浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学
事業創造研究科教授
2025(令和7)年1月31日、厚生労働省は、「『外国人雇用状況』の届出状況(令和6年10月末時点)」を取りまとめ、公表した。これによると、日本で働く外国人労働者数は230万人を超え、届け出が義務化された2007(平成19)年以降、過去最多を更新した。外国人を雇用する事業所数は34万事業所を超え、こちらも過去最多となった。
これに先立つ2024(令和6)年12月26日には、2023(令和5)年秋に外国人労働者の雇用管理等を明らかにすることを目的に行われた「令和5年外国人雇用実態調査」※1の結果が公表されたところである。
今回は、これらを基に外国人労働者の雇用状況や雇用に関する課題などを概観し、外国人労働者に力を発揮してもらうために必要なことについて考えてみたい。
※1 雇用保険被保険者5人以上で、かつ、外国人労働者を1人以上雇用している全国の事業所および当該事業所に雇用されている外国人常用労働者が対象。抽出された9450事業所のうち有効回答を得た3534事業所および1万1629人について集計。2023年9月30日現在の状況について、同年10~11月に実施
1.外国人雇用状況の届け出
外国人雇用状況の届け出は、労働施策総合推進法※2に基づくもので、すべての事業主に、外国人の雇入れ・離職時に、氏名、在留資格、在留期間等を確認し、厚生労働大臣(ハローワーク)へ届け出ることが義務づけられている※3。いわゆる業務統計で、事業主から提出のあった件数について、2024年10月末時点の状況を集計したものである。
[図表1]は、在留資格別外国人労働者数の推移である。コロナ禍で足踏みはしたものの、外国人労働者数は一貫して増え続けている。2023年10月から2024年10月にかけて、「専門的・技術的分野の在留資格」で働く者が2割以上増えて71万9000人となり、永住者や日本人の配偶者などの「身分に基づく在留資格」で働く者を初めて上回った。産業別に見ると、最多は59万8000人の製造業だが、医療・福祉(前年比28.1%増)、建設業(同22.7%増)などで伸び率が大きい。全雇用者に占める外国人労働者の割合は、約3.4%から約3.8%へと高まった。
※2 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(昭和41年法律第132号)
※3 特別永住者、在留資格「外交」「公用」の者を除く
[図表1]在留資格別外国人労働者数の推移
資料出所:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」
2.外国人雇用実態調査
次に、「外国人雇用実態調査」について見てみよう。外国人労働者の雇用管理に関して多くの項目を把握しているが、ここでは、外国人労働者に働いてもらう上で特に気になるものに絞って見てみたい。
[1]事業所調査
(1)賃金・労働時間
在留資格別の賃金・労働時間は、以下のとおりであった。いずれも一般労働者で、①月間きまって支給する現金給与額、②所定内実労働時間、③超過実労働時間となっている。
① | ② | ③ | |
・専門的・技術的分野 |
285.9千円 302.4千円 232.6千円 600.6千円 |
158.6時間 157.3時間 159.9時間 151.9時間 |
17.5時間 14.9時間 23.8時間 7.5時間 |
・技能実習 |
204.1千円 | 163.2時間 | 26.2時間 |
・身分に基づくもの |
302.3千円 | 149.5時間 | 18.5時間 |
※4 高度専門職1号・2号。学歴・ 職歴・年収等の項目ごとのポイント制による高度人材で、わが国の学術研究や経済の発展に寄与することが見込まれる高度の専門的な能力を有する外国人材である
(2)外国人労働者を雇用する理由
外国人労働者を雇用する理由(複数回答)は、「労働力不足の解消・緩和のため」64.8%、「日本人と同等またはそれ以上の活躍を期待して」56.8%、「事業所の国際化、多様性の向上を図るため」18.5%、「日本人にはない知識、技術の活用を期待して」16.5%の順であった[図表2]。
[図表2]外国人労働者を雇用する理由(複数回答、事業所計)
資料出所:厚生労働省(2024)「令和5年外国人雇用実態調査」を基に筆者作成([図表3]も同じ)
(3)外国人労働者の雇用に関する課題
[図表3]は、企業が考える外国人労働者の雇用に関する課題(複数回答)を示したものである。「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい」44.8%、「在留資格申請等の事務負担が面倒・煩雑」25.4%、「在留資格によっては在留期間の上限がある」22.2%、「文化、価値観、生活習慣等の違いによるトラブルがある」19.6%、「生活環境の整備にコストがかかる」17.9%、「受け入れた職場での負担が大きい」17.1%の順であった。
[図表3]外国人労働者の雇用に関する課題(複数回答、事業所計)
[2]労働者調査
労働者調査では、入職経路、入国に要した費用などのほか、仕事をする上でのトラブルや困ったことについて尋ねている。
今の会社の仕事をする上でのトラブルや困ったことについては、「なし」が82.5%、「あり」が14.4%であった。「あり」の者について、その内容(複数回答)を見ると、「紹介会社(送出し機関含む)の費用が高かった」が19.6%、「トラブルや困ったことをどこに相談すればよいかわからなかった」16.0%、「事前の説明以上に高い日本語能力が求められた」13.6%の順となっている。
3.外国人労働者に力を発揮してもらうために
公表資料からは、外国人労働者が増え続けていること、在留資格による処遇の差が大きいこと、外国人労働者は、労働力として期待されているが、能力発揮も期待されており、一部では日本人にはないイノベーティブな力を発揮することについても求められていることがうかがえる。また、課題としては日本語能力に関するものが最多だが、在留資格関係の手続き負担を除けば、文化や価値観に関することや、受け入れた職場の負担なども課題となっていることが分かる。
外国人労働者とキャリアコンサルティングに関しては、2021年3月に策定された「第11次職業能力開発基本計画」に、「外国人の就職や企業実務(ダイバーシティ経営等)に関する知識を付与し、外国人材の就職等に精通したキャリアコンサルタントの育成を進めるとともに、企業内でのキャリアコンサルティングの実施により外国人材の活躍や定着につなげている企業事例の情報発信等に取り組む」ことが明記されている。
「令和6年版労働経済の分析」では、人手不足に対し、生産性向上への取り組みや多様な者の労働参加促進が重要であること、賃上げ等に引き続き取り組み、日本が外国人材から「選ばれる国」になることが重要であることなどが指摘されている。2024年6月に成立した育成就労法※5では、育成就労産業分野において、一定水準以上の人材を育成し、人材を確保することを目的としている。現時点では、外国人労働者と関係するキャリアコンサルティングはかなり限られたものだが、外国人労働者が増えれば、一緒に働く機会も増加する。キャリアコンサルタントには、自らのバイアスに十分留意し、法制度などの知識をアップデートし、職場の本質的な課題を把握することを通じて、個人、企業双方を支援し、日本を選んだ外国人労働者たちが活躍できる環境づくりの一端を担ってくれることを期待したい。
※5 「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」。育成就労産業分野については、施行日(改正法公布日〔令和6年6月21日〕から起算して3年以内)までの間に、有識者や労使団体等で構成する新たな会議体の意見を聴いて決定されることとされている
【参考文献】
・厚生労働省(2021)「第11次職業能力開発基本計画」
・厚生労働省(2024)「令和5年外国人雇用実態調査」
・厚生労働省(2024)「令和6年版労働経済の分析」
・厚生労働省(2025)「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」
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浅野浩美 あさの ひろみ 事業創造大学院大学 事業創造研究科教授 厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。 社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリアデザイン学会専務理事、人材育成学会常務理事、国際戦略経営研究学会理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。 筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科兼任講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師、成蹊大学非常勤講師など。 専門は、人的資源管理論、キャリア論 |
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