アクタス税理士法人
飯塚和正 いいづか かずまさ
パートナー 税理士
藤田益浩 ふじた ますひろ
ディレクター 税理士
Q1 外貨建ての役員報酬を支給した場合
当社では、親会社である外国法人からの出向者である外国人の役員に対して、毎月1万5000米ドルの給与を支給日のレートで円に換算し支給しています。為替レートの変動により、毎月の円換算後の支給額は変動し同額とはなりませんが、この場合「定期同額給与」に該当しないか。
A 定期同額給与に該当する
定期同額給与は、①1カ月以下の一定の期間ごとに支給時期があり、②各支給期間における支給額が同額である給与をいう(法法34条1項1号)。
よって、毎月の支給時期に同額の支給額である必要があるが、ここでいう同額とは、支給額を円換算した金額が同額であることまで求めるものではない。
ご質問のケースでは、毎月支給する金額自体(1万5000米ドル)が変動しない限り、定期同額給与に該当することになる。
Q2 「信託型ストックオプション」の課税問題
役員にストックオプションを付与する計画です。近年話題の「信託型ストックオプション」の課税問題について教えてください。
A 信託型ストックオプションとは、役員や社員に対する報酬として、ストックオプション制度と信託制度を組み合わせたもの。従来、信託型ストックプションに関わる会社側では権利行使時には課税がなく、株式の売却時に譲渡所得としての課税がされるという認識で導入されていたが、2023(令和5)年5月に国税庁は、権利行使時に給与所得税が課税されるとの見解を発表した
1.ストックオプション税制の基本
ストックオプション税制とは、以下の特徴を持つ課税制度である。
① 権利行使時の課税繰り延べ
取得株式の時価と権利行使価額との差額に対する給与所得課税を、株式売却時まで繰り延べる。
② 株式売却時の課税方法
株式の売却価格と権利行使価額との差額を譲渡所得として課税する。
この制度により、権利行使時点での課税を避け、実際に株式を売却する時まで課税を繰り延べることができる。
ストックオプション税制の適用を受けるためには、次に掲げるような要件を満たす必要がある。要件を満たすストックオプションは、「税制適格ストックオプション」と一般的に呼ばれる。
項 目 | 要 件 |
1.付与対象者の範囲 | 会社およびその子会社の取締役、執行役および使用人 一定の要件を満たす社外高度人材 (大口株主およびその特別関係者を除く) |
2.権利行使期間 | 付与決議日後2年を経過した日から付与決議日後10年を経過する日まで (設立の日以後の期間が5年未満の非上場会社においては、付与決議日後2年を経過した日から付与決議日後15年を経過する日まで) |
3.権利行使価額 | 権利行使価額が契約締結時の株式の価額相当額以上 |
4.権利行使限度額 |
権利行使価額の年間の合計額が1200万円を超えない 令和6年度税制改正において、スタートアップの人材獲得力向上のため、一定の株式会社が付与するストックオプションについては年間の権利行使価額の限度額が引き上げられた。 ・上限2400万円/年への引き上げ ・上限3600万円/年への引き上げ |
5.譲渡制限 | 譲渡禁止 |
6.発行形態 | 無償であること |
7.株式の交付 | 会社法238条1項に定める事項に反しないこと |
8.株式の管理 | 行使により取得する株式について金融商品取引業者等の振替口座簿に記載もしくは記録を受け、またはその営業所等に保管の委託もしくは管理等信託がされること 令和6年度改正において譲渡制限株式については、株式会社により管理されることでも満たす |
2.信託型ストックオプションの課税問題について
信託型ストックオプションとは、役員や社員に対する報酬として、ストックオプション制度と信託制度を組み合わせたものである。
発行会社が信託に預けたストックオプションを受託者が保管し、信託期間満了時に業績貢献度に応じてポイントを付与し、ストックオプションと交換する仕組みとなっている。
従来のストックオプションと比較して、信託型ストックオプションには以下のようなメリットがある。
① 割当先の後決めが可能:発行時に割当先を決定せず、後から会社への貢献度に応じて公平に付与できる
② 大きなキャピタルゲインの獲得:低い株価で発行したストックオプションを信託に預けることで、後から入社した社員も大きな利益を得られる可能性がある
③ コスト効率:まとめて発行するため、登記や実務の費用が一度で済み、トータルの発行コストが低くなる
一方で、信託型ストックオプションには幾つかのデメリットも存在する。
① 委託者の金銭的負担:ストックオプション発行時に委託者(主に創業者)が個人資産から支払う必要がある
② ポイント付与規程の作成の難しさ:社員への公平性やモチベーション向上、株主の利益保護など、さまざまな要素を考慮しながら適切なプランを設計する必要がある
③ 専門家や信託会社の協力が必須:株式の購入や配布に伴う費用、税金、信託会社への手数料などが発生するため、慎重な資金計画と予算配分が必要となる
信託型ストックオプションの課税に関しては、信託型ストックオプションに関わる会社側と国税庁の間で見解の相違が生じた点に注意が必要である。従来、会社側は権利行使時には課税がなく、株式の売却時に譲渡所得としての課税がされるという認識で導入されていた。しかし、2023(令和5)年5月に国税庁は、権利行使時に給与所得税が課税されるとの見解を発表した。
信託型ストックオプションにはさまざまなメリットとデメリット、そして導入や運用に際しての注意点、課税上の注意点が存在する。そのため、導入を検討する際には、自社の状況や目的を慎重に検討し、弁護士や税理士などの専門家のサポートを受けることが重要となる。
Q3 役員に社宅を貸与する場合
当社では、このたび役員にも社宅を貸与することにしました。賃貸料は相場よりも低い価額を徴収する予定ですが、税務上、どのような問題が生じますか。
A 徴収した賃貸料が本来受け取るべき「通常の賃貸料相当額」に満たない場合には、その差額については役員に対する経済的利益の供与となり、給与として課税する
1.役員に対する社宅の貸与
会社が、役員に社宅を貸与する場合、徴収した賃貸料が本来受け取るべき「通常の賃貸料相当額」に満たない場合には、その差額については役員に対する経済的利益の供与となり、給与として課税することになる(所基通36—15)。
なお、社員に対して貸与する場合と異なり、通常の賃貸料相当額の50%以上かどうかにかかわらず、差額が生じた場合には、その差額について課税されることになる。
また、「通常の賃貸料相当額」の計算も、社員の場合と異なり、住宅の種類ごとに次のように細かく規定されている。
2.賃貸料相当額とは
賃貸料相当額は、会社が役員に社宅を提供する際、その社宅の使用に伴う経済的利益を金銭的に評価したものになります。金額は、貸与する社宅の床面積により小規模な住宅とそれ以外の住宅とに分け、下記3.および4.のとおり計算する。ただし、この社宅が、社会通念上一般に貸与されている社宅と認められないいわゆる豪華社宅である場合は、下記5.のとおり、計算式の適用はなく、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額になる。
3.小規模な住宅である場合の通常の賃貸料相当額
小規模な住宅とは、建物の耐用年数で異なる。
① 建物の耐用年数が30年以下→床面積が132㎡以下である住宅
② 建物の耐用年数が30年超→床面積が99㎡以下である住宅
マンションなどの区分所有の住宅は、専用部分の床面積と共用部分の床面積を案分した合計の面積で判定する。
この場合の通常の賃貸料相当額は次の算式に基づき計算する。この算式は、社員と同様である(第5回のQ1参照)。

4.小規模な住宅でない場合の通常の賃貸料相当額
役員に貸与する社宅が小規模住宅に該当しない場合には、その社宅が自社所有の社宅か、ほかから借りた住宅なのかにより計算方法が異なる(所基通36—40)。
(1)自社所有の社宅の場合

なお、上記の算式中「木造家屋以外の家屋」とは、建物の耐用年数が30年を超える住宅用の建物をいい、木造家屋とは、当該耐用年数が30年以下の住宅用の建物をいう。
(2)ほかから借りた住宅の場合
会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記(1)で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になる。
5.豪華な社宅の通常の賃貸料相当額
豪華な社宅である場合は、時価(実勢価額)が賃貸料相当額になる。
豪華な社宅かどうかは、床面積が240㎡を超えるもののうち、取得価額、支払い賃貸料の額、内外装の状況等、各種の要素を総合勘案して判定される。なお、床面積が240平方メートル以下のものであっても、一般に貸与されている住宅等に設置されていないプール等の設備や役員個人の嗜好を著しく反映した設備等を有するものについては、いわゆる豪華社宅に該当することとなる。
Q4 役員の子弟の留学費用
当社役員の子弟が、語学留学後に入社する予定です。留学は、入社後英語を必要とする部署に配属するためのものです。留学費用を当社が全額負担することにしましたが、税務上どのような問題がありますか。
A 役員の子弟の留学費用は、役員に対する給与を支給したものとして取り扱い、役員給与として課税される
会社が役員の修学のため、または役員や社員の子弟などの特別の関係にある者の修学のための学資金等として金品を支給する場合、その金品は、原則としてその役員または社員の給与として課税される(所法9条1項15号)。
したがって、ご質問のような役員の子弟の留学費用は、役員等と特別な関係にある者の学費に充てられるためのものなので、役員に対する給与を支給したものとして取り扱い、役員給与として課税されることになる(所基通9—15)。
Q5 役員のみの慰安旅行
決算が終わり、役員だけで1泊2日の慰安旅行を行いました。この旅行費用は会社が負担することになりますが、税務上の取り扱いはどのようになりますか。
A 役員のみの慰安旅行は、会社業務に直接関係ないため、本来個人が負担すべき費用を会社が負担した場合として、役員に対する経済的利益の供与とされ、役員給与として取り扱われる
1.旅行費用の負担の取り扱い
会社が役員や社員に対して日頃の労をねぎらうために社員旅行を行う場合、その旅行費用が交際費、給与または福利厚生費等のいずれに該当するかについては、旅行の目的、参加する役員、社員の範囲または旅行の内容等から判断することになる。
ご質問のケースのような役員のみの慰安旅行を行う場合には、その慰安旅行は会社業務に直接関係ないものと考えられる。
本来個人において負担すべき費用を会社が負担したとして、その役員に対する経済的利益の供与とされ、役員給与として取り扱われることになる。
2.交際費、福利厚生費となる旅行費用
交際費または福利厚生費に該当するような旅行は、次のようなものになる。
(1)交際費に該当する場合
得意先等を招待して行われる旅行については、その同行する役員または社員の費用も交際費等に該当する。
(2)福利厚生費に該当する場合
全社員を対象とする一定の慰安旅行で、社会通念上一般に行われているものについては、その費用は福利厚生費に該当する。
Q6 役員会後の飲食費用の負担
役員会を開催しましたが、会議が長引き夜遅くなってしまいました。そこで会議終了後に近所の飲食店で簡単な飲み会を行いました。この飲食費用は会議の延長と考えますが、税務上はどのような取り扱いになりますか。
A 本ケースの飲食費用は、内容、対象者から判断すると交際費に該当する
会議に際して、社内または通常会議を行う場所において通常供与される昼食の程度を超えない飲食物等の接待に要する費用は、交際費に該当せず、会議費に該当することになる(措通61の4(1)—21)。
ご質問の飲食費用は、会社の業務の都合上、夜遅くまでの会議となってしまったために支出されたものではあるが、通常会議を行う場所において供与される昼食程度の範囲内とは考えられない。また、役員のみの特定の者の参加となっており、おおむね一律に社内において供与される通常の飲食費用にも該当しないので、交際費に該当すると考えられる。
Q7 会社役員賠償責任保険の負担
株主代表訴訟などに備え、「会社役員賠償責任保険」へ加入しました。この保険は、基本契約と特約契約が自動的にセットされているものです。会社がこの保険料を負担した場合の取り扱いはどうなりますか。
A 基本契約の保険料は給与課税されないが、特約契約の保険料は役員個人が本来負担すべきものなので、会社が負担した場合は、役員に対する経済的利益を供与したものとして給与課税される
1.会社役員賠償責任保険とは
会社役員賠償責任保険は、役員が業務の遂行に基因して取引先等の第三者に損害を与えた場合に提訴される「第三者訴訟」や、会社に損害を与えた場合に提訴される「株主代表訴訟」の訴訟費用と損害賠償金を補償するための保険である。
多くの会社役員賠償責任保険は、基本契約と特約が自動的にセットされている。基本契約だけでは株主代表訴訟で敗訴した場合の損害賠償金が免責されるだけの取り扱いになってしまうので、特約契約に加入することで、その損害賠償金が補償されることになるからである。
この保険の保険料を会社が負担した場合、負担した契約の区分に応じて取り扱いが異なる。
2.基本契約の保険料の取り扱い
基本契約の保険料は、会社に賠償の資力がないこと等を理由に、その役員に責任追及をするために提訴される「第三者訴訟」および「株主代表訴訟」において、役員が勝訴した場合の争訟費用を補償する部分の保険料となる。そのため、会社が負担する保険料は、会社の損害賠償義務の履行を確実にするための費用と考えられる。
したがって、会社が基本契約の保険料を負担しても、役員に対する経済的利益はないものとして、給与として課税されない。
3.特約契約の保険料の取り扱い
特約契約の保険は、株主代表訴訟で役員が敗訴した場合にその損害賠償金および訴訟費用を補償するものであり、その保険料は役員個人が本来負担すべきものと考えられる。
したがって、特約契約の保険料を会社が負担した場合は、役員に対する経済的利益を供与したものとして、給与としての課税がされることになる。
各役員の給与とすべき保険料は、その会社の実情に応じて合理的に配分すべきものとなり、次のような方法で配分することが認められている。
① 役員の人数で均等に配分する方法
② 役員報酬に比例して配分する方法
③ 会社法上の役職別に配分する方法
Q8 役員が海外出向する場合
役員が海外出向する場合、社員が海外出向するときと比べて所得税の課税関係は変わりますか。
A 海外現地法人に出向する場合でも、日本で支払われる役員給与は源泉徴収が必要。ただし、その役員が、海外支店長等として常時勤務するときは、日本で支払われる国外勤務に対応する役員給与は国外源泉所得とされて源泉徴収の必要はない
1.原則的取り扱い
出向者が日本法人の役員の場合、その勤務地が国内か国外かに関係なく、国外で行う勤務に対する給与についても、国内源泉所得として取り扱われる。
したがって、海外現地法人に出向する場合でも、日本で支払われる役員給与は、原則20.42%(源泉所得税20.00%、復興特別所得税0.42%の合計)の源泉徴収が必要になる。
2.例外的取り扱い
日本法人の役員が、海外支店長等として、常時その支店に勤務するようなときは、日本で支払われる国外勤務に対応する役員給与は国外源泉所得とされて、源泉徴収の必要はない(所基通161—42)。
また、日本法人の役員が、国外にある子会社に使用人として常時勤務する場合で、次のすべての要件を満たしているときも、勤務に対する対価は国外源泉所得とされる(所基通161—43)。
① その子会社の設置が現地の特殊事情に基づくものであって、その子会社の実態が日本法人の支店、出張所と異ならないものであること
② その役員の子会社における勤務が日本法人の命令に基づくものであって、その日本法人の使用人としての勤務であると認められること
なお、この判定は、実態を考慮する必要があるものなので、慎重な判断が求められる。
執筆者プロフィール
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飯塚和正 いいづか かずまさ アクタス税理士法人 パートナー 税理士 中堅・中小法人から上場企業に対する税務コンサルティング業務を中心に、会計や経営、経理に関するコンサルティング業務に従事。「お客様の身になって考える」ことを常に意識し、お客様の成長と発展のために必要となるコンサルティングサービスの提供を心掛けている。 |
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藤田益浩 ふじた ますひろ アクタス税理士法人 ディレクター 税理士 中堅・中小企業への税務コンサルティングを中心に取り組んでいる。同族企業経営者の身近なアドバイザーとして、法人・個人双方の立場で親身なコンサルティングを提供。税務や会計に関するセミナー講師も多数行っている。 |
法人プロフィール
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アクタス 税理士法人 アクタスグループは、税理士など約230名で構成する会計事務所グループで、東京(赤坂、立川)、大阪および長野の計4拠点で活動している。中核の「アクタス税理士法人」では、税務相談・申告、国際税務、組織再編、企業再生、相続申告など専門性の高い税務コンサルティングサービスを提供している。 |