大学生の就職活動や企業の採用選考で、生成人工知能(AI)を活用する動きが広がる。自己PR文を短時間で作成できるアプリを、就活サイトの運営企業が学生に無料提供。企業も面接に利用する。就活の実態に詳しい識者は「AIで得た回答をそのまま使って内定を取れたとしても、入社後に仕事が合わないと悩むかもしれない」と安易な利用を戒めている。
就活サイトを運営するワンキャリア(東京)は、志望企業に提出するエントリーシートの定番の項目「学生時代に力を入れたこと」の文章を、生成AIが自動作成するアプリを2023年に開発した。
「留学」「サークル」「アルバイト」などからアピールしたい分野を選んだ上で、「行動力」「粘り強さ」「リーダーシップ」などから自らの持ち味を選択する。留学やサークルなどの経験を具体的に文章で入力し、志望業界と文字数を指定すると、数秒で一人一人に合った文章を仕上げる。
AIは過去に学生から就活サイトに寄せられた計約15万件の体験記や、エントリーシートの文章を参考にする。ワンキャリア技術開発部の江副廉人さんは「AIの文章に自分らしい内容を付け加えて推敲してほしい」と話す。
ITベンチャーのバリエタス(東京)は志望学生にオンライン面接をする「AI面接官」を開発し、企業の採用部署に提供している。生成AIはエントリーシートに書かれた志望動機や自己PR文から特徴を見つけ、学生への質問を作成して音声AIで読み上げる。
学生が「サークル活動で協調性を養った」というようにあいまいな返答をすると、「役割やポジションを具体的に説明してください」というように質問を重ねる。30分程度の面接を終えると「主体性」や「実行力」などの16項目を評価し、約2千字で結果をまとめる。
コンビニ大手のローソンは26年採用の選考から、バリエタスのAI面接官を導入した。書類選考を通過した学生にAI面接を受けてもらい、採用担当者はAI面接の結果を見ながら、1次面接をした。
岩田泰典人事企画部長は「エントリーシートだけでは分からない人となりを、AIがリポートにまとめてくれる。限られた面接時間の中で、学生の潜在能力を引き出したい」と語った。
リクルートの調査では、26年3月に卒業予定の大学生らの56%が、就職活動にAIを利用したことがあると答えた。インディードリクルートパートナーズリサーチセンターの栗田貴祥上席主任研究員は「AIで生成された自己PR文が等身大の自分なのかどうかを自問自答してほしい」と学生に助言する。企業のAI面接については「人の判断と組み合わせて活用するのが望ましい。効率的な採用につながるため、導入は増えるのではないか」と予測した。
(共同通信社)