思っている。また、副業は通常の業務に役立つことや刺激になることも多く、良い相乗効果が生まれていると感じる。
これからも副業制度を通じて、キャリアコンサルタントの仕事を自分のライフワークとして続けていきたい。
第3事業本部 第3事業部 第3グループ
グループマネージャー 長尾典子
7.最後に
これからの時代、社員が本業以外の活躍の場を持っておくことには、自己実現だけでなく、経済的安定の確保、長期的なキャリア形成など、さまざまな利点がある。企業側の視点では「本業がおろそかになるのではないか」といった懸念はあるものの、一定のルールの下、積極的に社員の副業を支援していくことが、優秀な人材の確保や社員のキャリアチェンジ、リスキリング、生産性の向上にも役立つだろう。
当社ではこれからも、さまざまな施策や制度を通じて、社員の多様な働き方を応援していきたい。「自律的なキャリア形成が当たり前となる社会」をつくることは、すべての人や社会にとって意義のあることだと信じている。
君島晴美 きみじま はるみ 株式会社ベルシステム24ホールディングス 人材開発部 人事企画局 局長 株式会社ベルシステム24に入社後、採用、子会社人事など人事業務を幅広く経験。2016年ダイバーシティ推進グループ新設時より女性活躍・LGBTQ+・男性育児休業など多岐にわたるテーマに取り組み、「プラチナくるみん」「えるぼし」「なでしこ銘柄」「PRIDE指標 Gold」などの認定取得に尽力。2019年からグループマネージャーとして、全社のダイバーシティの取り組みを牽引した。また、2004年に取得したキャリアコンサルタント資格を活かし、社内の「面談Workshop」開催などを通じて、管理職のキャリア支援力強化のための教育、社員のキャリア形成支援を実施。2024年より人事企画局 局長として人事制度施策全般に取り組んでいる。 |
社会でキャリアを考えるイベント
「キャリアマンス2024」(一般財団法人ACCN主催)のテーマは、“働くと生きるを考える” です。キャリアコンサルタントでなくても参加できるイベントも掲載されています。ぜひ、下記サイトをご覧ください。
https://careermonth.wixsite.com/2024