大正大学地域創生学部准教授
A5判/216ページ/4000円+税/中央経済社
BOOK REVIEW ―人事パーソンへオススメの新刊
■ 現在、生産年齢人口の減少や働く人々のニーズの多様化などに直面する日本。2019年4月から働き方改革関連法が順次施行される中、求められているのは制度改革だけではない。当事者である労働者が、仕事や組織に対して何を望んでいるのかを改めて考えるとともに、企業は、働く個人が所属する組織に対してどのような思いを持ち、どのような関係を築きたいと考えて行動しているのかを理解する必要があるだろう。
■ 本書は、こうした問題意識の下、主に①個人と組織の間には心理的距離が存在しているのか、存在している場合、分類は可能なのか、②分類可能な場合、それらが個人と組織の関係性にどのような影響を及ぼすのか——について、働く個人(特に正社員の立場)に軸足を置き研究課題として設定。心理的距離は長らく対人関係において用いられる概念であったが、それが個人と組織の間にもあるとすれば、組織の在り方を考える際に有効な要素になり得る。第1章における先行研究の検討から始まり、第2・3章では実証研究の成果を確認し、第4・5章ではそれらの定性調査による知見に基づく定量分析の結果から考察を深めることで、職場と個人のベストな「心理的距離」を探っていく過程を追うことができる。
■ 博士論文を基にした学術書であるためハードルが高く感じるかもしれないが、今日までの働き方や雇用環境の変化についてデータを基になされた考察や、人と組織間の心理的距離を検討した研究結果は、実務担当者にも役立つ内容といえる。例えば、どのような意識や行動が離職につながるのかを知っておけば、より効果的なエンゲージメント向上やオンボーディングなどの人材定着施策を検討できるかもしれない。日々の人事課題に向き合い、試行錯誤を繰り返している実務家にも手に取ってもらい、個人と組織の関係性について議論してほしいという思いが込められた一冊だ。
個人と組織の心理的距離——距離をとる行動のバリエーションと影響 内容紹介 個人が組織に対して抱く「心理的距離」をキーワードに、個人と組織の関係性の変化について、組織の成員である個人の心理的な変容と行動に着目して探究した研究書。 |